上 下
25 / 1,609

173~179

しおりを挟む
【173.切れそう】
 男達が麻雀に熱中している時、女達は服を取っ替え引っ替え試着していた。

「ふあっ! こんなに滑らかな着心地の服なんて初めて!」
「シルクではなくて、コットンですよね? それでこの肌触りですか」
「これ見てよ! 織ってる糸がほっそいの!」
「凄いですね……。こんなに細くしたら紡ぐ途中で直ぐに切れそうなのに。それこそマホみたいに」
「何よそれ! あたしが直ぐにキレるみたいじゃないの!」
「ほら、キレた」
「ぐぬぬ……」

 魔法使いは顔を真っ赤にしながら拳を戦慄かさせた。



【174.すーすー】
「まったくもう」

 魔法使いはプリプリ怒るが、いつものことなのでヒーラーはスルーする。

「そんなことより、これどうでしょう? すっごいひらひらです!」

 ヒーラーがくるりと一回転すると、着ている夏向きのフレアワンピースの裾がふわりと広がった。明るい色彩がヒーラーの清楚さを一層引き立てるようだ。

「悔しいけど、似合ってるわ! あたしのはどう?」

 魔法使いは肩出しのブラウスにプリーツのミニスカートで決めている。

「素敵です!」

 ヒーラーも絶賛だ。しかし魔法使いがスカートの裾を抑えて表情を曇らせる。

「どうかしました?」
「何か股がすーすーする……」



【175.別の何かが】
「それだけ短ければ風が直接当たりますよね。どこにとは言いませんが」
「それに、少し動いただけで絶対見えちゃうよね?」

 魔法使いはミニスカートの裾を引っ張り下げる。下がりはしないのだが。

「恐らくは……。だけど、異世界の人は平気で穿いているのでしょうか……」
「まさかぁ。オリエさんじゃあるまいし。……それとも異世界の人はみんなオリエさんみたいなのかしら?」
「それこそまさかです。別の何かがきっと有ります」

 魔法使いとヒーラーは眉を顰めてにらめっこする。
 すると、パサッと何かが落ちる音がした。

「「こ、これは……」」

 下着のカタログであった。

 世話の焼ける……。

 魔王は独りごちた。勿論カタログは魔王の仕業である。



【176.失敗したかな】
「「破廉恥な!」」

 下着のカタログを開いた瞬間、魔法使いとヒーラーは声を揃えた。

「異世界の女性って、こんな格好が当たり前なの!?」
「オリエさんのような方ばかりなのでしょうか!」

 その瞬間、魔王はカクッと肩を落とした。そして「んな訳、あるか!」と内心で突っ込むが、はたと気付く。
 魔王自身はその目で異世界を見知っているが、彼女達は知らない。知らなければ最初に見たものに印象が左右されやすいのだ。
 魔王は「失敗したかな?」と首を傾げる。

「魔王。魔王の番だぞ」

 ハンターに呼び掛けられて、魔王は麻雀の途中だったのを思い出した。

「すまぬ。少し考え事をした」

 魔王は牌を引く。

「あ、ツモ」
「ぐはぁ!」

 剣士が頭を抱えた。麻雀はまだまだ続くらしい。



【177.凄くリアル】
「さすがにこんな服はあり得ないわよね……」
「まったく破廉恥すぎます」

 そう結論付いたので、魔法使いは下着のカタログを閉じようとした。
 しかしそこでヒーラーが待ったを掛ける。

「待ってください。この絵って、凄くリアルじゃありませんか? まるで現実を写し取ったみたいに」
「そう言われれば……」

 2人は改めてカタログをしげしげと見る。

「どうやって描いてるのかしら……」

 2人は首を捻った。

 そりゃ、写真は現実を写し取るものだからな……。

 魔王は聞き耳を立てながら、どう説明したものかと、頭を捻った。



【178.重ね着】
 突然、ヒーラーに閃きが走る。

「もしかしたら、この絵の通りにする必要は無いのではありませんか?」
「どう言うこと?」
「このオリエさんが着るような服と先程の服を重ね着すれば良いのです」

 寒ければ誰しも重ね着するのだから、重ね着の概念を誤解することはない。重ね着によってミニスカートで股がすーすーしなくなるのも容易に想像が付く。

「あ、そっか! そうよね! セヒイラって頭良いわ!」
「そ、それ程でも……」

 褒められて、顔を赤らめつつ照れるヒーラーである。割とお調子者らしい。この世界でも常識的な知恵の筈なのだが。

「じゃあ、早速この服を探してみましょう」
「みましょう!」

 魔法使いとヒーラーは衣裳部屋の探索を始めた。写真のことは脇に置いたらしい。
 何せこの部屋は広大だ。魔王は大手のデパートの売り場を丸ごとコピーしたのだから。



【179.うっかり】
「ちょっとぉ、どんだけ広いのよぉ」
「これが全部衣類だから信じられませんね……」

 魔法使いとヒーラーは衣裳部屋を右往左往するが、目的の下着コーナーに行き着かない。少々うんざり気味だ。
 もしも彼女らが案内板の文字を読めたら疾うに辿り着いていることだろう。読めなくても、経験則が利用できるなら概ねどこら辺に在るかが想像できるものだが、生憎とその経験も無い。
 これには魔王もうっかりを認めざるを得なかった。だがしかし、のこのこ助言に赴いたりしようものなら監視していたことを知られてしまう。

 頑張れー。

 魔王は内心で2人にエールを送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

魔法道具はじめました

浜柔
ファンタジー
 趣味で描いていた魔法陣によって間川累造は異世界へと転移した。  不思議なことに、使えない筈の魔法陣がその世界では使える。  そこで出会ったのは年上の女性、ルゼ。  ルゼが営む雑貨店で暮らす事になった累造は、魔法陣によって雑貨店の傾いた経営を立て直す。 ※タイトルをオリジナルに戻しました。旧題は以下です。 「紋章魔法の始祖~魔法道具は彼方からの伝言~」 「魔法陣は世界をこえて」

魔王へのレクイエム

浜柔
ファンタジー
五百年前に世界を滅ぼし掛けた魔王はダンジョンの奥底で微睡み続ける。 その魔王を訪れる者が居て、その魔王の真実を探す者が居て、そしてその魔王と因縁を持つ者が五百年前から召喚された。 ※重複投稿。https://ncode.syosetu.com/n5955ez/

冒険者の狂詩曲《ラプソディ》~碧い瞳の治療術士~

浜柔
ファンタジー
 冒険者とは体の良い言葉だ。その日暮らしの人々を言い換えただけなのかも知れない。  社会の歯車に成り得ず、夢と自由を求めた人々。  だが彼らとて生きている。人生と言う旅路に於いて冒険をしているのだ。  そしてその冒険は終着点に辿り着くまで途切れることは無い。  そう、冒険者は今日を生き、過去と明日を夢に見る。 ※タイトルを変更しました(主題を原点に戻し、副題はシンプルに)

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...