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140~146
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【140.焼き台】
皆が揃ったのを見計らったように、シェフが串に刺した肉や野菜を大量に運んで来る。
「今晩はバーベキューだゾ」
「ほう」
「5人も居るのだからナ。慣れた料理に近い方が良いだろウ」
「ほほう」
魔王はシェフの気配りに感心した。魔王とて、最初は馴染みの無かった料理に面食らったものだ。見慣れたものと似た食材が見慣れた料理に似た料理になっていれば、抵抗無く食べやすい。
「焼き台を出してくレ」
「うむ」
魔王はシェフに乞われるままに、バーベキューの焼き台をコピーして設置した。そして焼き台に炭を入れて火を点ける。
魔王とシェフが夫婦みたいに見えるのは言うまでもなく気のせいである。
【141.バーベキュー】
単に肉を焼くだけの料理ならどこにでも有る。シェフの料理に違いがあるとするなら、下拵えとソースだ。下味を付け、食材によっては隠し包丁を入れる。何より、火の通り方の差まで計算して食材を切り揃えていて、1本の串で焼き上がりに差が出ないように気を配られている。
そこにシェフ特製のソースを塗って焼き上げれば、食欲をそそる香りが立ち籠める。
「くぅ。何て匂いだ。腹が鳴ってしょうがない」
「堪らんな、これは……」
剣士とハンターが待ち切れないとばかりに呟けば、槍士が涎を垂らして目を爛々と輝かせる。
その槍士の今にも襲い掛からんとする様子に、オリエは軽く引いた。
【142.恥ずかしいわね】
「焼けたゾ。食エ」
シェフは焼き上がった肉や野菜を保温程度の火力の焼き台に移す。この焼き台から銘々で取って食べれば、焼き上がりから多少の間が空いても焼き立てと同じに味わえる。
「おおお! 待ってました!」
「長かった!」
「フガフガフガ……」
剣士とハンターが一言言う間にも、槍士は串を掴んで肉を頬張っていた。
「もう! 恥ずかしいわね!」
きゅるるる……。
男達を咎める魔法使いであったが、その腹が物欲しげに鳴った。
「わたし達も戴きましょう」
「うん……」
顔を赤らめながら串に手を伸ばす魔法使いであった。
【143.見かねた】
出遅れたのはオリエだ。しかし欠食児童のようにしている5人の中には入りにくい。すると、それを見かねたように、シェフが焼き上がった肉や野菜をオリエと魔王とに取り分けて持って来てくれた。
「ありがとう!」
オリエは早速頬張る。
「美味しい!」
花が咲くような笑みを零す。
これにはシェフも満足げに頷いた。
一方、魔王は黙々と頬張るばかりであった。
【144.バーベキュー丼】
「はぁー、食った食った」
「堪能した」
「ほんとに美味かった」
5人パーティーの男達は、シェフが魔王とオリエのために確保していた串以外を全部食べ尽くした。満腹しても尚食べ続けたような3人だったが、さすがに食材が尽きれば終わりである。
「ちょ、ちょっと!」
一足先に口を休めていた女達がそれに気付いて焦りを見せる。
しかしシェフは全く意に介さずに料理を続ける。丼にご飯をよそい、軽く焼肉のたれを垂らしたら焼き上がった肉と野菜を串から外してご飯の植えに乗せる。その上からまたたれを掛け、三つ葉を散らしたらバーベキュー丼の出来上がりだ。
「うん、うん、こうでなくちゃな」
魔王は丼を抱えて掻き込み。オリエもまた忙しなく箸を丼と口との間で往復させては華やかな笑顔を見せる。
「「「何だ、それは……」」」
男達が恨めしそうに丼を見詰めた。
【145.アイスクリーム】
男達の恨めしげな様子の一切をスルーして、シェフがパーティーの5人にひんやりと霜を付けた紙の容器を差し出した。
「お前達はこれを食エ。アイスクリームと言ウ」
これは予め魔王がコピーしていた市販の高級品だ。
「冷た!」
渡された容器の冷たさに思わず声が出た魔法使いだ。しかし、思ったより冷たかっただけで、持てないようなものでもない。慎重に蓋を開ける。
そして中身に目を奪われた。冷たい何かだ。そこから仄かに香る甘い匂いに鼻腔をくすぐられる。
手を付けるのが勿体なさそうにするものの、端の方が僅かに融けた様子を見せると、慌てた様子でシェフから目の前に差し出されているスプーンを掴んでアイスクリームをすくって口に運ぶ。
「冷たいけど美味しい!」
満面の笑みであった。
【146.気になって】
ヒーラーもまたアイスクリームに魅入られていた。
「こんなに寒い所なのに。冷たい食べものなのに。判っていても止められません」
部屋は相変わらずこたつに入るのに相応しい気温に保たれているので、バーベキューの焼き台の熱が当たる場所でも若干冷える。それでも食べるのを止められない魔法使いとヒーラーだ。
「う……」
男達の誰からともなく呻くような声が漏れた。顔を見合わせてからそれぞれにアイスクリームへと目を落とす。魔王とオリエが食べているものも気になるが、アイスクリームも気になって仕方がない。
徐に蓋を開けてスプーンを手にしてアイスクリームを掬う。
「「「美味い」」」
バーベキュー丼のことが頭からすっぽり抜けて、アイスクリームに夢中になる男達であった。
皆が揃ったのを見計らったように、シェフが串に刺した肉や野菜を大量に運んで来る。
「今晩はバーベキューだゾ」
「ほう」
「5人も居るのだからナ。慣れた料理に近い方が良いだろウ」
「ほほう」
魔王はシェフの気配りに感心した。魔王とて、最初は馴染みの無かった料理に面食らったものだ。見慣れたものと似た食材が見慣れた料理に似た料理になっていれば、抵抗無く食べやすい。
「焼き台を出してくレ」
「うむ」
魔王はシェフに乞われるままに、バーベキューの焼き台をコピーして設置した。そして焼き台に炭を入れて火を点ける。
魔王とシェフが夫婦みたいに見えるのは言うまでもなく気のせいである。
【141.バーベキュー】
単に肉を焼くだけの料理ならどこにでも有る。シェフの料理に違いがあるとするなら、下拵えとソースだ。下味を付け、食材によっては隠し包丁を入れる。何より、火の通り方の差まで計算して食材を切り揃えていて、1本の串で焼き上がりに差が出ないように気を配られている。
そこにシェフ特製のソースを塗って焼き上げれば、食欲をそそる香りが立ち籠める。
「くぅ。何て匂いだ。腹が鳴ってしょうがない」
「堪らんな、これは……」
剣士とハンターが待ち切れないとばかりに呟けば、槍士が涎を垂らして目を爛々と輝かせる。
その槍士の今にも襲い掛からんとする様子に、オリエは軽く引いた。
【142.恥ずかしいわね】
「焼けたゾ。食エ」
シェフは焼き上がった肉や野菜を保温程度の火力の焼き台に移す。この焼き台から銘々で取って食べれば、焼き上がりから多少の間が空いても焼き立てと同じに味わえる。
「おおお! 待ってました!」
「長かった!」
「フガフガフガ……」
剣士とハンターが一言言う間にも、槍士は串を掴んで肉を頬張っていた。
「もう! 恥ずかしいわね!」
きゅるるる……。
男達を咎める魔法使いであったが、その腹が物欲しげに鳴った。
「わたし達も戴きましょう」
「うん……」
顔を赤らめながら串に手を伸ばす魔法使いであった。
【143.見かねた】
出遅れたのはオリエだ。しかし欠食児童のようにしている5人の中には入りにくい。すると、それを見かねたように、シェフが焼き上がった肉や野菜をオリエと魔王とに取り分けて持って来てくれた。
「ありがとう!」
オリエは早速頬張る。
「美味しい!」
花が咲くような笑みを零す。
これにはシェフも満足げに頷いた。
一方、魔王は黙々と頬張るばかりであった。
【144.バーベキュー丼】
「はぁー、食った食った」
「堪能した」
「ほんとに美味かった」
5人パーティーの男達は、シェフが魔王とオリエのために確保していた串以外を全部食べ尽くした。満腹しても尚食べ続けたような3人だったが、さすがに食材が尽きれば終わりである。
「ちょ、ちょっと!」
一足先に口を休めていた女達がそれに気付いて焦りを見せる。
しかしシェフは全く意に介さずに料理を続ける。丼にご飯をよそい、軽く焼肉のたれを垂らしたら焼き上がった肉と野菜を串から外してご飯の植えに乗せる。その上からまたたれを掛け、三つ葉を散らしたらバーベキュー丼の出来上がりだ。
「うん、うん、こうでなくちゃな」
魔王は丼を抱えて掻き込み。オリエもまた忙しなく箸を丼と口との間で往復させては華やかな笑顔を見せる。
「「「何だ、それは……」」」
男達が恨めしそうに丼を見詰めた。
【145.アイスクリーム】
男達の恨めしげな様子の一切をスルーして、シェフがパーティーの5人にひんやりと霜を付けた紙の容器を差し出した。
「お前達はこれを食エ。アイスクリームと言ウ」
これは予め魔王がコピーしていた市販の高級品だ。
「冷た!」
渡された容器の冷たさに思わず声が出た魔法使いだ。しかし、思ったより冷たかっただけで、持てないようなものでもない。慎重に蓋を開ける。
そして中身に目を奪われた。冷たい何かだ。そこから仄かに香る甘い匂いに鼻腔をくすぐられる。
手を付けるのが勿体なさそうにするものの、端の方が僅かに融けた様子を見せると、慌てた様子でシェフから目の前に差し出されているスプーンを掴んでアイスクリームをすくって口に運ぶ。
「冷たいけど美味しい!」
満面の笑みであった。
【146.気になって】
ヒーラーもまたアイスクリームに魅入られていた。
「こんなに寒い所なのに。冷たい食べものなのに。判っていても止められません」
部屋は相変わらずこたつに入るのに相応しい気温に保たれているので、バーベキューの焼き台の熱が当たる場所でも若干冷える。それでも食べるのを止められない魔法使いとヒーラーだ。
「う……」
男達の誰からともなく呻くような声が漏れた。顔を見合わせてからそれぞれにアイスクリームへと目を落とす。魔王とオリエが食べているものも気になるが、アイスクリームも気になって仕方がない。
徐に蓋を開けてスプーンを手にしてアイスクリームを掬う。
「「「美味い」」」
バーベキュー丼のことが頭からすっぽり抜けて、アイスクリームに夢中になる男達であった。
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