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【69.退屈は】
「魔王は普段、何をしているの?」
「何って?」
「ここのずっと居て退屈しないのかな? って」
「しないな。する事は一杯だ」

 好み漫画を読み尽くそうとするだけでも10年は優に掛かる。小説やゲームもまた然りだ。
 さすがの魔王でもそればかりでは飽きるので、ぼんやりお茶を飲むのも必要だ。
 退屈する暇は無い。

「うみゅ……」

 話を聞いたオリエの口が波打った。



【70.最初は積み木】
 もう随分前のこと。魔王がその世界を見付けて最初に手にしたのはおもちゃやパズルだった。これなら説明書を読めなくても大丈夫。
 しかし説明されなければ使い方が判らないものも多い。現物を見ただけの魔王独りにできる事は限られている。
 積み木。

「立派なお城が出来たぞー。だから何?」

 ゴムボール。

「投げて取って……、単調だ……」

 ジグソーパズル。

「……1つ仕上がったらもう十分だな」

 早々に飽きてしまった。



【71.ゲーム筐体】
 パズルなんかの単純なものには飽きた。そこで魔王は現地人目線で町を散策中に見付けていたゲームセンターに視線を落とす。そしてゲームマシンをコピーした。これならコインを入れて、レバーやボタンを動かせば良いだけだ。
 ところが。

「動かん……」

 ゲームマシンがウンともスンとも言わない。電源が入っていないから当然だが、この時の魔王には判らなかった。



【72.電源】
 ゲームマシンが動かなかったからと言って、魔王は一度では諦めなかった。こんなこともあろうかと今まで複雑そうなものを避けていて、今回その通りになっただけなのだ。
 魔王はゲームマシンが動いている様子をつぶさに観察した。
 そして発見した。何かのケーブルの先に付けられたプラグが壁のコンセントに差し込まれている。
 魔王はコンセントをコピーして壁に取り付けた。電気? この時の魔王はそんなもの知らない。

「動かん……」



【73.言葉】
 魔王は一念発起して異世界の言葉の勉強を始めた。人の記憶だけコピーして自分に取り込むような都合の良いことはできないため、地道な努力が必要だ。
 だから外国人向けの会話教室を梯子して集中的に行った。

こなんちゃこんにちは

 魔王は発声は諦めた。聞き取りと読書さえできればいいのだ。
 しかし発声した方が単語を憶えやすいのもまた事実。

こばんちんこんばんわ

 本当に憶えやすいのか不安になった。



【74.面白いの?】
 苦労はあったが、魔王は異世界の言葉をマスターした。電気も使えるようになり、漫画や小説を読むのも、アニメを見たり、テレビゲームをしたりするのも思いのままだ。

「その漫画って、面白いの?」
「面白いぞ」

 魔王は手許の漫画をオリエに手渡した。
 しかしオリエには文字が読めない。文字が読めなければ話が解らないので面白いかどうかも判らない。

「うみゅ……」

 オリエの口が波打った。



【75.落ちゲー】
 魔王はテレビゲーム一式をコピーした。接続して、文字が判らなくてもできる所謂落ちゲーのカセットを差し込んで準備を整える。

「ゲームでもやってみろ」
「ええっ!?」

 魔王は及び腰のオリエに一つ一つ操作方法を教える。細かいルールは動かしながら憶えれば良いと、基本だけを教えた。

 ピコピコピコ、ピッ! ピコピコピコ、ピャヤーン!

「ふぁっ!」

 瞬く間にオリエの目は真剣だ。



【76.没頭】
 ピコピコピコ、ピッ! ピコピコピコ、ピャヤーン!

「ふぁっ! このっ!」

 パッパラピー。

「ああっ!」

 ピコピコ全裸でゲームをし続けるオリエの姿はシュールだ。
 しかしここにはオリエの姿に何かを感じる者は居ない。

「飯だゾ」
「もうちょっと待って!」
「さっきも言ったゾ」

 シェフも呆れ顔だ。
 骸骨だから判らないけど。



【77.サンドイッチ】
 ピコピコピコ、ピッ! ピコピコピコ、ピャヤーン!

「やった!」

 オリエはゲームに熱中したままだ。

「しようのない奴ダ」

 シェフは厨房に戻ってサンドイッチを拵えて来たら、オリエの口に押し込んだ。

 ムグモゴ、ゴクン。

 口と喉だけが動いた。
 シェフはまたサンドイッチをオリエの口に押し込む。
 世話焼きさんだった。
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