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第三章 魔王に敗北した勇者
第三十五話
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謁見の間で玉座に座る皇帝は少々ご機嫌斜めだ。寝起きに謁見とその内容について伝えられ、朝食もそこそこに謁見に臨んでいる。朝食の途中に謁見の内容を聞き、その対応も決めて指示を出す。料理の味なんてもう判りはしないのだ。謁見に立ち合っている宰相を始めとした文官数名と護衛の騎士数名、侍従長を含む侍従多数、それに騎士隊長とその配下の二十名ほども似たようなものだと考えて、若干の溜飲を下げていたりもする。
「何事に対して余の裁可を望むか申してみよ」
ご機嫌斜めだから言い方も少々投げ遣りになっている。
「恐れながら奏上奉ります」
ロイエンは畏まって話し出す。皇帝は一通りの話を伝え聞いていても、この場に立ち合っている者皆が聞いている訳ではない。証人としての役割も担って貰うことになるため、また一から説明をするのだ。
既に何回も同じ説明を繰り返したこともあってその語りは澱み無い。外交官と言う職業柄、話すのは得意な方で、侍従達に説明した時から詰まったりなどしていないが、何度も話す内により洗練されていた。ロイエン自身が「あんなのものでも役に立つこともあるものだ」と妙な感慨を覚えるほどに。
「あい解った。第三皇子コルネースと騎士フーバには禁固を申し渡す。騎士団長、手配せよ」
これは禁固を解除する裁可が為されるまでである。この場所や期限などの細かい事は謁見の間からの退出後に宰相配下の文官から伝えられる。
「ははっ」
騎士団長が畏まって受諾した。
皇帝は次にロイエンに向かって言う。
「事情を聞き取る対象はそなたが選別せよ」
「畏まりました」
「残る者には謹慎させよ。これも騎士団長、手配せよ」
これは事情聴取が済むまでである。
「ははっ」
「結果は追って知らせよ」
これは事情聴取の結果のことである。
「畏まりました」
裁可を言い終えた皇帝は宰相に向かって軽く手を振る。
「謁見はこれまでとする! 諸兄は下がられよ!」
宰相が告げるのを合図に、ロイエンと騎士団長とその配下の騎士は退出した。
ロイエンを見送った皇帝の表情は苦虫を噛み潰したようなものだ。宰相に向かってぼやきも出る。
「召喚に成功したなどと、真かのう?」
「彼の者の申す通りに断定はまだできかねますが、彼の者が虚偽を働く謂われもございません」
ロイエンは主にライナーダ王国との外交に重要な役どころを担っていて、悪戯に拘っている暇の持ち合わせなど無いのだ。それが召喚の儀絡みとなれば尚更だ。
「そうなのであろうな。厄介なことよ」
建前で言うなら勇者の召喚に成功したことを喜ばないといけない皇帝だが、出るのは溜め息ばかりである。
それと言うのも、勇者召喚の儀は神聖ログリア帝国が「ログリア」を標榜し続けるための体裁でしかないからだ。ログリア帝国にのみ伝わっていたとされる召喚魔法を引き継いだとして今の国名が有り、その証明として行っている。儀式の間隔はその時の事情によって一年から十年とまちまち。それでも建国以来の三百数十年間続けているので、回数は三桁に上る。その儀式では、魔法こそ発動するが、これまでに成功した例しが無い。成功しなければ本当に召喚魔法が引き継がれているかどうか判ったものではないのだ。
皇帝としては、ほぼ口伝頼みだっただろう大崩壊から建国までの百数十年の先祖の努力を無下にもしたくないが、もうログリアと決別する潮時だとも考えている。理由は単純なもので、神聖ログリア帝国の在る土地がプローゼンの土地だからだ。国民もプローゼンなら、皇帝の血も殆どがプローゼンで占められている。僅かに引いているログリアの血など、全身の一滴くらいのものか。そんな中で成功したと知らされたからまた困っている訳だ。
ただ、勇者召喚の儀が閑職扱いになっているのは何代も前からで、代々の皇帝が現皇帝と同じことを考えていたと想像するのは難くない。今回の成功が無かったとしても、代々の皇帝が決断できなかったものを現皇帝が決断できるかどうかは未知数である。
決断できないのは伝統を重視する派閥を無視できないためだ。特に召喚魔法に携わる魔法士は後世に伝えることと召喚を成功させることを使命としていて説得のしようが無い。
そしてその大半には純粋なプローゼンの血が流れている。
「何事に対して余の裁可を望むか申してみよ」
ご機嫌斜めだから言い方も少々投げ遣りになっている。
「恐れながら奏上奉ります」
ロイエンは畏まって話し出す。皇帝は一通りの話を伝え聞いていても、この場に立ち合っている者皆が聞いている訳ではない。証人としての役割も担って貰うことになるため、また一から説明をするのだ。
既に何回も同じ説明を繰り返したこともあってその語りは澱み無い。外交官と言う職業柄、話すのは得意な方で、侍従達に説明した時から詰まったりなどしていないが、何度も話す内により洗練されていた。ロイエン自身が「あんなのものでも役に立つこともあるものだ」と妙な感慨を覚えるほどに。
「あい解った。第三皇子コルネースと騎士フーバには禁固を申し渡す。騎士団長、手配せよ」
これは禁固を解除する裁可が為されるまでである。この場所や期限などの細かい事は謁見の間からの退出後に宰相配下の文官から伝えられる。
「ははっ」
騎士団長が畏まって受諾した。
皇帝は次にロイエンに向かって言う。
「事情を聞き取る対象はそなたが選別せよ」
「畏まりました」
「残る者には謹慎させよ。これも騎士団長、手配せよ」
これは事情聴取が済むまでである。
「ははっ」
「結果は追って知らせよ」
これは事情聴取の結果のことである。
「畏まりました」
裁可を言い終えた皇帝は宰相に向かって軽く手を振る。
「謁見はこれまでとする! 諸兄は下がられよ!」
宰相が告げるのを合図に、ロイエンと騎士団長とその配下の騎士は退出した。
ロイエンを見送った皇帝の表情は苦虫を噛み潰したようなものだ。宰相に向かってぼやきも出る。
「召喚に成功したなどと、真かのう?」
「彼の者の申す通りに断定はまだできかねますが、彼の者が虚偽を働く謂われもございません」
ロイエンは主にライナーダ王国との外交に重要な役どころを担っていて、悪戯に拘っている暇の持ち合わせなど無いのだ。それが召喚の儀絡みとなれば尚更だ。
「そうなのであろうな。厄介なことよ」
建前で言うなら勇者の召喚に成功したことを喜ばないといけない皇帝だが、出るのは溜め息ばかりである。
それと言うのも、勇者召喚の儀は神聖ログリア帝国が「ログリア」を標榜し続けるための体裁でしかないからだ。ログリア帝国にのみ伝わっていたとされる召喚魔法を引き継いだとして今の国名が有り、その証明として行っている。儀式の間隔はその時の事情によって一年から十年とまちまち。それでも建国以来の三百数十年間続けているので、回数は三桁に上る。その儀式では、魔法こそ発動するが、これまでに成功した例しが無い。成功しなければ本当に召喚魔法が引き継がれているかどうか判ったものではないのだ。
皇帝としては、ほぼ口伝頼みだっただろう大崩壊から建国までの百数十年の先祖の努力を無下にもしたくないが、もうログリアと決別する潮時だとも考えている。理由は単純なもので、神聖ログリア帝国の在る土地がプローゼンの土地だからだ。国民もプローゼンなら、皇帝の血も殆どがプローゼンで占められている。僅かに引いているログリアの血など、全身の一滴くらいのものか。そんな中で成功したと知らされたからまた困っている訳だ。
ただ、勇者召喚の儀が閑職扱いになっているのは何代も前からで、代々の皇帝が現皇帝と同じことを考えていたと想像するのは難くない。今回の成功が無かったとしても、代々の皇帝が決断できなかったものを現皇帝が決断できるかどうかは未知数である。
決断できないのは伝統を重視する派閥を無視できないためだ。特に召喚魔法に携わる魔法士は後世に伝えることと召喚を成功させることを使命としていて説得のしようが無い。
そしてその大半には純粋なプローゼンの血が流れている。
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