失声の歌

涼雅

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昔話

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「これは、このサーカス団に歌姫という存在がいなかった頃の話さ

 あの頃は…そうだね、サーカス団は子供を攫うという根も葉もない噂がたっていた頃だったから、10数年前のことだねぇ…」

サーカス団は孤独の集まりだ

サーカスは厳しい練習と、仲間との絆と信頼、失敗をすることは許されない舞台でできている

孤独を知っている者は、一度信じた者を、信じてくれた者を、簡単には裏切らない

少なくとも、僕の周りにいる団員はそんな人達だ

僕は浮浪者や、村で上手く馴染めず外れてしまった者、または家族や友人、恋人に先立たれてしまった者を呼び込んだ

僕のサーカス団はそういう人達で成り立っている

皆の得意なこと、好きなことを伸ばして、舞台で披露する

サーカスはそういう場でありたいと思ったんだ

孤独を知っている彼らへの、孤独にならない為の場所になればいいとそう願ったんだ

…僕も他人事ではないからね。

そんなサーカス団の中、色々な特技を持った人はいても歌姫はいなかった。

サーカス団は旅芸人だから、あらゆる村を転々としているのは知っているね?

どこの村にも歌が上手い人はいた

でも、皆孤独ではなかったんだ

孤独であることを望んでいるわけでは決してないよ

だけど、孤独を知る者の中に、孤独を知らない者が入ってきたらどうなるだろう

彼らには決定的な差が生まれるんだ

本当に辛い時、逃げ出すか否かだ。

孤独を知る者は、大抵、孤独だった時が人生の最底辺

逃げ出したら最後、生きていける保証はない。

だけど、孤独を知らない者は逃げ出しても家族や友人、恋人がいるからね

サーカスをやめたとしても、生きていけるツテがあるのさ

…残酷だと思うだろうか

逃げ出せないとわかっているから孤独な彼らを率いていることを。

…孤独から彼らを守る方法が、僕には他に見つけられなかった。それだけのことなんだ。

そういうことが理由で、歌が上手い人=歌姫とはならないんだ

しかも、その時は根も葉もない噂で持ちきりで、どの村に行ってもあまりいい待遇は受けられなかったっていうのもあるけれどね。

そんな中僕はとある村の孤児院へと向かったんだ

理由は単純

たまたま前を通った時に、綺麗な歌声が聞こえたから。

翌日、扉を叩いたよ

声の主に会いたくてね。

…孤児院でも噂は広がっていてね、子供達は皆僕に近づかなかったよ

少し、悲しかったけれどしょうがないかと理解はできたよ

皆遠巻きで僕を伺う中、一人の男の子がすっと歌い出したんだ

いつもそうしているかのように、慣れた自然な出で立ちで。

僕が前日に聞いた声の主はその子だった

…いま、このサーカス団にいる歌姫のことさ。

僕は彼をサーカス団に誘った

彼はサーカス団に入ることを受け入れてくれたよ

孤児院にいるから当たり前だと言ったら当たり前なんだが、彼はみなしごでね。

物心つく前に親に捨てられてしまったのだと職員から聞いたよ

……あんまりこのことを彼の許可無く言うのはよくないかな。この辺でやめておくよ。

結果、彼はサーカス団の歌姫として皆と共に今ここにいるのさ

「問題は、サーカス団に入ってから、歌姫になるまでの経緯だね」

団長は時々表情を暗くしながらも静かに言葉を紡んでいった
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