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1章 自分が知っているかもしれない世界

師匠と弟子

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起きたら夢でした。


……そんなことを期待してたんだけど、現実はそんなに甘くない。





「ん……」
「あ、お目覚めになりましたか?リナリアお嬢様」
「……アンナ?ここは?」
「エリュシオン様が用意してくださった部屋です。起きれますか?そろそろ夕食のようですが……」

お城に到着したのって昼くらいだった気がしたけど、もうそんな時間だったんだ……
確かにお腹空いたかも。

「うん、大丈夫。起きれるし食欲もありそうだわ」
「それは良かったです。さ、準備しましょう」

エリュシオン様に割り当てられた部屋は、魔術師団の持っている棟の中にある寮の一部屋だった。
お風呂やトイレ、キッチンなど一通りある広すぎず狭すぎずの部屋で、ここだけで生活することも可能な感じ。
ちなみにこの部屋は一人用なので、アンナは近くにある使用人用の部屋からの通いとなる。

あたしはお城に来てすぐにエリュシオン様に会いに行ったので、部屋のことはアンナに任せていた。
豪華ではないが、カントリー調の家具で統一された可愛い部屋だとあたしは思う。
でも、普通の貴族令嬢なら文句を言ってしまうかもしれない広さかもしれないね。
あたしは全然平気だけど。むしろこれくらいの広さの方が落ち着く!

「この部屋はいささかリナリア様には狭くて不便かと思うので、エリュシオン様に別の部屋を確認してみましょうか?」
「良いのよ、アンナ。あたしはこの部屋がとても気に入ったわ!ここでの生活を楽しみましょう」

ゆくゆくはセイのお嫁さんになって、美味しいご飯とか作りたいもの。
ちょっと早い花嫁修業を兼ねた一人暮らしと思えば楽しく生活できるし、魔法も教えてもらえるみたいだし、願ったりかなったりだ。
……まぁ、本当にお嫁さんになれるかはわからないけどね。

渋るアンナをなだめて、あたしは夕食の席へと向かった。




(コンコンッ)

「失礼します。リナリアです。」
「うむ、そこに座れ」

案内された部屋は食堂ではなく、あたしの部屋の近くにあった普通の部屋だった。
そして、この夕食はエリュシオン様と二人きり。

……あれ?寮生活って言われてたから、食堂でおばちゃんとかが「はい、おまちっ!」とか威勢の良い声で渡してくれるようなイメージだったんだけど違うの?
目の前にある食事も、ディナーではなくパンやスープ、サラダにメインのお肉と言った、普通に誰かが作った家庭的な食事だ。

「……あの、エリュシオン様。この食事って……」
「あぁ、俺が作った」
「……へ?」

えぇぇぇぇぇぇぇ!!この人……いや、このエルフ、自分でご飯作って食べるのぉぉぉぉ??!!
てっきり権力使って偉そうに美食家気取りで豪勢な食事を毎日食べてるかと思ってたのにっ!!意外だ!!!

「……お前、思っていることが顔に出ているぞ。他人の作った飯は好かん。……何が入っているかもわからんしな」

それは、ナニカ入れられた食事を出されたことがあるってことですよね……
うわ~……やっぱり偉い人ってイロイロあるんだなぁ。大変だ……

「他人事のように思っているようだが、お前も今後は自分の分は自分で作れよ」
「はい?……なんで、ですか?」
「この俺の弟子として周りに伝わっている以上、変な輩が近づいてくる可能性があるからな。
 ナニカを盛られたくなかったら自分で自炊することだ」

ナニカってなに~~~~~~~~??!!知りたいけど知りたくないっ!!!!

「ま、貴族育ちでガキのお前にはまだ自炊は難しいだろうから、しばらくは俺が作ってやる。ありがたく思え」
「……アリガトウゴザイマス、エリュシオンサマ」
「……ったく、感情が籠ってないな。……まぁいい、後、俺のことは“師匠”と呼べ」
「“師匠”……ですか?」
「あぁ、周りにお前との関係をいちいち説明するのがめんどくさい」

“師匠”と呼ばせる理由がめんどくさいってなんだよっ!!あたしの扱いがいろいろ雑じゃないか??!!
でも悲しいことに、あたしには従う以外の選択肢はないのだ。

「わかりました。師匠」
「魔法は明日から教えてやる。飯を食ったらとっととガキは寝るんだな。成長しないぞ」

最後の一言は絶対いらないよね!いちいちこの俺様エルフな師匠は嫌味を言わないと生きていけない性格でもしてるんだろうか?……もうそう思っておこうかな、うん、嫌味病とでも思っておこう。

(ぶに)

「いひゃいっ、ひゃひふふんへふは~~~っ(痛いっ、何するんですか~~~っ)」
「……お前、今俺の悪口でも考えてただろ。仕置きだ」

何このエルフ!!サトリなの??!!妖怪なの??!!

(ぶに~ん)

「ひひゃっ、は~ひゃ~ひ~へ~~~っ(痛っ、は~な~し~て~~~っ)」
「ふん、よく伸びる頬だな。どこまで伸びるのか」



こうして、あたしとエリュシオン様の師弟関係の生活は急に始まったのでした。
事あるごとにほっぺたをぶにぶに抓るのは本当にやめて欲しい……

まだ身体が10歳のあたしには、セイを虜にする魅力も技量もないので、今は諦めて魔法に専念しようと思います!!!
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