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2章 美幼女の秘密

16 改めてのごあいさつ その2inカインズside

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ある日、森へ狩りに出かけたら、仕留めたワーウルフのすぐそばに真っ白なふわふわの小さな犬がいた。
いつもなら“食肉がおまけについてきてラッキー”くらいの気持ちになるのに不思議とそうはならず、俺は普通に拾って家に連れ帰った。


家には俺が引き取った5歳の少女、ミムルがいる。
ミムルとはある討伐依頼で訪れた村で出会い、その村で両親を目の前で殺され、ショックで声を出すことができなくなってしまった。

討伐依頼自体は成功したものの、犠牲者を出してしまったことは事実だし、その犠牲者は自分がその村でとても世話になった家族で、ミムルはその唯一の生き残り。
両親の死後にもいろいろあったらしく、俺と再会したときには出会った頃の明るさや笑顔がすでに失われていた。

償い…という訳ではないが、そのまま放っておくこともできず俺がミムルを引き取ることにした。


小さな家を買いミムルと暮らし始めてから、様々なスキンシップをはかってみたが、明らかに嫌なこと以外は受け入れ、少しずつ文字を覚えても自分の気持ちや感情はなかなか教えてくれなかった。
俺が両親を助けられなかったことを恨んでいるのか、世話を焼いていることに申し訳ないと思っているのか……いずれにしてもミムルは俺に遠慮がちで、わがままを一切言わない状態だったのだ。

だから、この日気まぐれでたまたま拾ったこの白い子犬が、少しでもミムルの癒しになれば良い……という希望も少しだけあったのだが、子犬は予想以上にミムルの癒しとなってくれた。


子犬を通して感情や気持ちを前よりも出してくれるミムルを見て、これからの生活に明るい兆しが見え始めた頃、ある日家に帰ると白い子犬の代わりに黒い髪にくりっとした黒い瞳の一見少女にも見える女性がいた。
……女性だとわかった理由は、大きな胸の膨らみだ。

「ふふっ、カインズってばすごくビックリしてるわね。きっとミカヅキが可愛いからよ♪」
「いやいやいや、誰でも見ず知らずの人が急に家にいたらビックリするでしょうよ……」

シュリーが彼女を“ミカヅキ”と呼んでいるのに耳を疑ったし、ミムルが彼女にピッタリ抱きついているのにも驚きを隠せなかった。

「えっと……キミは、いったい……そして、どうしてミムルはその人に抱きついてるんだ?俺には自分から抱きついてくれないのに……」

呆然とする俺に、一緒に冒険をしたこともあり今では近所に暮らしている昔馴染みのシュリーが答えてくれた。

「カインズ、この子はミカヅキよ」
「えぇぇ??!!だって、ミカヅキは白くてふわふわの犬じゃ……」
「えっと、ちょっと話せない事情がありまして……」
「……話せない、事情?」

悪意がある様子は一切ないし、俺もイヤな感じは一切ないが、事情を聞けないとなるとさすがにどうしたものかと少し考えてしまう。
だが、俺の前に立ちはだかったミムルの行動が俺の気持ちを変えた。

「ミムル……それは“聞くな”ってことかい?」
「(コクリ)」
「理由はわからないけど、話そうとすると急に苦しくなって話せないらしいの。事情がどうあれミカヅキであることに変わりはないし、ミムルは苦しむミカヅキを見たくないみたいだから……」
「なるほど。……ミムル、あの子はお前が大好きなミカヅキで間違いないんだな?」
「(コクリ)」
「これからも変わらずミカヅキと一緒にいたいか?」
「(コクッ、コクッ)」

ミカヅキの事情を聞けないことよりも、少しずつ感情や本来の“子供らしさ”を出してくれるようになったミムルの行動が嬉しかった。

だったら俺が反対する理由は何もない。

「よし、わかった!ミムルが良いなら俺も異論はない」
「…え?」
「まぁ少し変な感じはするけど、ミカヅキはミカヅキだ。……改めてよろしくな」
「あ、はい!……ありがとうございます。こちらこそ、改めてよろしくお願いしますっ!」

いつものように、俺の見た目だけですり寄ってくる女とは違うミカヅキ。
それだけでも好印象だが、ミカヅキは見た目も雰囲気も俺の好きなタイプで、久しぶりに感じる高揚感に少しの戸惑いともっと親しくなりたいという下心もあった。

……だが、その前に怪訝そうな顔で俺を見ているミカヅキの考えを訂正すべきだろう。

「……ミカヅキ。何か誤解してるみたいだけど、俺は騙されやすいわけでもないし、考えなしにミカヅキを受け入れたわけでもないからな」
「……え?」
「そうよ~、むしろカインズは腹黒でむっつ……痛っ!ちょっとカインズ!レディに何するのよ!!」
「うるさい。誰が”レディ”だ、誰がっ!お前は余計なこと言わずにさっさと自分の家に帰れ!」
「なによっ!あたしは可愛いミカヅキが狼に襲われないか心配で……―――――んぐっ」
「そうかそうか、シュリーはそんなに愛する夫の家に帰りたいんだな。さぁ、玄関はこっちだ。今日は俺が特別にエスコートしてやろうじゃないか」
「~~~~~~~~~~~~~っ」

シュリーが余計なことを言う前に退散してもらおうと玄関へと連行した。
付き合いが長い分俺の好きなタイプまでしっかりと熟知しているから、俺がミカヅキを気に入ったこともすぐに悟ったようだ。

「カインズ、ミカヅキの人間の姿って、あなたの大好きな可愛くて守りたくなるタイプよね?」
「……」
「ふふっ、図星みたいね。ポーカーフェイスが崩れてるわよ♪」
「……うるさい。お前は早く帰れ。ランスが待ってるぞ」
「もちろん帰るわよ♡……あ、カインズ。明日はミカヅキを買い物に連れて行ってあげてね♪」
「??……買い物?」
「彼女、ホントに何も持ってないのよ。今は私の服着てるけど、ワンちゃんから人間の姿になったとき彼女素っ裸で何も着てなかったのよ」
「は?!すっ…すっぱ…えぇ??!!」
「だ・か・ら!ミカヅキの服や下着とか、日常生活で必要なアレコレをあなたが全部買ってあげなさいな」
「あ、あぁ。わかった」

素っ裸という言葉による妄想を打ち消すために明日どの店に連れて行くか考え始めたら、シュリーは帰り際、さらに余計な一言を言ってきた。

「そうそう。ミカヅキ、童顔だけど結構胸大きいわよ♪良かったわね。
 ミムルも懐いてるし、このままモノにして結婚しちゃえば良いんじゃないかしら?」
「!!!……うっ、うるさいっ!!いいからお前は早く帰りやがれ!!!」
「はいはい、わかったわよ。じゃあ頑張ってね~☆」


シュリーに焚きつけられたことを全く考えていないわけではない。
だが、子犬状態では1か月以上一緒に過ごしてきたけど、今の姿では今日出会ったばかりだ。

俺自身、いろいろあって“色恋”というモノを遠ざけて生活してきた上に、今はミムルも一緒に生活しているのだ。


「確かに好意は持っているが、いきなり迫ったってミカヅキも驚くだけだ。……少しずつ距離を詰めていけば良いよな?」



とりあえず俺は、そう自分に言い聞かせながらミムルとミカヅキの元へ戻ることにした。
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