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1章 イケメンならぬ、イクメンに拾われる
2 得たモノと失ったモノ
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◆
暗い、暗い、水の中にいるような、宙に浮いているような不思議な感覚がした。
目の前は見えないけど意識はある、そんな感じだ。
ほんのり灯りが見えてきたかと思ったら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『はぁ~、今日も仕事疲れたぁ……。明日も残業かなぁ』
疲れ切った女性の声。
(これは……あたしだ)
よくわからないけど、そう確信した。
仕事に明け暮れて、家に帰っても寝るだけの生活。
休日に出かけたくても疲れてたり、溜まった洗濯やら掃除やらで1日なんてすぐに終わってしまう。
そしてまた仕事の毎日……その繰り返しだ。
唯一の癒しは、たまに行くドッグカフェや散歩中の犬が多く訪れる公園だった。
ある日、白くてふわふわしたものすごく可愛いワンコを見つけ、すごく弱々しい感じだったからペット禁止とわかっていながらも家に連れ帰り、人肌に温めたミルクをあげたりして少しだけお世話をした。
ワンコはあたしの言葉がわかるのかものすごく良い子で、まったく吠えずにいてくれた。
保護してから数日経ったある日、元気になったワンコが急にドアをカリカリしながら吠え始め、このままでは大家さんにもバレてしまうと思い、夜遅かったけどワンコを連れて外へ出た。
あたしの腕から飛び降り、何か明確な目的があるかのように駆け出すワンコと、そんなワンコが心配で追いかけるあたし。
ワンコはひたすら走り、交差点に差し掛かった時赤信号を気にせず飛び出してしまい、案の定車に車に轢かれそうになった。
『ワンコ!!危ない!!!』
情が移ってしまうからと名前すら付けてなかったので、“ワンコ!!”なんて呼んじゃったけど、思わず助けに行ってしまうくらいすでにワンコに情が移っていたらしい。
轢かれそうになったワンコを抱えたあたしは、そのまま……――――――――――
◇
……思い、出した。
自分はワンコを庇って車に轢かれたんだ……
そして、今の自分の姿……白いワンコは助けたワンコの姿だ。
(じゃあ、あたしって車に轢かれてそのまま死んじゃったの?
死んでワンコに生まれ変わったってこと?)
急に目の前が、眩しいくらい真っ白になったかと思ったら、目の前に白くてふわふわの大きなワンコ……と言って良いのかわからないくらいの大きなナニカがいた。
「おねーさん……」
「?!……ワンコが喋った??!!」
「ふふっ、ボクはワンコじゃないよ。フェンリルだよ」
「え?……フェン、リル………??」
そんなの、ゲームやファンタジー小説でしか聞いた事ない神獣だけど……まさか、ね…
「その、まさかだよ」
「えぇぇぇ?!今あたし声に出してた??!!」
「ううん。今ボクとおねーさんは繋がってるから、思ったこともわかるんだ」
「繋がってる?」
「ごめんね。おねーさん、ボクを助けるためにあの大きな塊にぶつかって死んじゃったの……」
「……」
なるほど。
やっぱりあたしはあの時車に轢かれて即死だったようだ。
「ボク、魔力の調整があまりうまくなくて、誤って異世界に来ちゃったんだ。魔力を使いすぎて弱っていたボクを見つけて助けてくれたのがおねーさんなの」
「そうだったんだ……」
「本当はボクをあの家に入れちゃダメだったのに、弱ってたからってボクを介抱してくれて、本当にありがとう」
「ワンコ……」
やっぱり言葉を理解していたようだ。
だとしたら弱ってるのに気を使わせちゃったんだろうなと、逆に申し訳ない気持ちになった。
「本当は、動けるまで回復したらおねーさんの家を出て、次元の歪みが現れるのをどこかで待ってから、元の世界に帰ろうと思ってたんだ」
「……もしかして、急に駆け出した理由って……」
「そう。次元の歪みが現れたのを感じて……居ても立っても居られなかったの」
「じゃあ、元の世界には帰れたの?」
「うん、おねーさんのおかげで魔力もだいぶ回復できたからね」
「そっか……なら良かった…」
「良くないよ!!そのせいでおねーさんが……」
「でも、死んじゃったのは仕方ないし……あたしがワンコを助けたくて勝手に動いた結果だしね」
現世のあたしは、助けた子犬……と思っていたフェンリルの子供を助けて死んだ。
いきなりすぎてビックリだけど、忙殺されてたいして色のない生活をしていた自分が、誰かのために何かをできたのだと、死んでしまったのにどこか嬉しい気持ちにもなった。
暗い、暗い、水の中にいるような、宙に浮いているような不思議な感覚がした。
目の前は見えないけど意識はある、そんな感じだ。
ほんのり灯りが見えてきたかと思ったら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『はぁ~、今日も仕事疲れたぁ……。明日も残業かなぁ』
疲れ切った女性の声。
(これは……あたしだ)
よくわからないけど、そう確信した。
仕事に明け暮れて、家に帰っても寝るだけの生活。
休日に出かけたくても疲れてたり、溜まった洗濯やら掃除やらで1日なんてすぐに終わってしまう。
そしてまた仕事の毎日……その繰り返しだ。
唯一の癒しは、たまに行くドッグカフェや散歩中の犬が多く訪れる公園だった。
ある日、白くてふわふわしたものすごく可愛いワンコを見つけ、すごく弱々しい感じだったからペット禁止とわかっていながらも家に連れ帰り、人肌に温めたミルクをあげたりして少しだけお世話をした。
ワンコはあたしの言葉がわかるのかものすごく良い子で、まったく吠えずにいてくれた。
保護してから数日経ったある日、元気になったワンコが急にドアをカリカリしながら吠え始め、このままでは大家さんにもバレてしまうと思い、夜遅かったけどワンコを連れて外へ出た。
あたしの腕から飛び降り、何か明確な目的があるかのように駆け出すワンコと、そんなワンコが心配で追いかけるあたし。
ワンコはひたすら走り、交差点に差し掛かった時赤信号を気にせず飛び出してしまい、案の定車に車に轢かれそうになった。
『ワンコ!!危ない!!!』
情が移ってしまうからと名前すら付けてなかったので、“ワンコ!!”なんて呼んじゃったけど、思わず助けに行ってしまうくらいすでにワンコに情が移っていたらしい。
轢かれそうになったワンコを抱えたあたしは、そのまま……――――――――――
◇
……思い、出した。
自分はワンコを庇って車に轢かれたんだ……
そして、今の自分の姿……白いワンコは助けたワンコの姿だ。
(じゃあ、あたしって車に轢かれてそのまま死んじゃったの?
死んでワンコに生まれ変わったってこと?)
急に目の前が、眩しいくらい真っ白になったかと思ったら、目の前に白くてふわふわの大きなワンコ……と言って良いのかわからないくらいの大きなナニカがいた。
「おねーさん……」
「?!……ワンコが喋った??!!」
「ふふっ、ボクはワンコじゃないよ。フェンリルだよ」
「え?……フェン、リル………??」
そんなの、ゲームやファンタジー小説でしか聞いた事ない神獣だけど……まさか、ね…
「その、まさかだよ」
「えぇぇぇ?!今あたし声に出してた??!!」
「ううん。今ボクとおねーさんは繋がってるから、思ったこともわかるんだ」
「繋がってる?」
「ごめんね。おねーさん、ボクを助けるためにあの大きな塊にぶつかって死んじゃったの……」
「……」
なるほど。
やっぱりあたしはあの時車に轢かれて即死だったようだ。
「ボク、魔力の調整があまりうまくなくて、誤って異世界に来ちゃったんだ。魔力を使いすぎて弱っていたボクを見つけて助けてくれたのがおねーさんなの」
「そうだったんだ……」
「本当はボクをあの家に入れちゃダメだったのに、弱ってたからってボクを介抱してくれて、本当にありがとう」
「ワンコ……」
やっぱり言葉を理解していたようだ。
だとしたら弱ってるのに気を使わせちゃったんだろうなと、逆に申し訳ない気持ちになった。
「本当は、動けるまで回復したらおねーさんの家を出て、次元の歪みが現れるのをどこかで待ってから、元の世界に帰ろうと思ってたんだ」
「……もしかして、急に駆け出した理由って……」
「そう。次元の歪みが現れたのを感じて……居ても立っても居られなかったの」
「じゃあ、元の世界には帰れたの?」
「うん、おねーさんのおかげで魔力もだいぶ回復できたからね」
「そっか……なら良かった…」
「良くないよ!!そのせいでおねーさんが……」
「でも、死んじゃったのは仕方ないし……あたしがワンコを助けたくて勝手に動いた結果だしね」
現世のあたしは、助けた子犬……と思っていたフェンリルの子供を助けて死んだ。
いきなりすぎてビックリだけど、忙殺されてたいして色のない生活をしていた自分が、誰かのために何かをできたのだと、死んでしまったのにどこか嬉しい気持ちにもなった。
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