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【本編】

知らなければ良かった真実

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「……っ、せっ、先輩との初めてのえっちは、僕がイカせたかったのにっ!!」
「!!!……ふぇ?(……え?)」

一瞬耳を疑ったが、「どういうこと?」と聞こうと思ったのと、口元にある小野くんのモノが弾けたのはほぼ同時だった。

(ドクンっ、ドクンっ、)

「んっ、んぐっ?!」
「ぅあっ、先輩っ、離れて!」

射精した小野くんの剛直は、勢いが凄すぎてあたしの口内ではすべての精液を受け止めきれず、そのままあたしの顔や髪、服を白濁で汚していった。

「うわぁ……離れたら離れたで、すごいことになっちゃいましたね……ほら先輩、口のナカにあるモノ早く吐き出して……」
「ん、んく……ゴクン」
「ちょっ!先輩?!」
「……えへ、飲んじゃった」
「飲んじゃったって……」
「そんなに不味くはなかったよ?」
「味なんて聞いてませんから!!」

小野くんはすぐに服を正してあたしを洗面所へと促し、口を漱がせた。
そして、「このタオル、借りますね」と言ってフェイスタオルをお湯で濡らし、あたしの顔や髪、服を丁寧に拭き始める。

まるでホテルで過ごした時みたいにいろいろ世話を焼いて……――――――

「あぁぁぁぁ!!!」
「??!!……どうしたんですか、先輩。いきなり大声出して」
「さっきの言葉!いったいどういう事??」
「さっきの、言葉……?」
「あたしとの“初めてのえっち”って……あれ、どういうこと?」
「……」

小野くんはバツが悪そうに顔を背けながら、「そんなこと言いましたっけ?」とすでに拭き終わっている場所を何度も拭いている。動揺してるのは明らかだ。

「小野くんっ!」

ガシっと小野くんの顔を両手で掴み、しっかり目と目を合わせる。
こういう時は、小野くんと同じくらい身長が高い自分に感謝だ。

逃げ道のなくなった小野くんは、目線を下に向けながら不安そうな顔をしている。

「……今更、僕と付き合うのなし……とか言わないですか?」
「……むしろ、あたしの方が小野くんに醜態晒しすぎて“実は嘘でした”って言われないかとヒヤヒヤしてるんだけど……」
「「……」」

しばらく二人で無言になった後、同時に笑いがこみあげてきてぷっと吹き出してしまった。

「先輩、そんなこと考えてたんですか?ふふっ、絶対あり得ませんから安心してください」
「小野くんこそ……ふふっ、あたし、ホテルの一件では後輩へのセクハラで訴えられやしないかって内心ずっとヒヤヒヤしてたんだよ?」
「セクハラ?それこそあり得ませんね。むしろご褒美でしたもん」
「ご褒美って……ふふっ、小野くんってば物好きだね」

何気なく思っていた不安を吐露し、稀有であった事がわかり心底ホッとした。
だから、あたしも小野くんを安心させてあげないとね。

「……小野くんを“後輩“じゃなくて“男の人”だと意識したのはホテルでの事がきっかけだった。それから小野くんへの見方や気持ちが変わって、今こうして一緒にいるんだもの。その時の真実がどうであれ、今あたしが小野くんを好きだって思う気持ちは変わらないよ」
「先輩……」
「だからお願い。あの日、あたしと小野くんが身体を重ねていないのなら、一体何があったの?どうしてお互い、その……全裸だったの?」
「……聞いたら、後悔するかもしれませんよ?」
「大丈夫!心の準備はできてるから」

小野くんの気持ちが揺るがないほどの醜態なら、そこまで酷くないのかもしれない。


……そう判断した事を、数分後、あたしは心の底から後悔することになった。





「……あの、先輩。もういい加減頭を上げて下さい」
「本当に、ほんっとうに申し訳ございませんでしたっ!!」
「いや、だからもう良いですって……」

小野くんから聞いたあたしの行動は、一言で言えば“キチガイ”そのものだった。
むしろ、「あたしのそんな姿を見てまで、どうして好きって言えるの?小野くんはキチガイが好きなの?!」と思わず問い詰めたくなるほどに。

「今後、一切お酒は口にしません」
「いや、会社の飲み会とかはあるでしょうし、僕がいる時は良いですよ。……でも、程々にしましょうね」
「はい。申し訳ありませんでした」
「ふふっ、さすがにもう酔いは醒めたみたいですね、先輩」
「えぇ、それはもう……完全に醒めすぎてこのまま埋まりたいほどに」

今までだって小野くんにイロイロ迷惑をかけてるのに、一番最初がとんでもないほどに迷惑をかけてた事がショック過ぎて、小野くんに頭が上がらなさすぎる。
……現実に今も頭を上げることができてないんだけどね。

「ねぇ先輩、もし僕に悪いと思って何かしたいと思ってるなら、1つお願いがあるんですけど……」
「!!……なになに?何でも聞くから言って??」
「ふふっ、聞く前から“何でも”なんて言っちゃダメですよ?先輩♡」
「??!!」

あれ?小野くんのこの目つき、前にも見た気がするけどいつだっけ?
あたしにできることなら何でもしてあげたいのは本当なんだけど、ちょっとゾワゾワする……もしかして、あたし、またなんかやらかちゃった??

ちょっとビクビクしながら小野くんからの言葉を待っていると、“お願い”の内容は意外なモノだった。

「今週の週末は、僕と一緒に過ごしてください」
「……え?」
「だから、今週末は僕と一緒に過ごしてください!……体調崩したり、間違っても予定を入れたりなんてしないで下さいよ?良いですか?」
「えっと、もちろん。……でも、そんな事で良いの?」

もっとすごいコトを要求されるんじゃないかって、正直ビクビクしてたんだけど……

「ふふっ、先輩。ちゃんと僕の言ったことの意味が理解できてないみたいですね」
「??……どういうこと?」
「週末という事は、会社が休みの土日を一緒に過ごすという事です。つまり、“お泊り”で2日間ず――――――っと一緒という事です」
「うん、そうなるよね?」
「まだわかってないか……じゃあはっきり言いますね」

小野くんはあたしに近づき、耳元でこう囁いた。

「今週末こそ、先輩を“抱きます”って事ですよ。……先輩、食べてもいいですか?」
「―――――――!!!!!!」
「散々お預け喰らってるし、先輩ってどこもかしこも柔らかくて良い匂いがしてずっと触れていたくなっちゃうので、2日間で足りるかちょっと心配です」
「????!!!!」
「あ、安心してくださいね。ちゃんと食事や飲み物は用意しておくので、ご飯を食べ損ねて空腹になるって事はないと思います……たぶんね☆」


あたしがようやく言葉の意味を理解し驚きすぎて放心している間に、小野くんは、「先輩はそのままシャワー浴びて下さいね」と言って洗面所を出て行った。


パタン、と無機質に閉じたドアが閉じた後も、しばらくの間あたしは呆然とその場に立ち尽くしていた。
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