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03 嫌われ聖女と騎士
暗躍するのは誰
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「……では私は、用事がありますので。色々と教えてくださってありがとうございました」
明らかに目が泳いでいるニーチラングさんにそう告げて、私はこの場を離れることにした。
家の事は気になるが、ここにいても何も分からないままだと諦める。この動揺する騎士を問い詰めたところで、得られる情報はないだろう。
(だって、私のしょうもないカマかけに引っかかるくらいだもん。お母さんたちのことを知ってたらペロリと話してくれてるはず)
短時間ではあるが、この人物の人となりは小説と大差無さそうなことは掴めた。
「……」
ぺこりと頭を下げると、黙り込んでいる騎士はそのままに、私はまた街路へと戻ることにした。
まだ心臓はどきどきとしている。
(でも、どうしよう……)
お母さんたちのことを、これからどうやって知ったらいいのか、掴みようのない不安に駆られる。
「聖女! ……じゃなかった、ジェニング嬢!」
焦ったようなニーチラングさんの声に引き止められ、仕方なく振り返ると彼はものすごい速さで私のそばに来た。
「その……ご両親のことだが」
「はい」
周囲を窺いながら、彼は私の耳の高さに合わせて腰を折ると、密やかに話し始める。
「――私の方からバレリオに確認してみよう。彼なら悪いようにしないと思う。きっと息災であるはずだ」
「え……」
ニーチラングさんからの提案は、思ってもいないことだった。私は目を丸くする。
(でも、信じていいのかな……?)
ありがたい申し出ではあるが、元々この人はあの集団の一員だ。その言葉を鵜呑みにしていいのかどうかが分からない。
それ以外に手立てがないのも事実で、私から王子を問い詰める機会など絶対に得られないだろう。
私が逡巡していることを感じ取ったのか、彼は上背を戻すとぽりぽりと頭を掻きながら、眉を下げた。
「初日、私の態度が悪かったことは自覚している。……すまなかった。それに、今日も尾けるような真似をして悪かった。だが、一人で外出するのは危険だ」
真面目だ。そしていい人だ……!
まだまだ未確定事項だらけで、どうして彼も初日にあんな態度だったのかは明らかになってはいないけれど。少なくとも眼前の騎士の謝罪には誠意がある。
「お願いしても、いいでしょうか? 私、本当に何も聞かされていなくて」
「! ああ。任せてくれ」
「よろしくお願いします」
私が了承したことで、ニーチラングさんの顔色もぱあっと明るくなる。頼られるのが嬉しいらしい。
「次の目的地まで送ろう。確か、救護院だったか?」
「えっ、いえそんな、悪いです」
「送らせてくれ。先生からも君を護衛するようにと言付かっていて――」
(……ん?)
ニーチラングさんの言葉に、私は断るためにとふるふる振っていた手をぴたりと止めた。
(――今、先生って言わなかった? 言ったよね? 言いましたよね)
うっかりポロリしたことに気が付かないまま、ニーチラングさんは救護院の方向へと足を向けている。
王都にある神殿の広大な敷地の端に設けられている救護院までは、ここから歩いて三十分程の距離だ。
ここまで歩いて来たことや心労が重なったことでの疲労があったが、その言葉を聞いて全てが吹っ飛んだ。
(先生が、私のために護衛を……!?)
ラスボスだからかもしれないが、先生が私の事を気にかけてくれている。
そう思うだけで、萎れそうだった心に火が灯ったように温かくなった。
明らかに目が泳いでいるニーチラングさんにそう告げて、私はこの場を離れることにした。
家の事は気になるが、ここにいても何も分からないままだと諦める。この動揺する騎士を問い詰めたところで、得られる情報はないだろう。
(だって、私のしょうもないカマかけに引っかかるくらいだもん。お母さんたちのことを知ってたらペロリと話してくれてるはず)
短時間ではあるが、この人物の人となりは小説と大差無さそうなことは掴めた。
「……」
ぺこりと頭を下げると、黙り込んでいる騎士はそのままに、私はまた街路へと戻ることにした。
まだ心臓はどきどきとしている。
(でも、どうしよう……)
お母さんたちのことを、これからどうやって知ったらいいのか、掴みようのない不安に駆られる。
「聖女! ……じゃなかった、ジェニング嬢!」
焦ったようなニーチラングさんの声に引き止められ、仕方なく振り返ると彼はものすごい速さで私のそばに来た。
「その……ご両親のことだが」
「はい」
周囲を窺いながら、彼は私の耳の高さに合わせて腰を折ると、密やかに話し始める。
「――私の方からバレリオに確認してみよう。彼なら悪いようにしないと思う。きっと息災であるはずだ」
「え……」
ニーチラングさんからの提案は、思ってもいないことだった。私は目を丸くする。
(でも、信じていいのかな……?)
ありがたい申し出ではあるが、元々この人はあの集団の一員だ。その言葉を鵜呑みにしていいのかどうかが分からない。
それ以外に手立てがないのも事実で、私から王子を問い詰める機会など絶対に得られないだろう。
私が逡巡していることを感じ取ったのか、彼は上背を戻すとぽりぽりと頭を掻きながら、眉を下げた。
「初日、私の態度が悪かったことは自覚している。……すまなかった。それに、今日も尾けるような真似をして悪かった。だが、一人で外出するのは危険だ」
真面目だ。そしていい人だ……!
まだまだ未確定事項だらけで、どうして彼も初日にあんな態度だったのかは明らかになってはいないけれど。少なくとも眼前の騎士の謝罪には誠意がある。
「お願いしても、いいでしょうか? 私、本当に何も聞かされていなくて」
「! ああ。任せてくれ」
「よろしくお願いします」
私が了承したことで、ニーチラングさんの顔色もぱあっと明るくなる。頼られるのが嬉しいらしい。
「次の目的地まで送ろう。確か、救護院だったか?」
「えっ、いえそんな、悪いです」
「送らせてくれ。先生からも君を護衛するようにと言付かっていて――」
(……ん?)
ニーチラングさんの言葉に、私は断るためにとふるふる振っていた手をぴたりと止めた。
(――今、先生って言わなかった? 言ったよね? 言いましたよね)
うっかりポロリしたことに気が付かないまま、ニーチラングさんは救護院の方向へと足を向けている。
王都にある神殿の広大な敷地の端に設けられている救護院までは、ここから歩いて三十分程の距離だ。
ここまで歩いて来たことや心労が重なったことでの疲労があったが、その言葉を聞いて全てが吹っ飛んだ。
(先生が、私のために護衛を……!?)
ラスボスだからかもしれないが、先生が私の事を気にかけてくれている。
そう思うだけで、萎れそうだった心に火が灯ったように温かくなった。
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