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02 嫌われ聖女と魔法使い

燃えたんですが

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「ランドストレームさん、よろしく……お願いします」

 
 一応頭を下げてみるが、やはり反応はない。
 授業の残り時間はペアになった人と並んで着席し直し、テーマについて話すという鬼のような仕切りで私はこうして講堂の後ろでランドストレームくんと座っています。
 

(先生……っ! でも好き!)

 こうなってしまったことは甚だ遺憾ではあるが、魔法学の授業はヴァンス先生を見つめまくることのできる絶好の機会だ。
 絶対に休んだりはしない。絶対にだ。

「私、あんまり魔法のことよく分からないので、色々教えてくださいね」
「……」

 勿論ランドストレームくんの反応はすこぶる悪く、私の言葉には耳を貸すことはない。分かりやすくそっぽを向いてしまっている。
  
 そもそも、天才魔道士の彼がこうして魔法学の授業を受ける必要などないように思える。

 それでも彼がこうしてここにいるのは、やはり、彼が分かりやすく呟いていた『リディアーヌの言いつけ』というやつなのだろう。

(……リディアーヌ・ガウリー、か)

 私はぼんやりと、『済世の聖女』の一幕を思い出していた。

 確かにいたのだ。その名前の少女が。

 生徒会長であるルドルフォ・ガウリーの妹で、侯爵令嬢。そして第一王子バレリオ氏の婚約者。

 小説での彼女の立ち位置は、ヒロインであるセシリアと分かりやすい敵対関係にあった。

 ライバル令嬢というか、悪役令嬢というか。

 何かにつけてセシリアのところに現れては、嫌味を言ったり、嫌がらせをしたり。

(でも、違うんだよね、そのあたりが)

 私が廊下から見た光景では、彼女と第一王子氏は相思相愛の様子だったし、他の面々も彼女と良い関係であるようだった。

 ――嫌われているのは、私の方だ。

 軽く落ち込みつつちらりとランドストレームくんを見ると、左手で頬杖をつき、右手はつまらなそうにそこでくるくると動かしていた。

 何をしているのかと注視すると、小さな棒人間のような物体が、彼の人差し指の動きに合わせてそこでくるくると回っている。

 彼の指先からは淡く赤い光が出ていて、それが魔法でやっていることだと分かった。

 何それ面白そう。

(えっと、じゃあ私はこの羽根ペンを……)

 棒人間をどうやって作ったのか分からないため、私はその場にある物で代用する事にした。
 見よう見まねで、人差し指を羽根ペンに向ける。

 それから、くるくると回る姿をイメージして、そっと力を込めてみた。

 小さな光の粒が私の指先から出て、少しずつ光の線となって羽根ペンにぶつかる。机の上に置かれていた羽根ペンは光に包まれ、ひとりでに起き上がった。いける。

 集中、集中だ。

 その事を心がけて、指先をゆっくりと動かす。羽根ペンは私の操作に呼応してふるりと揺れたかと思えば――羽ばたいた。

「えっ、ちょっ」

 私の制止もむなしく、羽根ペンはふわふわと浮き上がり、そして発光している。謎の発光ブツを生成してしまった。

 そしてその光る羽根ペンは、呆気に取られる周囲の視線をものともせずに、一直線に先生の元に向かった。

「えーと、ジェニングさん……?」

 発光羽根ペンは先生の近くでふわふわと浮いている。

 おかげさまで、ヴァンス先生から困り顔を向けられてしまった。そういう表情も素敵だけれど、推しを困らせるのは本意ではない。

「も、申し訳ありません。 そんなつもりではなくて」

 ランドストレーム君がやっていたように、私の手元でくるくる回っていて欲しかっただけなのに。光った上に先生の所まで行くなんて想像もしていなかった。私の深層心理なのだろうか。

 慌てて指先を羽根ペンに向けたが、やり方が分からずにこちらへ戻す事が出来ない。

(わーん、なんで先生の所に飛んでいくの。推しに迷惑かけるのは禁則事項だよ……!)

「……何やってんの、鈍くさ」

 混乱して"普通に取りに行く"という概念が頭からすっ飛んでいた私の耳にそんな声が聞こえてきた。

 え、と思っている内に、ランドストレームくんは気だるげに右手を浮遊する羽根ペンへと向ける。

 もしかしたら、彼が魔法で取ってくれるのかもしれない――という淡い期待は直ぐに打ち砕かれた。

 彼の指先から出た赤い線が羽根ペンを捉えると、ジュッという音とともに羽根ペンが一瞬にして燃えた。
 そう、燃えた。すぐに燃え尽きて灰になり、パラパラとその場に落ちる。

(???????)

 え、なんで燃やした……?

「ふん、これでいいでしょ」

 ランドストレームくんは混乱し通しの私にそう言うと、またそっぽを向いて席に着いた。
 どこか誇らしげなのがまた解せない。


「……セシリア・ジェニングさん、ウル・ランドストレームさん。おふたりともお話がありますので、放課後僕の部屋まで来てくださいね」

 目の前で光り輝き、燃え、灰になった羽根ペンをじっと見た先生は、顔を上げて私たちの方を見てそう言った。

 いつもどおりの優しい笑顔で。
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