10 / 21
02 嫌われ聖女と魔法使い
燃えたんですが
しおりを挟む
「ランドストレームさん、よろしく……お願いします」
一応頭を下げてみるが、やはり反応はない。
授業の残り時間はペアになった人と並んで着席し直し、テーマについて話すという鬼のような仕切りで私はこうして講堂の後ろでランドストレームくんと座っています。
(先生……っ! でも好き!)
こうなってしまったことは甚だ遺憾ではあるが、魔法学の授業はヴァンス先生を見つめまくることのできる絶好の機会だ。
絶対に休んだりはしない。絶対にだ。
「私、あんまり魔法のことよく分からないので、色々教えてくださいね」
「……」
勿論ランドストレームくんの反応はすこぶる悪く、私の言葉には耳を貸すことはない。分かりやすくそっぽを向いてしまっている。
そもそも、天才魔道士の彼がこうして魔法学の授業を受ける必要などないように思える。
それでも彼がこうしてここにいるのは、やはり、彼が分かりやすく呟いていた『リディアーヌの言いつけ』というやつなのだろう。
(……リディアーヌ・ガウリー、か)
私はぼんやりと、『済世の聖女』の一幕を思い出していた。
確かにいたのだ。その名前の少女が。
生徒会長であるルドルフォ・ガウリーの妹で、侯爵令嬢。そして第一王子バレリオ氏の婚約者。
小説での彼女の立ち位置は、ヒロインであるセシリアと分かりやすい敵対関係にあった。
ライバル令嬢というか、悪役令嬢というか。
何かにつけてセシリアのところに現れては、嫌味を言ったり、嫌がらせをしたり。
(でも、違うんだよね、そのあたりが)
私が廊下から見た光景では、彼女と第一王子氏は相思相愛の様子だったし、他の面々も彼女と良い関係であるようだった。
――嫌われているのは、私の方だ。
軽く落ち込みつつちらりとランドストレームくんを見ると、左手で頬杖をつき、右手はつまらなそうにそこでくるくると動かしていた。
何をしているのかと注視すると、小さな棒人間のような物体が、彼の人差し指の動きに合わせてそこでくるくると回っている。
彼の指先からは淡く赤い光が出ていて、それが魔法でやっていることだと分かった。
何それ面白そう。
(えっと、じゃあ私はこの羽根ペンを……)
棒人間をどうやって作ったのか分からないため、私はその場にある物で代用する事にした。
見よう見まねで、人差し指を羽根ペンに向ける。
それから、くるくると回る姿をイメージして、そっと力を込めてみた。
小さな光の粒が私の指先から出て、少しずつ光の線となって羽根ペンにぶつかる。机の上に置かれていた羽根ペンは光に包まれ、ひとりでに起き上がった。いける。
集中、集中だ。
その事を心がけて、指先をゆっくりと動かす。羽根ペンは私の操作に呼応してふるりと揺れたかと思えば――羽ばたいた。
「えっ、ちょっ」
私の制止もむなしく、羽根ペンはふわふわと浮き上がり、そして発光している。謎の発光ブツを生成してしまった。
そしてその光る羽根ペンは、呆気に取られる周囲の視線をものともせずに、一直線に先生の元に向かった。
「えーと、ジェニングさん……?」
発光羽根ペンは先生の近くでふわふわと浮いている。
おかげさまで、ヴァンス先生から困り顔を向けられてしまった。そういう表情も素敵だけれど、推しを困らせるのは本意ではない。
「も、申し訳ありません。 そんなつもりではなくて」
ランドストレーム君がやっていたように、私の手元でくるくる回っていて欲しかっただけなのに。光った上に先生の所まで行くなんて想像もしていなかった。私の深層心理なのだろうか。
慌てて指先を羽根ペンに向けたが、やり方が分からずにこちらへ戻す事が出来ない。
(わーん、なんで先生の所に飛んでいくの。推しに迷惑かけるのは禁則事項だよ……!)
「……何やってんの、鈍くさ」
混乱して"普通に取りに行く"という概念が頭からすっ飛んでいた私の耳にそんな声が聞こえてきた。
え、と思っている内に、ランドストレームくんは気だるげに右手を浮遊する羽根ペンへと向ける。
もしかしたら、彼が魔法で取ってくれるのかもしれない――という淡い期待は直ぐに打ち砕かれた。
彼の指先から出た赤い線が羽根ペンを捉えると、ジュッという音とともに羽根ペンが一瞬にして燃えた。
そう、燃えた。すぐに燃え尽きて灰になり、パラパラとその場に落ちる。
(???????)
え、なんで燃やした……?
「ふん、これでいいでしょ」
ランドストレームくんは混乱し通しの私にそう言うと、またそっぽを向いて席に着いた。
どこか誇らしげなのがまた解せない。
「……セシリア・ジェニングさん、ウル・ランドストレームさん。おふたりともお話がありますので、放課後僕の部屋まで来てくださいね」
目の前で光り輝き、燃え、灰になった羽根ペンをじっと見た先生は、顔を上げて私たちの方を見てそう言った。
いつもどおりの優しい笑顔で。
一応頭を下げてみるが、やはり反応はない。
授業の残り時間はペアになった人と並んで着席し直し、テーマについて話すという鬼のような仕切りで私はこうして講堂の後ろでランドストレームくんと座っています。
(先生……っ! でも好き!)
こうなってしまったことは甚だ遺憾ではあるが、魔法学の授業はヴァンス先生を見つめまくることのできる絶好の機会だ。
絶対に休んだりはしない。絶対にだ。
「私、あんまり魔法のことよく分からないので、色々教えてくださいね」
「……」
勿論ランドストレームくんの反応はすこぶる悪く、私の言葉には耳を貸すことはない。分かりやすくそっぽを向いてしまっている。
そもそも、天才魔道士の彼がこうして魔法学の授業を受ける必要などないように思える。
それでも彼がこうしてここにいるのは、やはり、彼が分かりやすく呟いていた『リディアーヌの言いつけ』というやつなのだろう。
(……リディアーヌ・ガウリー、か)
私はぼんやりと、『済世の聖女』の一幕を思い出していた。
確かにいたのだ。その名前の少女が。
生徒会長であるルドルフォ・ガウリーの妹で、侯爵令嬢。そして第一王子バレリオ氏の婚約者。
小説での彼女の立ち位置は、ヒロインであるセシリアと分かりやすい敵対関係にあった。
ライバル令嬢というか、悪役令嬢というか。
何かにつけてセシリアのところに現れては、嫌味を言ったり、嫌がらせをしたり。
(でも、違うんだよね、そのあたりが)
私が廊下から見た光景では、彼女と第一王子氏は相思相愛の様子だったし、他の面々も彼女と良い関係であるようだった。
――嫌われているのは、私の方だ。
軽く落ち込みつつちらりとランドストレームくんを見ると、左手で頬杖をつき、右手はつまらなそうにそこでくるくると動かしていた。
何をしているのかと注視すると、小さな棒人間のような物体が、彼の人差し指の動きに合わせてそこでくるくると回っている。
彼の指先からは淡く赤い光が出ていて、それが魔法でやっていることだと分かった。
何それ面白そう。
(えっと、じゃあ私はこの羽根ペンを……)
棒人間をどうやって作ったのか分からないため、私はその場にある物で代用する事にした。
見よう見まねで、人差し指を羽根ペンに向ける。
それから、くるくると回る姿をイメージして、そっと力を込めてみた。
小さな光の粒が私の指先から出て、少しずつ光の線となって羽根ペンにぶつかる。机の上に置かれていた羽根ペンは光に包まれ、ひとりでに起き上がった。いける。
集中、集中だ。
その事を心がけて、指先をゆっくりと動かす。羽根ペンは私の操作に呼応してふるりと揺れたかと思えば――羽ばたいた。
「えっ、ちょっ」
私の制止もむなしく、羽根ペンはふわふわと浮き上がり、そして発光している。謎の発光ブツを生成してしまった。
そしてその光る羽根ペンは、呆気に取られる周囲の視線をものともせずに、一直線に先生の元に向かった。
「えーと、ジェニングさん……?」
発光羽根ペンは先生の近くでふわふわと浮いている。
おかげさまで、ヴァンス先生から困り顔を向けられてしまった。そういう表情も素敵だけれど、推しを困らせるのは本意ではない。
「も、申し訳ありません。 そんなつもりではなくて」
ランドストレーム君がやっていたように、私の手元でくるくる回っていて欲しかっただけなのに。光った上に先生の所まで行くなんて想像もしていなかった。私の深層心理なのだろうか。
慌てて指先を羽根ペンに向けたが、やり方が分からずにこちらへ戻す事が出来ない。
(わーん、なんで先生の所に飛んでいくの。推しに迷惑かけるのは禁則事項だよ……!)
「……何やってんの、鈍くさ」
混乱して"普通に取りに行く"という概念が頭からすっ飛んでいた私の耳にそんな声が聞こえてきた。
え、と思っている内に、ランドストレームくんは気だるげに右手を浮遊する羽根ペンへと向ける。
もしかしたら、彼が魔法で取ってくれるのかもしれない――という淡い期待は直ぐに打ち砕かれた。
彼の指先から出た赤い線が羽根ペンを捉えると、ジュッという音とともに羽根ペンが一瞬にして燃えた。
そう、燃えた。すぐに燃え尽きて灰になり、パラパラとその場に落ちる。
(???????)
え、なんで燃やした……?
「ふん、これでいいでしょ」
ランドストレームくんは混乱し通しの私にそう言うと、またそっぽを向いて席に着いた。
どこか誇らしげなのがまた解せない。
「……セシリア・ジェニングさん、ウル・ランドストレームさん。おふたりともお話がありますので、放課後僕の部屋まで来てくださいね」
目の前で光り輝き、燃え、灰になった羽根ペンをじっと見た先生は、顔を上げて私たちの方を見てそう言った。
いつもどおりの優しい笑顔で。
11
お気に入りに追加
1,128
あなたにおすすめの小説
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
【完結】婚約解消したら消されます。王家の秘密を知る王太子の婚約者は生き残る道を模索する
金峯蓮華
恋愛
いっそ王太子妃が職業ならいいのに。
殿下は好きな人と結婚するとして、その相手が王太子妃としての仕事ができないのなら私が代わりにそれをする。
そうだなぁ、殿下の思い人は国母様とかって名前で呼ばれればいいんじゃないの。
閨事を頑張って子供を産む役目をすればいいんじゃないかしら?
王太子妃、王妃が仕事なら殿下と結婚しなくてもいいしね。
小さい頃から王太子の婚約者だったエルフリーデはある日、王太子のカールハインツから好きな人がいると打ち明けられる。殿下と結婚しないのは構わないが知りすぎた私は絶対消されちゃうわ。
さぁ、どうするエルフリーデ!
架空の異世界のとある国のお話です。
ファンタジーなので細かいことは気にせず、おおらかな気持ちでお読みいただけると嬉しいです。
ヒーローがなかなか登場しません。すみません。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる