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01 ヒロインで聖女なのに嫌われ中

◇アトルヒ聖王国の聖女◇

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――今世の聖女が見つかった。

 聖王国にもたらされたのは、そんな一報だった。

 先代の聖女が崩御してからはや四十年。
 一見すると煌びやかで豊かに見えるアトルヒ聖王国は、緩やかな衰退の途を辿っていた。

 尤も、その事を知るのは教会と王家のごく一部だけだ。

「すぐに聖女を保護しろ。いいな、""保護""だ。必ずかの力を手に入れるのだ」

 アトルヒ国の聖王は急ぎそう指示を出した。

 聞けば、今世の聖女は瀕死の状態の子供を一瞬で回復させることの出来るほどの強い力を持っているらしい。
 聖女が祈るとその光が子供と聖女を包み込み、みるみる内に傷が塞がったのだと。

「なんとも稀有な力だ……まさに伝記のとおり」

 これまでこの国に現れた聖女のことが書かれた<聖女経典>は王家にのみ受け継がれている。
 さらに先代の聖女は、現国王の祖母にあたる人物だった。王家は聖女と婚姻を結んだのだ。

「バレリオをここに」
「はい。承知致しました!」

 侍従に指示を出し、国王は息子であるバレリオを呼び出す。聖女の保護は国を挙げてすべきこと。そして国の繁栄を取り戻す。

 そのためには――

(聖女を王家に取り込むのが手っ取り早い。お祖母様のように)

 幼い頃に亡くなった祖母のことは国王にとって記憶に薄い。
 だが、肖像画の中で微笑む祖母は、いつも幸せそうな笑顔を浮かべている。

(王族に加わる。それが聖女にとっても幸せだろう)

 国王はそう信じて疑わない。第一王子のバレリオには婚約者がいるが、そんなことは些末なことだ。婚約などさっさと解消してしまえばいい。

 御相手の令嬢には他の貴族令息を宛がえばいいし、王族を好むのであれば隣国へと嫁いでしまうのもよいだろう。


「全ては聖女と聖王国のためだ」

 幼い頃から聖女経典は何度も読んだ。奇跡の力で大病や怪我をたちどころに直してしまう奇跡の力。
 その聖女がまさに、自らの御代に誕生してくれるなど、思ってもみなかった。

 下手をすれば、百年以上現れなかったこともある。その際には教会と協力して聖女召喚を行った事例もあるようだ。

 聖女が現れたこの機を、みすみす逃すつもりは毛頭無い。

「しかしバレリオは頭が固い。婚約者を慮って拒否する可能性もあるな。であれば……他の信頼できる貴族に譲ってやってもよいが……そうだ、少し歳は離れているが、我が側妃に迎えてもよいな」

 ぶつぶつとした国王の独り言は、空気に溶けて消えてゆく。

 聖女セシリアの意思とは無関係に、国王は自らの計画をすすめてゆくのであった。
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