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「ユーリア・マクファーデン公爵令嬢。今日限りで君との婚約を破棄する!」

 とある秋の日の夜会でのこと。

 公爵令嬢のユーリアは、婚約者の王太子から唐突にそう告げられた。

 彼の後ろには不安げに眉を下げる桃色の髪の男爵令嬢がいて、ひしとくっついている。

 豊満な肉体が素敵である。

 ユーリアはちょっと自分の胸元を見下ろして一瞬考えたあと、また王太子に向き直った。

 今夜の夜会は、社交シーズンの始まりを告げる盛大なものだ。

 王宮の広間で開催されたこの夜会で、王太子の婚約者であるユーリアもその準備に奔走した。

 目の肥えた夫人たちを満足させることのできる洗練された内装、少し珍しいものも取り入れつつも流行を取り入れて会話の一助になればと熟考した食事や菓子。

 何よりドレスの準備こそ肝だ。

 ユーリアは王太子の瞳の色に合わせた鮮やかな青のドレスを身にまとっている。

 西国の方で流行り始めたという細かな刺繍の入ったデザインを取り入れて、生地の手配から始まり数ヶ月に及ぶ準備をしてきた。

 美しく染め上げられた青く光沢のある布地と銀糸の刺繍のコントラストはユーリアの煌めく銀髪によく映え、ひときわ美しい。

(まあ……婚約破棄)

 王太子が告げたそれを、ユーリアは頭の中で反芻する。

 婚約破棄を宣告するということは、婚約を破棄することを公に知らしめるということ。



 巷で流行になっているという構文風に慎重に考えてみても、それ以上の情報はなかった。
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