上 下
11 / 30

11.同居生活第1日目! コーヒーがおいしいと言ってくれた!

しおりを挟む
(10月第4日曜日)
目が覚めたら8時を過ぎていた。部屋を出てリビング・ダイニングへ出ていくと理奈はもう着替えて朝食の準備を終えていた。準備といっても昨日コンビニで買ってきたものを並べて盛り付けただけ。

「おはよう。よく眠れた?」

「はい、とても良く眠れました」

「朝食にする?」

「準備はできています」

僕は洗面所でいつものとおり、歯を磨き、髭をそって、顔を洗う。とても気持ちがいい。部屋に戻ってすぐに部屋着に着替えてきた。

理奈にだらしない恰好は見せたくなかった。この緊張感が良いのかもしれない。いつまでも新鮮な関係を保てる。席について食事を始める。

「明日から朝食はどうします? 献立は何がご希望ですか?」

「朝食は必ず食べることにしています。でないと昼前にへたってしまうから。献立と言うほどはいらない。理奈さんの負担にならないように簡単なものでいいです。例えば、トースト、牛乳、ヨーグルト、リンゴやバナナなどの果物があればいい」

「それじゃあ、トーストとミックスジュースでいいですか?」

「ミックスジュースって?」

「果物、野菜、ヨーグルト、牛乳などをミキサーにかけてミックスしたジュースです。栄養満点でそれを飲むだけでいいですから」

「それでいいから、作って下さい」

「お弁当は作りません。結構手数と時間がかかりますから、昼食は外食でお願いします」

「それでいいよ。今までどおりだ」

「夕食は必ず作りますから」

「楽しみにしています」

「時間は遅くていいですね」

「帰る時間は早くないから。会社を出る時にメールを入れます。ここには8時前後になることが多いと思う」

「それならなおさら好都合です。ゆっくり作れますから」 

「食材などの買い物はどこでするつもり?」

「乗換駅がありますから、そこでします。ここからはスーパーが少し遠いですから」

「あとから近所のスーパーを案内しようか? この辺は土地勘があるから」

「この辺に長く住んでいるんですか?」

「洗足池駅の近くに独身寮があったので、入社してしばらく住んでいたことがあった。それにここに来て5年位になるかな」

「ここから散歩がてら、公園を通って行ってみないか?」

「夕食の準備もありますから、連れて行って下さい」

それから二人でそれぞれの部屋をひととおり掃除して、身のまわりの持ち物を整理した。それから僕はお風呂の掃除をした。理奈はリビングや台所を掃除した。

11時前に二人そろって外出した。荷物が多くなることを想定して僕はリュックを背負った。理奈はそれを見て笑った。

この頃は通勤時にもリュックを使うようになった。だから通勤用と買物用に2つ持っている。以前は、リュックなんか通勤には不向きだと思っていたが、先の震災があってからそうは思わなくなった。周りを見てもリュック姿の通勤者が増えている。

道に出ると僕の方からなにげなく手を繋ぐ。理奈は一瞬僕の顔を見たようだったが、僕は何食わぬ顔で手を繋いでいる。理奈は黙って従っている。良い感じだ。すぐに公園に入った。

「せっかくだから一周りしないか? 案内してあげる」

「はい」

池の周りをゆっくり歩く。もう、紅葉の季節が近づいてきている。今日は清々しい良いお天気だ。理奈もめずらしそうに周りを見ながら歩いている。この時間は散歩の人がほとんどだが、僕たちのような若いカップルは少ない。

「理奈さんとこうして歩いているのが夢のようだ。今年の春先には一人侘しく散歩していた」

「私もこんなことになろうとは思いもしませんでした。ご縁があったのでしょうか?」

「ご縁というのはあるかもしれない。前世の因縁とか? そうでないとあんな出会いはないと思っている」

「私たちは運命の赤い糸でつながっていたのかしら?」

「今はそう思いたいし、そう信じたい。この繋がりを大切にしたい。理奈さんを放したくない」

「そうですね。大切にしたいですね」

「理奈さん、ボートに乗らないか? 少年は彼女をボートに乗せたがるものなんだ」

「少年?」

「気持ちだけだけど」

「いいですよ。私も彼氏とボートに乗ってみたいと思ったことがありました」

「じゃあ、今実現と言うことで」

ボート乗り場に行くと、ボートが2種類あった。手漕ぎのボートと、脚でペダルを漕ぐタイプ。ペダルなら二人で漕げる。でも手こぎタイプにした。彼女と乗るなら手漕ぎに決まっている。

理奈を乗せてゆっくりと漕ぎだす。意外と力が必要で結構骨が折れるのが分かった。毎朝腕立て伏せを30回ほどするようにしているけど、あまり役に立っていないのが分かった。だからゆっくり漕ぐ。

「気持ちいいですね」

「ああ、水面は周りよりも涼しいね。清々しい。理奈さんをボートに乗せているから最高の気分だ」

「そう言ってもらえてうれしいです」

理奈を見つめるが、理奈は目が合うとすぐにそらせてしまう。それでもじっと見つめている。理奈が段々緊張してくるのが分かった。まずいと思った。

「一周したら上がろうか?」

「はい」

理奈はほっとしたようだった。ボートを降りると緊張が解けていくのが分かる。難しい娘だと改めて思った。

すぐに手を繋ぐ。手を繋いでも緊張はしないので安心した。今度は池の周りの遊歩道をゆっくり歩く。

「休みの土曜日には、二人でどこかへ出かけることにしないか? デートするみたいに」

「毎日二人でデートしているみたいですが、わざわざ外へ出かける必要がありますか?」

「外の方が話しやすいこともあるんじゃないかな? 部屋で面と向かって話すと理奈さんは緊張するみたいだから」

「私、そんなに緊張していますか?」

「そういうふうに感じるけど」

「すみません。そんなふうに感じさせてしまって」

「なぜか自然と身構えるようなので、こちらも気にしてしまう。もっと信用してくれてもいいんじゃないかな」

「信用しています。だから一緒に住んでいるんです。そんな感じを与えてすみません。もっと亮さんと親しくしたいんですが」

「そういってくれるのは嬉しい」

手の握りを強くすると、理奈も強く握ってくれた。少しずつだけど、気持ちが通じ合っているのかなと思った。

お昼は洗足池駅の近くのハンバーガー屋さんに入って昼食を食べた。それから、長原まで大通りを歩いてスーパーへ食料品の買い出しに行った。

二人で持てる精一杯の食料品を購入した。これで、3~4日分は十分あるとのことだった。僕はリュックを持ってきていたので、重いものは中に入れてしょって帰る。あとの軽いパンなどは理奈が持って帰った。

日曜日は二人で食料品の買い出しに来ようと歩きながら決めた。その時、僕が夕食に食べたいものがあれば、その材料を買っていくそうだ。

マンションに帰ると、理奈は冷蔵庫に食料品を整理してしまった。僕はキッチンでお湯を沸かしてコーヒーの準備を始めている。

「一緒にコーヒーでも飲まないか、僕が淹れるから」

「はい、飲みます」

「新橋駅のコーヒーショップで買ったキリマンジャロだけど」

「レギュラーコーヒーですか?」

「そう、豆から挽いてドリップで入れる」

「本格的ですね」

「理奈さんは茶道の経験は?」

「学生のころ、茶道のサークルにも入っていたので、ひととおりのことは知っています」

「僕はテレビで見た位で、お茶会にいったこともないけど、コーヒーを入れていると茶道が分かるような気がする」

「共通するところがありますか」

「豆をミルに入れて、ゆっくり挽いて粉にして、ドリップにセットして、少しお湯を注いで、豆を蒸らして、それからお湯を注いで一杯分を作る。お客様のために気持ちを込めて作る」

「私がお客様?」

「こうして人のためにコーヒーを入れるのは初めてだ。一緒に飲んでくれる人ができてよかった」

「初めてのお客が私?」

「そう、飲んでみてくれる?」

「いただきます」

理奈はソファーの隣に座って、カップのコーヒーをゆっくり飲んでくれた。ブラックで何も入れなかった。

「おいしいです」

「いつもブラックで飲んでいるの?」

「その方がコーヒーの味が分かりますから」

「コーヒーは好きなの?」

「大好きです」

「知らなかったけど、それはよかった。淹れた甲斐があった。またひとつ理奈さんのことが分かった」

「私も亮さんのことが一つ分かりました」

「いままで一人で淹れて飲んでいたけど、こうしてお湯を注いで一杯分作っていると、心が落ち着くと言うか穏やかになる」

「そうですね。丁寧に淹れてもらって、気持ちが伝わります」

「気持ちが伝わったのなら嬉しい。淹れた甲斐があった」

隣に座っているけど、理奈は緊張していないみたいでよかった。聞いておきたいことがあった。転職して派遣社員になった理由だ。あの時は詳しい理由をあえて聞かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~

猪本夜
恋愛
プーマ王国のゲスな王子に執着されている王女レティツィア(17歳)は、未遂なものの、何度も王子に誘拐されかけている。 王子の執着と誘拐が怖くてビクビクと大人しく過ごす日々だが、それでも両親と三人の兄たちに溺愛され、甘えつつ甘やかされる日々を送っていた。 そんなある日、レティツィアに海の向こうの隣国アシュワールドの王オスカー(23歳)から婚約者候補の打診が舞い込み――。 愛してくれる両親と兄たちから離れたくないレティツィアは、隣国王オスカーと結婚する気はなく、オスカーに嫌われようと画策する。作戦名はその名も『この子はナイな』作戦。 そして隣国王オスカーも結婚に前向きではない。 風変わりなレティツィアに戸惑うオスカーだが、だんだんとレティツィアの魅力にはまっていく。一方、レティツィアもオスカーのことが気になりだし――。 レティツィアは隣国執着王子から逃げ切ることができるのか。 ※小説家になろう様でも投稿中

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【完結】みそっかす転生王女の婚活

佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。 兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に) もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは―― ※小説家になろう様でも掲載しています。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

地味子と偽装同棲始めました―恋愛関係にはならないという契約で!

登夢
恋愛
都会で就職した老舗の御曹司が父親所有のマンションに引っ越しますが、維持費がかかり過ぎることから同居人を探しました。そして地味な契約女子社員を見つけて同居雇用契約をして偽装同棲を始めます。御曹司は地味子がとても性格の良い娘だと次第に分かってきましたが、合コンで出会った陰のある可愛い娘に一目ぼれをしてしまいます。これは老舗の御曹司が地味子と偽装同棲したら運命の赤い糸に絡め捕られてしまったお話です。

処理中です...