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19.一周忌のお墓参り―悲しい思い出を忘れさせたい!

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12月9日(木)は兄夫婦の1周忌になる。その日は学校も仕事もあるので12月5日(土)に久恵ちゃんと一緒に日帰りでお墓参りに行くことにした。

新幹線が開通したのでこういうことが可能になった。母にも一緒に行こうと電話をしておいた。駅からタクシーに乗って、高齢者住宅で母親を載せて、墓地へ向かう。

元気で現れた二人を見て、母はたいそう喜んだ。僕は週末毎に電話を入れて健康状態などを聞いていたが、また幾分歳をとったようだった。でも見た目はすこぶる元気で安心した。

墓地は郊外の低い山の中腹にあり、とても眺めがよいところだ。この場所は父が生前に買っておいたところだが、買ってから1年も経たずに心筋梗塞で亡くなった。虫の知らせでもあったのだろうか?

ふもとの入り口にあるお店でお花と線香と蝋燭を買って、また、狭い道を上っていく。タクシーを待たせてお参りをする。

お墓に供えられた枯れたお花があったので、持ってきたレジ袋に片付ける。月命日には母がお参りをしているという。綺麗になったお墓にお花を供え、蝋燭を点して、線香に火をつける。風が強くて蝋燭の火が消えそうだ。

3人がそれぞれお数珠を取り出して手を合わせる。僕のお数珠は生前、父が買ってくれたものだ。久恵ちゃんのものは母親の形見だと言っていた。

久恵ちゃんは長い間手を合わせていた。そしてなかなかその場を離れようとしなかった。

「もう行こうか?」と久恵ちゃんを促した。目が真っ赤だ。あの時を思いだして泣いていた。悲しいことを思い出させてしまった。連れてこなきゃよかった。母と二人で慰めながらタクシーに乗り込んだ。

もう1時を過ぎていた。母はお腹が空いたので皆で回転寿司を食べに行こうと言って、運転手さんに行きつけの回転寿司に行くように頼んだ。

店はもう1時を過ぎていたので空いていた。ボックス席に座った3人は思い思いの皿を取って食べた。久恵ちゃんはとても喜んで食べていた。東京では一緒に外食する機会が少なかった。

「ここへは3人でも時々食べに来ていました。結構おいしいんです」

「思い出の店だったんだ。大丈夫?」

「過ぎたことを悔やんでもしかたないでしょ。それよりも好きなだけ食べていい? ここは久しぶりだから」

「久恵ちゃんの好きなだけ食べていいからね。ここはおばあちゃんがご馳走するから。今日はお墓参りありがとう。崇夫も潤子さんも喜んでいると思いますよ」

久恵ちゃんは本当に無心で食べている。あんなに食べている姿を初めてみた。東京でもどこか探して連れて行ってやろう。感傷に浸っているよりも食べて元気をつけるのが一番だ。

お腹がいっぱいになったところでタクシーを呼んだ。途中で母を高齢者住宅の前で下ろした。別れ際、母は僕には久恵ちゃんの面倒をよく見るように言った。

そして「久恵ちゃんが康輔のお嫁さんになってくれたらいいのだけどね」と独り言のようにポツリといった。

僕は何と答えて良いのか分からなかったので、聞こえないふりをした。久恵ちゃんにもきっと聞こえたと思う。

「僕がそうなるといいね」とか言ったら、久恵ちゃんは何と言っただろう? 僕が黙っていたので何も言わなかったのだと思う。

そのまま駅に向かう。駅で夕食用のお弁当を2つ買って、帰りの新幹線に飛び乗った。これで7時前にはマンションに帰れる。

新幹線が動き出した。久恵ちゃんはしばらく寂しそうに外を見ていた。3月に一緒に上京した時を思い出した。もうあれから8か月以上も一緒に暮らして楽しい毎日が続いている。こんなことを思っていると兄夫婦に申し訳ない気持ちになる。

「さっき、おばあちゃんの言ったこと聞こえた? 気にしなくていいんだからね」

「何て言ってた?」

「それならいいんだ」

聞こえたはずだと思っていた。でも聞こえなかったのかなと思っていたら、久恵ちゃんが座席の間のひじつきを上げて僕の腕を抱えて肩にもたれかかってきた。

あの時は遠慮しながらおそるおそる肩に持たれてきたが、今は遠慮もなく当然といった勢いでもたれかかってきた。はたから見ると父親に寄り掛かっているというより恋人に寄り掛かっているように見えるだろう。髪の匂いが心地よい。

あの時は眠ってしまった。今ほど彼女を意識していなかったのかもしれない。久恵ちゃんの身体のぬくもりが腕に伝わってくる。今は目をつむってはいるが眠れない、いや眠らない。

二人が身体を寄せ合って眠れるのはこの車内でしかない。この腕の中に抱き締めて眠ってみたい。そんな衝動に駆られる。いや、だめだ、だめだ。

「着いたよ」

また久恵ちゃんに起こされた。
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