私は旅人

バルジリス

文字の大きさ
上 下
1 / 6

勇者を裏切ろうと思った戦士

しおりを挟む
 私は旅人。
 世界を歩くただの旅人。
 旅をした先で、であった人、見たもの、色んな事をメモしていく、ただの旅人。


 私が立ち寄ったのは、魔の龍の住まう山脈。
 なぜそんな危ないところに来たのか?理由はない。
 ただ、私が歩いていた先にその場所があっただけ。
 だが、目的もなくこの場所に来たことを、ちょっぴり後悔しているかもしれない。
 目の前に、今にも火を吹かんとしているドラゴンがいる。
 このドラゴンが、魔の龍であろうか?
 流石の私も死にたくはない。さっさと逃げさせてもらおう…そう思った時だった。

「ウオオオオオオオオァァァァァァァァァァ!」

 そんな雄たけびと共に、大きな斧を持った、がっしりとした男の人が、私の後ろからドラゴンに切りかかった。
 そしてズバン!という擬音が聞こえてきそうな勢いで、ドラゴンがの首が真っ二つに切り裂かれた。

「大丈夫かい?あんた」

 そう声をかけてきたので、こちらは大丈夫だと伝えると、彼は呆れたようにこう言った。

「しかし、そんな軽装備で、この魔の龍の山脈に来るとは……あんた、死にたいのか?」

 失礼な。私は死にたがりではない。ただ、私の向かう先にこの山脈があったのが悪いのだ。そう伝えると、相手はさらに呆れたように。

「まあ、いい。とにかく、ここいらで俺も一息入れるか……あんたも、水飲むか?」

 そう言われたので、あり難く一杯。水をもらうと、彼に聞いた。なぜ、あなたはこの山脈に来ているのかと。
 彼の答えはこうだ。

「あん?そりゃあ……あの山に、ガキどもが連れて行かれたんだ。それを、救いに」

 それはすごい。そんな勇気ある行動はなかなかとれない。そう私が感心していると、彼は苦笑して。

「まあ、少し前までの俺だったら、こんなこと、しようだなんて思わなかったよ」

 そういう彼は、少し寂しそうで。

「そうだなぁ……あんたは、俺の事を勇気があるって言ってくれた、三人目の人間だ。だから……休憩の暇つぶしに、昔話に付き合ってくれるか?」

 そういって、彼は、自身の昔話を語り始めた。
 あるところに、勇者様と、その友人の戦士がいました。
 その戦士は、魔法の腕も、剣の腕も、一流のさらに上を行く実力者でした。
 しかし、彼の友人である勇者様は、さらに剣の腕が立ち、魔法も、戦士よりも上手でした。
 人々は、口々に勇者様をたたえました。
 そして、戦士は勇者と比較され、馬鹿にされました。
 戦士は思いました。なぜ、自分が馬鹿にされなければならないのかと。
 なぜ、自分が比較されなければならないのかと。
 そして、次第に勇者に対して、恨みを抱くようになりました。
 こんな奴、裏切ってやる。
 そう思いながら、勇者と別れ、別行動を始めました。
 どうやってあいつを裏切ってやろうか……
 そう思っているときに訪れたのは、ドラゴンに襲われている、小さな村でした。
 最初は、軽くドラゴンを追い払って、去るつもりでした。
 でも、この村の少年剣士は、彼の事を師匠と呼び、慕ってきました。
 この村の魔法使いの少女は、彼の事を先生と呼び、教えを乞うてきました。
 この村のパン屋の少女は、毎日、焼き立てのパンを彼に届けました。
 最初はうっとおしかった。でも、段々と、自分を慕うこの少年少女たちが、大切になってきました。
 だけど、その暖かな時間も終わりを告げました。

 村に、ドラゴンたちの長である、魔の龍がやってきたのです。

 魔の龍は、子供たちをさらって行きました。
 そして、子供たちがいなくなって、初めて気が付いたのです。
 彼らが、自分を肯定してくれた彼らが、自分にとって、勇者よりもよっぽど大切な、仲間になっていたことを……

「で、村人が勇者を呼んでくる、その間に俺は魔の龍に挑むってわけだ……勇者に対抗するためじゃない。大切な、仲間を救うために」

 そのために、死ぬことになっても?

「俺だって、死ぬのは嫌だ。嫌だが……仲間が、掴まっているんだ。あいつらを救うため……十分、命のかけ時だ」

 そうですか……がんばって、ください。

 ただの旅人である私には、彼へ応援の言葉をかけるくらいしかできませんでした。
 そして、私は彼と別れ、魔の龍の山脈を後にしました。

 後から聞いた話なのですが……
 魔の龍は、勇者によって打倒されたらしいです。
 魔の龍は、不思議と弱っていた。まるで、何かと戦った後の様に……そう勇者は語ったようです。
 彼は、戦士の彼は、やはり死んでしまったのでしょうか……?
 その答えを知るすべは、私にはありません。
 でも、彼は、生きているのでしょう。
 彼の、仲間の胸の中に……なんて、私らしくないですかね。

 私は旅人。ただの旅人。
 次に行く場所には、何があるのでしょうか……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

バンズくん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
バンズくんと呼ばれるパンが悲しそうに言いました。 「ぼくは、サンドイッチになれないんだよな〜」 まるいパンだから、三角の形になれないのです。

子猫マムの冒険

杉 孝子
児童書・童話
 ある小さな町に住む元気な子猫、マムは、家族や友達と幸せに暮らしていました。  しかしある日、偶然見つけた不思議な地図がマムの冒険心をかきたてます。地図には「星の谷」と呼ばれる場所が描かれており、そこには願いをかなえる「星のしずく」があると言われていました。  マムは友達のフクロウのグリムと一緒に、星の谷を目指す旅に出ることを決意します。

幸運を運ぶ猫は、雨の日に傘をさしてやってくる

石河 翠
児童書・童話
優しくて頑張り屋の奈々美さんは、年をとったお父さんのお世話をして過ごしています。 お父さんが亡くなったある日、奈々美さんは突然家を追い出されてしまいました。 奈々美さんに遺されていたのは、お父さんが大事にしていた黒猫だけ。 「お前が長靴をはいた猫なら、わたしも幸せになれるのにね」 黒猫に愚痴を言う奈々美さんの前に、不思議なふたり組が現れて……。 現代版長靴をはいた猫のお話です。 この作品は、小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しております。

えんぴつくんのお母さん

星野 未来
児童書・童話
えんぴつくんのほっこり系でちょっと切ないショートストーリー。 えんぴつくんがお母さんを探して、やがてたどり着いたところとは……。

ケン太とチュン太

紫 李鳥
児童書・童話
ケン太が退屈そうにしてると、一羽の雀がやって来ました。

パロディ 桃太郎

松石 愛弓
児童書・童話
童話 桃太郎さんのパロディです。

絆の輪舞曲〜ロンド〜

Ⅶ.a
児童書・童話
キャラクター構成 主人公:水谷 陽太(みずたに ようた) - 年齢:30歳 - 職業:小説家 - 性格:おっとりしていて感受性豊かだが、少々抜けているところもある。 - 背景:幼少期に両親を失い、叔母の家で育つ。小説家としては成功しているが、人付き合いが苦手。 ヒロイン:白石 瑠奈(しらいし るな) - 年齢:28歳 - 職業:刑事 - 性格:強気で頭の回転が速いが、情に厚く家族思い。 - 背景:警察一家に生まれ育ち、父親の影響で刑事の道を選ぶ。兄が失踪しており、その謎を追っている。 親友:鈴木 健太(すずき けんた) - 年齢:30歳 - 職業:弁護士 - 性格:冷静で理知的だが、友人思いの一面も持つ。 - 背景:大学時代から陽太の親友。過去に大きな挫折を経験し、そこから立ち直った経緯がある。 謎の人物:黒崎 直人(くろさき なおと) - 年齢:35歳 - 職業:実業家 - 性格:冷酷で謎めいているが、実は深い孤独を抱えている。 - 背景:成功した実業家だが、その裏には多くの謎と秘密が隠されている。瑠奈の兄の失踪にも関与している可能性がある。 水谷陽太は、小説家としての成功を手にしながらも、幼少期のトラウマと向き合う日々を送っていた。そんな彼の前に現れたのは、刑事の白石瑠奈。瑠奈は失踪した兄の行方を追う中で、陽太の小説に隠された手がかりに気付く。二人は次第に友情と信頼を深め、共に真相を探り始める。 一方で、陽太の親友で弁護士の鈴木健太もまた、過去の挫折から立ち直り、二人をサポートする。しかし、彼らの前には冷酷な実業家、黒崎直人が立ちはだかる。黒崎は自身の目的のために、様々な手段を駆使して二人を翻弄する。 サスペンスフルな展開の中で明かされる真実、そしてそれぞれの絆が試される瞬間。笑いあり、涙ありの壮大なサクセスストーリーが、読者を待っている。絆と運命に導かれた物語、「絆の輪舞曲(ロンド)」で、あなたも彼らの冒険に参加してみませんか?

処理中です...