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番外編

君は俺が好きⅠ *二年後の未来はR18*

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「ピンクがいいにゃ!」
「白よ、白!」

 猫娘ニーナと親友のエイミーの会話である。何を言い争っているかというと……

「女の可愛さを引き立たせるにはピンクの下着がお勧めにゃ!」
「花嫁は白と昔から相場が決まっているのよ。白い清楚な下着がレイチェルには絶対似合うわ」

 そう、新婚初夜の下着の色である。
 そんなものを本人の目の前で決めようとするのは止めて欲しいと思う。ちなみにレイチェルは挙式用のウェディングドレスの仮縫いの真っ最中だ。

「あのう……」
「レイチェルの意見を聞きましょう!」
「そうにゃ! それがいいにゃ!」

 エイミーとニーナの二人にぐいぐい来られ、レイチェルは閉口した。止めに入ったはずがさらにヒートアップしている。挙式は一ヶ月後と決まったので、結婚式プランナーよろしく二人は準備にいそしんでくれている。それは嬉しいのだが、恥ずかしい質問まで遠慮なく飛んでくるので、レイチェルは身の縮む思いだった。

「そ、その、えっと……」

 どうしよう。誤魔化せそうにない。キラキラした瞳の二人を見て、レイチェルは蚊の鳴くような声で答えた。

「慣例に則るのがいいと思うの」

 ようようそう答えれば、エイミーが得意げにうんうん頷く。

「やっぱり白よね!」
「にゃー、駄目にゃ、ちゃんと自分の魅力を引き立たせないと!」

 やっぱり二人の言い合いが止まらない。

「あらぁ、楽しそうね」

 衣装部屋に様子を見にやってきた聖女カサンドラが、くすくすと楽しそうに笑う。カサンドラは赤毛の妖艶な美女である。

「カサンドラは白とピンクの下着、どっちがいいにゃ?」

 ニーナは相変わらず無邪気だ。言っている意味が分かっているのかと言いたくなるくらい開けっぴろげである。焦ったのはレイチェルだ。
 待って待って待って! そう言った恥ずかしい話題を広げないで!
 レイチェルが慌てて止めに入るも既に遅かった。意味を即座に理解したカサンドラが色っぽく微笑む。本当にカサンドラは逐一仕草がセクシーだ。

「そうね、好きな男性に迫るのなら、黒かしら?」
「黒? セクシーにゃ!」

 猫娘ニーナのピンクの耳がぴんっと立つ。

「迷って仕方がないというのなら、ブラッド本人に聞いてみたら?」

 カサンドラの提案に、レイチェルの顔がきゅうっと赤くなる。

「あのあのあの!」
「それ、いいにゃ! ブラッドはきっとピンクを選ぶにゃ!」

 レイチェルが止める間もなく、フットワークの軽い猫娘はブラッドのところへ走って消えた。待ってぇ! と言いかけたレイチェルの手がむなしく宙を泳ぐ。既にニーナの姿は部屋にない。

「……カサンドラさん」
「あの猫娘は本当に素直よねぇ。まさか本当に本人に聞きに行くとは思わなかったわ」

 冗談だったのよとカサンドラに言われても、レイチェルは笑えない。ブラッドは隣の部屋で新郎の衣装の仮縫いである。そしてレイチェルもまたドレスの仮縫いの最中なので部屋を飛び出すわけにも行かず、その場で待機だ。そして帰ってきた猫娘ニーナの答えは「ブラッドが自分で選ぶって言ったにゃ。だからレイチェルのスリーサイズ、詳しく教えたにゃ」である。

「あらぁ、流石にこれは……どんなのを選ぶのか見物ね」

 カサンドラが楽しそうに笑い、レイチェルは卒倒しそうだった。
 ブラッドにスリーサイズを教えた……ど、どんな顔して会えば良いの……
 帰りの馬車の中は気まずくて終始無言。下着の話題は自分からは振れそうにない。レイチェルが身を縮めつつブラッドをチラリと見れば、窓の外を見ている彼は楽しそうである。

 その夜、ブラッドからプレゼントされたナイトランジェリーは、すっけすけの黒であった。黒はカサンドラが選んだ色である。なんとなく、なんとなく気になってしまった。

「どうして、黒を選んだの?」

 おずおずとレイチェルが問うと、けろりとブラッドが答えた。

「ん? 俺の色だから」

 え、あ……確かに黒いレースの下着には赤いリボンが付いている。いつもなら、ブラッドの色だと直ぐに気が付いたはずだ。別の意味でもの凄く恥ずかしい。
 やだ……私って焼きもち焼き? あの時の会話をブラッドが聞いているはずがないのに、ちくりと胸が痛んだのは、カサンドラさんが選んだ色だったからよね。
 カサンドラさんはもの凄い美人だから、つい……

「気に入らない?」
「そ、そんなことないわ!」

 レイチェルの声が裏返る。感じた焼きもちを誤魔化すように叫んだ後で、しまったと思う。よくよく見てみると、すっけすけランジェリーはセクシー過ぎると気が付く。
 ここここここここれ、着るの?

「試着してみる?」

 ブラッドにそう言われ、完全に引っ込めなくなった。
 隣室で試着してみると案の定、スッケスケランジェリーは下着の役目を果たしていない。体を覆っているはずのレースは、恥ずかしい部分が透けて見える。そして下半身を覆っているはずのショーツはもはや紐であった。黒いスケスケベビードールを身に着けたレイチェルは、自分の体を隠すようにしてぺったり座り込んだ。いまさら嫌だとも言えない。

 ど、どうしよう……。部屋を真っ暗にすれば……いえ、駄目。ブラッドはヴァンパイアだもの。暗闇でもよく目が見えるはず、どうすればいいの? なにか誤魔化す良い方法、良い方法は……
 そうだわ、お酒! お酒よ!
 自分のひらめきにレイチェルの表情がぱっと明るくなる。

 ブラッドを酔っ払わせれば、恥ずかしさが半減するかもしれないわ!
 そう考えたレイチェルは、挙式後の新婚初夜の寝室にワインをたっぷり用意して貰い、ブラッドに飲むよう勧めたが、彼はいっかないっこうに酔わない。そうこうしているうちに、自分の方がふわふわと良い気分になってしまった。シャンパン一杯でこれである。本当に酒に弱い。

「美味しいわ。もう一杯」

 当初の目的をすっかり忘れ、レイチェルは浮かれてしまった。

「んー……飲み過ぎは駄目」

 グラスをひょいっと取り上げられる。

「どうして?」
「泥酔して、俺の相手をしてもらえなくなるのは嫌だから」

 ブラッドにとさりとベッドに押し倒された。
 ある意味、レイチェルの意図は成功したともいえる。ふわふわと酔っ払っているので、自分が寝衣の下に着けているランジェリーのことなど、すっぱり意識から飛んでいた。寝衣をはだけたレイチェルの姿に、ブラッドが赤い瞳を細める。

「ん……やっぱりいい」

 ぽやんとした意識なので、何がいいんだろう? そんな風に思う程度だ。

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