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第二章 銀色の拘束

第四十六話 単純

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「千里眼としても使えるんだよね? リンはそうやって、いろんな国の景色を見て、僕達に教えてくれたけどな。君、やらないね? ま、どっちでもいいけど」

 ロイの言葉にヨアヒムはむくれたようで、

「そんなの知らない……」

 ふてくされ気味のそう言うと、ロイがさらに言いつのる。

「あ、そう? サイラス様が説明しなかった? あ、聞いてなかったか。無視ばっかりだったもんね? こんなに長く話したのも初めてかな?」
「だって……」
「別にいいよ。僕は気にしてない。君はそういうもんだって思ってる。でもね、邪眼イビルアイを使いこなせば危険を回避出来るのに、どうして使わないのか不思議。君の望み通り、命を奪わずに自分の身を守れると思うのに、どうして使わないの?」
「皆が嫌がる、から……」

 ヨアヒムが、もそもそとそう口にする。

「それね、邪眼イビルアイの性質をまったく分かってないよ。邪眼イビルアイの持ち主は傍にいる人間をどうしたって巻き込むから。使わなくても、君の傍にいる人間は悪夢を見るようになる。君を死神だって認識する。普通の人間はみんなそうなの。邪眼イビルアイは持ち主の命すら削ってしまうくらい強力な力なんだよ? だから、短命なの。邪眼イビルアイの持ち主は二十才まで生きない。君が例外なだけ」
「分かってるよ」
「分かってないと思う」

 ロイがきっぱりと言い切った。

「普通の人間として生きたいって、君が夢を見るのは勝手だけどさ、本当、君って馬鹿。君に石を投げつける人にすり寄って、君を守ろうとする人の手をはねつけるんだから」
「エラは違うよ」
「ふうん? それで? この先ずっとエラに守ってもらうつもりなの? 嫌でもそうなるよ? 君は生きているだけで攻撃されるんだから。聖光騎士団の連中がいい例じゃない。あれは合成種ダークハーフだと見ると赤ん坊だって殺すからね? 自分の身も守れない合成種ダークハーフなんて、害悪なだけだと思うけどな? 君はそれでいいの? そうやってエラにひっついて、彼女の身を危険にさらして……」
「ロイ、あの、もういいから……」

 暁の塔にいれば、そこまで大事にはならないと思うけど、ロイが言うことも間違ってはいないから、何とも言いようがない。ヨアヒムは今にも泣きそうだ。つい、ため息が漏れる。

「まぁ、邪眼イビルアイは確かに便利なんだよな。居ながらにして遠くを見通せるから、敵の襲撃を事前に察知出来るし、力ある奴がやると、声も拾えるっていうんだから驚きだ」

 私がそう言うと、ヨアヒムが目を丸くした。

「詳しいね?」
「え? まぁ……いろいろ遊んだから」
「遊んだ?」
邪眼イビルアイを持ってる奴って、基本子供だからさ。遊び感覚でちょいちょい……」

 攻撃型の合成種ダークハーフは短命だから、どうしたってそうなる。邪眼イビルアイに自分の命を削られての衰弱死だ。私の答えにヨアヒムは仰天したようで目をむいた。

「もしかして、邪眼イビルアイを持ってる奴と遊んだって事?」
「うん、そうだけど?」
「怖くなかった?」
「ああ、慣れだ、あんなの」
「慣れ? 慣れって……」
邪眼イビルアイは死者の国の入り口なんだよな? だから、まぁ、邪眼イビルアイを解放すると、確かに死者達が見えるけど、無視すればいい。見えるだけだから」

 ヨアヒムがぼんやりと言う。

「え? じゃあ、エラは怖くない? 僕が邪眼イビルアイを使っても平気?」
「うん、平気だ。一緒に遊んでみたいけど、お前、使うの嫌そうだったから……」
「僕、練習する!」

 うん?

邪眼イビルアイを使いこなせるように! エラを守れるようにがんばるよ!」

 いきなりだな、おい。まぁ、前向きになったからいいのか?

「君って単純……」

 ロイがぽつりと言う。気持ち分かる。

「でも、練習するんなら、サイラス様に頼めば……」
「いい、僕一人でやる」

 ロイの言葉を遮ってヨアヒムがそっぽを向く。
 サイラス嫌いは相変わらずか……。嫌っている理由がわからないから、こっちは取り持ちようがないんだよな。母親の自殺の原因は一体何だったんだ?

「わしが手伝ってやろうか?」

 ルーファスがそう言い出し、ヨアヒムはびっくりしたようだ。

「お爺さんが? 大丈夫なの? 邪眼イビルアイに対する恐怖心って、年を取れば取るほど大きくなるって聞いてるけど……」

 そう、死に近くなればなる程、邪眼イビルアイの力を切実に感じるようになるから、年食った奴ほどヨアヒムに怯えるんだよな。
 ヨアヒムの言いようを耳にしたルーファスは、首を傾げた。きょとんとした目だ。わっさわさの髭を撫でながら言う。

「……魔道士は邪眼イビルアイの力を始終感知するから、若かろうが年を食っていようが一緒じゃぞ?」

 ルーファスの台詞にヨアヒムは驚いたようだ。

「そう、なの?」
「若い魔道士がおぬしを避けて通るのを不思議に思わなんだのか?」
「僕が合成種ダークハーフだからだとばかり……」
「逆に五大魔道士は全員年寄りじゃが、おぬしに平気で牙をむくな? 死者の門を蹴散らせるだけの力があるからじゃ。魔道士の場合は年に関係なく、力が全てじゃよ。力ある奴がおぬしを恐れん」

 なるほどね。確かにそうかも。

「じゃあ……」
「ははは、そうそう、わしにまかせい! 悪戯の極意を!」
「教えんでいいわぁ!」

 すっぱあんとルーファスの頭を叩く。ヨアヒムをお前の色に染めるんじゃない! 純粋なだけに染まる可能性大だ!

「エレミアからも逃げられるようになるかもしれんぞ!」

 すかさずルーファスがそんな事を言い出した。え、無理だろ。そう思うも、ルーファスがちちちと指を振る。

「悪戯の奥義は相手の裏をかくことにある。ん? 興味ないか?」

 ちょっとある。けどなぁ……。ちらりと横手に目を向ければ、

「僕、がんばる!」

 きらっきらの目をしたヨアヒムがいて、猛烈な不安に駆られる。ルーファス色に染まるな? 頼むから……そんな事を思った。

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