45 / 63
第二章 銀色の拘束
第四十五話 意外な行動
しおりを挟む
「あー、もう、大丈夫」
「ふうん? 疲れた?」
「そうかも……」
ヒヤヒヤだ。っていうか、お前がいると本当に腹が痛くなりそうだから、どっか行って欲しい。
「医務室は回復魔法がかかっているから、もうちょっと寝ているといいよ。果物を持ってきたら、食べれたら食べて。君、全然食事しなかったよね? 酒ばかりかぱかぱ飲むって、どうなの。健康管理をもうちょっとして欲しいな」
ん? 何だこれ? え? もしかして文句じゃ無くて、本当に心配された?
「じゃ、僕はもう行くよ。ゆっくり休んで?」
りょ、良心の呵責が……。エレミアが親切なんて、嘘みたいな話だけど現実だ。今の今まで出てけって思ってたんですけどぉ。普段と違う行動は止めて欲しい。
「あ、あの!」
「あ、そうそう」
呼び止めようと身を起こすと、エレミアが振り返り、にっこり笑った。
「君に付いてこようとしたウジ虫はきっちり排除しておいたから。安心して?」
浮かべた笑顔がやけに黒くてひやりとなる。
え? ウジ虫? 嫌な予感。
その後からやってきたルーファスに事情を聞いて、予感が的中したことを知る。私が「お腹が!」なんて仮病を使ったもんだから、会場にいたヨアヒムが慌てて私を追いかけようとしてエレミアに見つかり、あっさりと排除されたようである。
「逆さづりの刑にされて、ぴーぴー泣いておった……遅くなってすまぬ」
逆さづり……私の仮病のとばっちりか。後で謝りに行こう。
「で? 腹は?」
「仮病……」
仕方なくルーファスに事情を説明すれば、
「冗談ぴょーん! って言って逃げれば……」
ふう、やれやれみたいな言い方をするな!
「ヨアヒムは逃げられなかったみたいだけどな!」
そう言うと、ルーファスが真面目な顔を作り、
「そりゃあ、結界が張ってある会場内から出れば、合成種だとばれるのは当たり前じゃろう。仮病を使って皆の注目を集めて退場したおぬしが悪い。それを追いかけたヨアヒムが見つかって折檻は当然の成り行きでは? わしはしっかり自分の仕事はしたぞ?」
そこできっちり理論的に説明するなぁ! 変なところで頭回るな! っていうか、元々頭はいいんだった、こいつ。口論すると言い負かされるのこっちか?
「ヨアヒムは無事か?」
「でなけりゃ、ここへは来ていないな」
ルーファスの視線で気が付く。
あ、一緒に来ていたのか。扉の所に人影がある。でも、医務室に在中している魔道士の視線が怖くて中へ入れなかったと……。ルーファスと一緒にいれば大丈夫だろうに、相変わらず気が小さいな。
「エラ、食べ過ぎで腹痛って本当?」
そう言って、ヨアヒムそっちのけで、堂々と医務室へ入ってきたのはロイだ。医療担当の魔道士の険悪な視線も気にならないらしい。食べ物を沢山抱えている。
誰が食べすぎだよ! 食べ過ぎはそっちだろうが! 私は食べてない! 飲んでただけ! って、こいつはなんで無事? どうやってエレミアの攻撃をかわしたんだ?
「ん? ゆっくり来たから?」
ロイが口をもぐもぐさせながら不思議そうに首を傾げる。
左様で。まぁ、こいつらしいっちゃこいつらしいな。のんびり動いて危険を全部回避ね。羨ましい性格してる。
最後に、おっかなびっくりヨアヒムがやってきて、
「無事でよかった」
そう言って笑った。ヨアヒムの菫色の澄んだ瞳に涙が……。
うう、良心の呵責が……こいつの泣き笑いがめっちゃきく! 純真無垢は反則だ! っていうか、お前が一番割を食ったな! ごめんよぉ! エレミアの被害にあったのこいつだけって……めちゃくちゃ泣ける。
「ごめん……」
「え? 何でエラが謝るの?」
いや、ほんっとごめんよ。今度はもうちょっと慎重に動くから、勘弁な。
ヨアヒムがふわりと笑う。
「そう言えば、エラと一緒に踊ってた人って誰かな? もの凄くダンスが上手かったね? 僕、見惚れちゃったよ」
ヨアヒムのその台詞に固まってしまう。
え? マジ? 分からなかった? 顔隠していても私なんか一目で分かったぞ? だからもの凄く冷や冷やだったんだけどな?
「ヨアヒム、あのさ……ちょおーっと聞いてもいいかな? ゼノスと一緒に暮らし始めてどのくらいだ?」
「え? えーっと……サイラスと同じだけ?」
十五年かよ! それでどうして分からない! 散々助けてもらったんだよな? あれか? そこまで無視? ゼノスの怒る気持ちが、もの凄く分かる気もするぞ?
「エラ? どうかした?」
「……何でもない」
ダンスの相手がゼノスだってばらすと、後々面倒そうなので黙っておく。本当、駄目だこりゃ。もうちょっと何とかしないと、両者の溝が埋まりそうにないな。
「エラと踊ってた相手? ゼノスだったじゃん。ヨアヒムって本当抜けてるよね」
ロイがけろりとそう言った。
そこでばらすなぁ! 空気を読まないって意味では、お前もどっこいだ! ほら見ろ、ヨアヒムが固まったぞ!
「ゼノス?」
「どこからどう見てもそうだった。っていうか、ヨアヒムの邪眼ってさ、視力が超絶良かったはずだよね? 腐ってない? 使わないから退化した?」
ロイ……何気に毒舌?
「ふうん? 疲れた?」
「そうかも……」
ヒヤヒヤだ。っていうか、お前がいると本当に腹が痛くなりそうだから、どっか行って欲しい。
「医務室は回復魔法がかかっているから、もうちょっと寝ているといいよ。果物を持ってきたら、食べれたら食べて。君、全然食事しなかったよね? 酒ばかりかぱかぱ飲むって、どうなの。健康管理をもうちょっとして欲しいな」
ん? 何だこれ? え? もしかして文句じゃ無くて、本当に心配された?
「じゃ、僕はもう行くよ。ゆっくり休んで?」
りょ、良心の呵責が……。エレミアが親切なんて、嘘みたいな話だけど現実だ。今の今まで出てけって思ってたんですけどぉ。普段と違う行動は止めて欲しい。
「あ、あの!」
「あ、そうそう」
呼び止めようと身を起こすと、エレミアが振り返り、にっこり笑った。
「君に付いてこようとしたウジ虫はきっちり排除しておいたから。安心して?」
浮かべた笑顔がやけに黒くてひやりとなる。
え? ウジ虫? 嫌な予感。
その後からやってきたルーファスに事情を聞いて、予感が的中したことを知る。私が「お腹が!」なんて仮病を使ったもんだから、会場にいたヨアヒムが慌てて私を追いかけようとしてエレミアに見つかり、あっさりと排除されたようである。
「逆さづりの刑にされて、ぴーぴー泣いておった……遅くなってすまぬ」
逆さづり……私の仮病のとばっちりか。後で謝りに行こう。
「で? 腹は?」
「仮病……」
仕方なくルーファスに事情を説明すれば、
「冗談ぴょーん! って言って逃げれば……」
ふう、やれやれみたいな言い方をするな!
「ヨアヒムは逃げられなかったみたいだけどな!」
そう言うと、ルーファスが真面目な顔を作り、
「そりゃあ、結界が張ってある会場内から出れば、合成種だとばれるのは当たり前じゃろう。仮病を使って皆の注目を集めて退場したおぬしが悪い。それを追いかけたヨアヒムが見つかって折檻は当然の成り行きでは? わしはしっかり自分の仕事はしたぞ?」
そこできっちり理論的に説明するなぁ! 変なところで頭回るな! っていうか、元々頭はいいんだった、こいつ。口論すると言い負かされるのこっちか?
「ヨアヒムは無事か?」
「でなけりゃ、ここへは来ていないな」
ルーファスの視線で気が付く。
あ、一緒に来ていたのか。扉の所に人影がある。でも、医務室に在中している魔道士の視線が怖くて中へ入れなかったと……。ルーファスと一緒にいれば大丈夫だろうに、相変わらず気が小さいな。
「エラ、食べ過ぎで腹痛って本当?」
そう言って、ヨアヒムそっちのけで、堂々と医務室へ入ってきたのはロイだ。医療担当の魔道士の険悪な視線も気にならないらしい。食べ物を沢山抱えている。
誰が食べすぎだよ! 食べ過ぎはそっちだろうが! 私は食べてない! 飲んでただけ! って、こいつはなんで無事? どうやってエレミアの攻撃をかわしたんだ?
「ん? ゆっくり来たから?」
ロイが口をもぐもぐさせながら不思議そうに首を傾げる。
左様で。まぁ、こいつらしいっちゃこいつらしいな。のんびり動いて危険を全部回避ね。羨ましい性格してる。
最後に、おっかなびっくりヨアヒムがやってきて、
「無事でよかった」
そう言って笑った。ヨアヒムの菫色の澄んだ瞳に涙が……。
うう、良心の呵責が……こいつの泣き笑いがめっちゃきく! 純真無垢は反則だ! っていうか、お前が一番割を食ったな! ごめんよぉ! エレミアの被害にあったのこいつだけって……めちゃくちゃ泣ける。
「ごめん……」
「え? 何でエラが謝るの?」
いや、ほんっとごめんよ。今度はもうちょっと慎重に動くから、勘弁な。
ヨアヒムがふわりと笑う。
「そう言えば、エラと一緒に踊ってた人って誰かな? もの凄くダンスが上手かったね? 僕、見惚れちゃったよ」
ヨアヒムのその台詞に固まってしまう。
え? マジ? 分からなかった? 顔隠していても私なんか一目で分かったぞ? だからもの凄く冷や冷やだったんだけどな?
「ヨアヒム、あのさ……ちょおーっと聞いてもいいかな? ゼノスと一緒に暮らし始めてどのくらいだ?」
「え? えーっと……サイラスと同じだけ?」
十五年かよ! それでどうして分からない! 散々助けてもらったんだよな? あれか? そこまで無視? ゼノスの怒る気持ちが、もの凄く分かる気もするぞ?
「エラ? どうかした?」
「……何でもない」
ダンスの相手がゼノスだってばらすと、後々面倒そうなので黙っておく。本当、駄目だこりゃ。もうちょっと何とかしないと、両者の溝が埋まりそうにないな。
「エラと踊ってた相手? ゼノスだったじゃん。ヨアヒムって本当抜けてるよね」
ロイがけろりとそう言った。
そこでばらすなぁ! 空気を読まないって意味では、お前もどっこいだ! ほら見ろ、ヨアヒムが固まったぞ!
「ゼノス?」
「どこからどう見てもそうだった。っていうか、ヨアヒムの邪眼ってさ、視力が超絶良かったはずだよね? 腐ってない? 使わないから退化した?」
ロイ……何気に毒舌?
2
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる