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第二章 銀色の拘束

第四十話 先客

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「オリビエの火傷していない時の顔は、サイラスと瓜二つじゃったよ。髪と目の色は違うが、ははは、ここへ来た当初、サイラスの顔を知っている者達は皆驚いた」

 成る程。そっくりだったんで身代わりにしたのか? それも、何だかなぁ……。まぁ、本人同士がいいのなら、それでいいのか?
 いや、でも、火傷で破談って、リアン、露骨すぎだろう、それ。お前の顔だけが目当てだって言われたようなもんで、一気に気の毒感倍増。
 けど、オリビエ・レンブル、だっけ? あれ、聖光騎士団の総団長の息子なんだよなぁ。合成種ダークハーフを目の敵にしている親玉の息子だ。関わらない方が無難だな、うん。

「踊っていただけますか?」

 そう言って手を差し出したのは……えー、誰だ?
 優雅な物腰から、多分貴族なんだろうけど、仮面で顔が分からないんで、名前も分からない。よく知らない者同士の仮面舞踏会って、本当に訳分からん。どーすんだよ、これ。

「サイモン・イベール・グラントです。以後お見知りおきを」

 私の戸惑いが分かったのか、仮面を外し、再度自己紹介してくれた。グラント王国の第二王子だと分かる。金髪の見目麗しい王子様だ。
 その後も何人かのお誘いがあったけれど、やっぱりダンスをする前に皆再度自己紹介してくれた。仮面も外してくれる。
 何だが見目形の整った男ばかりだな、そう思っていると、

「モテモテじゃのう! 皆自分を売り込もうと必死じゃな!」

 ルーファスがそう言って笑った。
 成る程、どの国も聖女を取り込もうと必死ってことか。それで見た目の良い男ばかり送り込んできたのか?
 でも、私の母国はグラント王国だ。孤児だけど、他の国の貴族と結婚なんて、陛下が絶対認めないだろうに。となると、あのサイモン・イベール・グラントが私の筆頭婚約者候補になるのか? まぁ、どのみちお貴族様と結婚なんて、私はご免だけどな。

 その後、あちらこちらで、見目の良い貴族にちやほやされまくりで、いい加減胸焼けがしてきた。にこにこ笑い続けるのもしんどい。
 婚約者候補達を振り切り、人気の無い魔道庭園に出ると先客がいて、そうっと横移動したけれど気付かれた。

「誰だ?」

 気配を読まれたような感があったので、逃げるわけにもいかず、

「えーっと、ちょっと涼もうかと……」

 そう答えるも、目にした人物が振り向いた時点で、うわっと思った。オリビエ・レンブルだと直ぐ分かる。仮面をしていても火傷の痕が酷い。

「聖女様か」

 オリビエはそう呟いて立ち上がった。そのまま別の場所に行こうとしたので、

「あ、いや、私が別の場所に行くから、お前はここにいればいい」

 そう言って引き止めた。私の方が後から来たのに、わざわざ別の場所に追いやろうとは思わない。

「……一人か?」

 再び腰を下ろしたオリビエがそう口にする。

「えっと、まぁ……」

 聖女が一人ってのが意外なんだろうが、エドガーは会場においてきたからそうなるな。撒くつもりはなかったけど、婚約者候補達を撒いたら必然的にこうなった。

合成種ダークハーフと懇意にしていると聞いたが……」

 オリビエの台詞に、ぎくぅっとなる。聖光騎士団の方でも、もう噂になってるのか。

「あ、まぁ」
「否定しないんだな?」

 笑われたような気がした。おや? と思う。合成種ダークハーフと懇意にしているなんて言えば、絶対突っかかってくると思ったのに、意外だ。血の気の多い連中だとばかり思っていたけど違うのか? あ、私が聖女だからか?

「怖くないのか?」

 オリビエにそんな風に問われて、

「何が?」

 意味が分からず首を傾げてしまう。

合成種ダークハーフだ」

 ああ、そっちね。

「うん、まぁ」
「どうして?」

 どうしてって……。

「お前が仲間の聖光騎士団員を怖がらないのと一緒だ」

 聖光騎士団員は獣人か異能持ちが多い。
 そう言ったら、オリビエに吹き出された。盛大に笑われてしまう。

「あ、ははは! ああ、そうだな! 聖光騎士団員の殆どが、魔道実験で生み出された化け物揃いだから、ああ、そうかもしれん」

 獣人は魔道技術によって生み出される。生み出された獣人の身体能力は防御型の合成種ダークハーフに匹敵するらしいから、合成種ダークハーフ狩りにはもってこいなのだろうけれど、魔道実験と言われるように、成功率が極めて低い。
 だから、志願する連中は大抵金目当てだ。死んでも多額の賠償金が遺族に支払われる契約になっている。

「どうして実験体になんかなったんだ?」

 不思議に思ってそう聞くと、

「……言う必要が?」

 オリビエから不機嫌そうな声が返ってきた。
 まぁ、ないな。ごめん、不躾だよな、これ。

「その火傷な、治せるかどうか、五大魔道士に相談してみるといいかも」

 ルーファスは治せないって言ってたけれど、火傷の痕を魔術で誤魔化せるんじゃないか、そう思っての提案だったのだけれど、

「必要ない」

 オリビエにそっけなく断られてしまう。

「どうにもならないって言われたか?」
「……そのまんまだ、必要ない。放っておいてくれ」

 今度こそ立ち上がり、オリビエは立ち去りかけたけど、

「おい、オリビエ。こんなところで聖女様と何やってんだよ?」

 絡んできた奴等がいた。全員、オリビエと同じ赤い騎士服姿の聖光騎士団員だ。仲間か? それにしちゃ、雰囲気が刺々しい。

「そのご面相で聖女様の相手をしようなんて、うぬぼれがすぎるぜ、なぁ?」

 男の一人が言う。

「そうそう、元は色男でも今は化け物だもんな。大人しくしてたほうがいいぜ?」

 賛同した男がげらげら笑った。
 おいおい、何なんだ? この連中は?

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