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第一章 戦女神降臨
第十話 合成種の苦悩
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トントンとドアを叩くと、ドアの向こう側から現れた顔が困惑した。よかった当たりだ。
「……俺の部屋がよく分かったな?」
向こう側から現れたのは、例の目つきの鋭い男、合成種のゼノス・グレイシードだ。暗殺者のような雰囲気を身にまとった奴。極限まで研ぎ澄まされたナイフのよう。
私は首を横に振った。
「いや、誰に聞いても嫌な顔されるだけだったから、適当に当たりを付けたドアを片っ端から叩いたんだ。これで二十回目。ようやくお前に会えた」
そう言うと、苦笑された。
あ、こいつ、笑うと雰囲気変わるのな。ちょっと少年っぽい感じになる。こっちの方がいいけど、こういうタイプは笑うのが苦手な奴がほとんどだ。無理矢理笑わせようとすると顔が引きつったりする。
「……よくやるよ。爺さんに聞けば、教えてもらえたんじゃないのか?」
あ……。ゼノスにそう言われて気が付いた。ルーファス? そういや、そうかも……。はははと笑って誤魔化すことにする。間抜けだ。
「……一人か?」
ゼノスが周囲を見回し、私は頷く。護衛のエドガーはやっぱり撒いた。後で怒られるだろうけど無視する。こいつとエドガーが顔を合わせようものなら、ぴりぴりとした板挟みにあって、こっちがまいるわ。食事は楽しく取りたい。
「ロイ・シンプソンは?」
「隣の部屋だ」
すいっとゼノスの視線が横を向く。
「じゃ、一緒に夕食を食べよう。弁当沢山持ってきたから大丈夫だろう」
ゼノスが険しい顔をし、
「あいつ、相当食うぜ? 十人前くらい平気で」
十人前!? ぎょっとなった。
「お前達、食事はどうしてるんだ?」
「食堂から適当に持ってくる」
「食堂……私とは違う場所か?」
「あたりまえだ。お前は聖女候補なんだろ? 俺達と一緒になるわけがない」
ぎくうっとなる。ばれてーら。
「誰に聞いた?」
「あん?」
「私が聖女候補だって」
「……お前、もの凄い噂になってるって自覚なしか? 合成種と付き合ういかれた女って言われまくってるぞ? ついでに男狂いとか……目の敵にされているとしか思えない。回れ右して帰ったほうがいいかもな?」
「帰らないよ」
ふてくされてそう言うと、
「強情だな」
そう言われてしまう。自覚してますよーだ。心の中で舌を出す。ロイ・シンプソンには自分用の食事を持ってきてもらい、そろって夕食を取ることにする。
ローテーブルの上に並んでいるのは肉料理ばかりだ。
男が好む料理ってこんな感じだよな。もうちょっと野菜も食え。そう思って、二人の皿に野菜をぽいぽい放り込めば、黙々とそれも食べる。
特に好き嫌いがあるわけでもないらしい。
単純に好きな物を取ってきたらこうなっただけか。
「女の人がいると食事が華やかになるねぇ」
ロイがふくよかな顔に笑みを浮かべてそう言った。
そういえば……合成種は男しかいないんだよな。だから合成種が大勢寄り集まると、むさ苦しくなる。私は首を傾げてしまった。
「何で女の合成種はいないんだろうな?」
私がそう言うと、ゼノスが淡々と答えた。
「いないわけじゃない。女も生まれる。ただ力が表面化しないだけ」
「そこが謎なんだよな。女の場合は、合成種の能力は出ないのに、その女性から生まれる男児はやっぱり合成種になるだろ? 合成種を生み出す遺伝子は持っていても、女の場合は能力が顕現しない。どうしてだ?」
「……その方が幸せだ」
ゼノスが言う。
「力が表面化しないかわりに、生き物を殺したいという衝動もないんだからな」
「まぁ、そうだけど……その場合、自分は普通の人間だから、知識も無く合成種を生むと結構悲惨だぞ? 気味悪がって我が子を虐待するケースもある」
「まあな。だからサイラス様がああやって合成種を保護して回っているんだろ? 他のくそったれ魔道士どもは見て見ぬ振りしてっけどな」
「合成種は魔道士に生み出されたから、最初はここ暁の塔で暮らしてたんだよな?」
「そうだ。俺は親父からそういった話を聞いているよ」
「親父さんから?」
ゼノスが頷き、
「ああ。ちゃんとその時の事が語り継がれてる。昔の偉大なる大魔道士ドミニク・バーンっていう奴が元凶だ。聖魔戦争時代、強い戦士を生み出すために、人間の赤子に魔人の血を組み込んだ。それがどういう結果をもたらすのか考えもせずに。迷惑な話だよ。何が大魔道士だ。そいつが後の悲劇の大本だ」
ゼノスが手にしたコップの水を飲み干した。
「実験に成功し、喜んだけれど、魔人の血がもたらす狂気に気が付いた時は遅かった。人として成長しちまってたから、殺すわけにもいかないってな。自分の可愛がっていた鳥を食い殺したのが始まりだったか? ま、そこはどうでもいい。悲劇は拡大し、俺達合成種の素行を持て余した暁の塔の魔道士達は、合成種をここから追い出して、血は方々に拡散、今に至るってわけだ。そして自分達は知らんぷり。善人面してここで平和に暮らしてやがる」
「……恨み骨髄だな?」
そう言うと、ゼノスの視線が険しくなる。
「あたりまえだ。合成種はな、ほんのちょっとしたきっかけで親兄弟を殺っちまうんだよ。正気に返った時は、目の前に血まみれの遺体が転がってるって寸法だ。それを目にした時の俺達の衝撃が理解出来るか? 狂気に走った時の記憶が無いって部分だけが、唯一の救いだよ」
吐き捨てるよに言う。ああ、こいつは親兄弟を手にかけた事があるんだと分かる。そういった痛みを持った奴を何度も見てきたから。
「家族はいないのか?」
そう問うと、
「いない。生き残ったのは俺だけだ」
苦々しい口調でゼノスがそう言った。ああ、やっぱりな。
「ロイの家族は?」
横手の丸っこい男に向かって問うと、ふくよかな顔が笑う。
「僕? 僕は孤児だから知らない。親はどこかで生きているんじゃない?」
「私と同じか」
「あれ? エラも孤児?」
私が頷くと、ロイが明るく笑う。
「あはは、僕と同じかぁ。でも僕は幸せだったよ? サイラス様に小さい時に引き取られたからね。サイラス様が何不自由ない暮らしって奴を保証してくれたんだ。孤児院の先生達も優しかったし、辛い記憶は殆ど無い。唯一、院長先生がいなくなっちゃったのが悲しかったなぁ」
「いなくなった?」
「うん、あるときふいっとね。僕、ずっと待ってたんだけど、とうとう帰ってこなかったんだ。キノコを取りに山に一緒に入ったまでは記憶があるんだけど、どうしてかな、その後の事を覚えていないんだよ。院長先生は帰ってこなかった。どうしてだろう?」
ロイはじっと手元のリンゴに視線を落とし、
「リンゴを見るとね、何かを思い出しそうになるんだけど……院長先生がこう、リンゴをくれたんだ。食べなさいって笑って……でもそれが悲鳴に変わる。いっつもそう。記憶が変なんだよね。あの時、どうだったんだろう? 笑ってたっけ? 叫んでたっけ?」
「……考えても分からない事を考えてもしょうがねーよ。さっさと食え」
ゼノスがそう言って話を遮った。
「あー、うん。でもなぁ……」
「食い足りないなら、食堂からもっともらってこいよ」
「あ、そうだね。そうするよ」
ロイが笑い、立ち上がる。彼が部屋から出て行くと、
「院長先生とやらの話は聞き返さないでやってくれ」
ゼノスがそう言った。
「どうして?」
「思い出さないほうがいいからだよ。あいつ、院長先生を殺っちまってる。記憶が曖昧なのは狂気に支配されていたから。でも、遺体は見ているはずだ。ショックがでかすぎてそのことを忘れているんだよ。思い出さない方がいい」
あ……。
「孤児だったから、狂気のしずめ方を知らなかった?」
私がそう言うと、ゼノスが頷いた。
「だろうな。けど、知らなくても、普通は無意識に鳥とかの小動物を殺して、精神のバランスを取るもんだよ。けど、そう言った行為を、周囲の大人達がやめさせたんだろ? 無知はこえぇよ。俺達合成種の殺戮衝動は、発散されずに蓄積されると、身近な人間を殺しちまうってのに……小動物の殺しは止めさせちゃ駄目なんだ。動物の虐殺が唯一、俺達の精神を安定させてくれるんだから。合成種を無慈悲な殺人鬼にしちまうのは、いつだって周囲の無知な人間達だ」
「辛いな……」
「ああ……」
ゼノスはそう同意してから、ふっと笑った。
「本当、お前、合成種に詳しいんだな?」
「ん?」
「俺達合成種を見て、辛いな、なんて台詞を口にする普通の人間はいなかったからよ。お前、変わってる。ああ、いや、そういえばお袋はそうだったな」
「お袋さん?」
「ああ。俺の母親は合成種だと知っていながら、親父と一緒になったんだ。おしどり夫婦なんて言われるくらい仲が良かったよ。けど……ああ、いや、いい」
口を閉じた辛そうなゼノスの表情から、けど……その先の言葉が何となく分かってしまって、私も口を閉じた。
本当に合成種の過去は悲惨だよな。サイラスだって自分の父親を殺している。自分の意志じゃ無かったけれど。魔人の血の狂気はどんな善人も殺人鬼に変えちまう。
だから、サイラスはずっと研究をしていた。魔人の血を合成種の中から取り除けないかと。血の狂気を消滅させられないかと。求めて求めて求め続けた。
きっと、殺戮衝動のないヨアヒムを目にした時は、歓喜した筈だ。自ら求め続けた答えを手に入れたのだから。なんとしても彼から秘密を解き明かしたいと、そう思ったに違いない。ヨアヒム、あ……。
「そうだ! 聞こうと思っていて忘れてた。ヨアヒムの事をお前、仲間じゃないって言ってたよな? あれ、どういう意味だ?」
ゼノスの目が剣呑になる。
「……そのまんまだよ。あいつは仲間じゃねぇ。普通の人間より質が悪い」
「……俺の部屋がよく分かったな?」
向こう側から現れたのは、例の目つきの鋭い男、合成種のゼノス・グレイシードだ。暗殺者のような雰囲気を身にまとった奴。極限まで研ぎ澄まされたナイフのよう。
私は首を横に振った。
「いや、誰に聞いても嫌な顔されるだけだったから、適当に当たりを付けたドアを片っ端から叩いたんだ。これで二十回目。ようやくお前に会えた」
そう言うと、苦笑された。
あ、こいつ、笑うと雰囲気変わるのな。ちょっと少年っぽい感じになる。こっちの方がいいけど、こういうタイプは笑うのが苦手な奴がほとんどだ。無理矢理笑わせようとすると顔が引きつったりする。
「……よくやるよ。爺さんに聞けば、教えてもらえたんじゃないのか?」
あ……。ゼノスにそう言われて気が付いた。ルーファス? そういや、そうかも……。はははと笑って誤魔化すことにする。間抜けだ。
「……一人か?」
ゼノスが周囲を見回し、私は頷く。護衛のエドガーはやっぱり撒いた。後で怒られるだろうけど無視する。こいつとエドガーが顔を合わせようものなら、ぴりぴりとした板挟みにあって、こっちがまいるわ。食事は楽しく取りたい。
「ロイ・シンプソンは?」
「隣の部屋だ」
すいっとゼノスの視線が横を向く。
「じゃ、一緒に夕食を食べよう。弁当沢山持ってきたから大丈夫だろう」
ゼノスが険しい顔をし、
「あいつ、相当食うぜ? 十人前くらい平気で」
十人前!? ぎょっとなった。
「お前達、食事はどうしてるんだ?」
「食堂から適当に持ってくる」
「食堂……私とは違う場所か?」
「あたりまえだ。お前は聖女候補なんだろ? 俺達と一緒になるわけがない」
ぎくうっとなる。ばれてーら。
「誰に聞いた?」
「あん?」
「私が聖女候補だって」
「……お前、もの凄い噂になってるって自覚なしか? 合成種と付き合ういかれた女って言われまくってるぞ? ついでに男狂いとか……目の敵にされているとしか思えない。回れ右して帰ったほうがいいかもな?」
「帰らないよ」
ふてくされてそう言うと、
「強情だな」
そう言われてしまう。自覚してますよーだ。心の中で舌を出す。ロイ・シンプソンには自分用の食事を持ってきてもらい、そろって夕食を取ることにする。
ローテーブルの上に並んでいるのは肉料理ばかりだ。
男が好む料理ってこんな感じだよな。もうちょっと野菜も食え。そう思って、二人の皿に野菜をぽいぽい放り込めば、黙々とそれも食べる。
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単純に好きな物を取ってきたらこうなっただけか。
「女の人がいると食事が華やかになるねぇ」
ロイがふくよかな顔に笑みを浮かべてそう言った。
そういえば……合成種は男しかいないんだよな。だから合成種が大勢寄り集まると、むさ苦しくなる。私は首を傾げてしまった。
「何で女の合成種はいないんだろうな?」
私がそう言うと、ゼノスが淡々と答えた。
「いないわけじゃない。女も生まれる。ただ力が表面化しないだけ」
「そこが謎なんだよな。女の場合は、合成種の能力は出ないのに、その女性から生まれる男児はやっぱり合成種になるだろ? 合成種を生み出す遺伝子は持っていても、女の場合は能力が顕現しない。どうしてだ?」
「……その方が幸せだ」
ゼノスが言う。
「力が表面化しないかわりに、生き物を殺したいという衝動もないんだからな」
「まぁ、そうだけど……その場合、自分は普通の人間だから、知識も無く合成種を生むと結構悲惨だぞ? 気味悪がって我が子を虐待するケースもある」
「まあな。だからサイラス様がああやって合成種を保護して回っているんだろ? 他のくそったれ魔道士どもは見て見ぬ振りしてっけどな」
「合成種は魔道士に生み出されたから、最初はここ暁の塔で暮らしてたんだよな?」
「そうだ。俺は親父からそういった話を聞いているよ」
「親父さんから?」
ゼノスが頷き、
「ああ。ちゃんとその時の事が語り継がれてる。昔の偉大なる大魔道士ドミニク・バーンっていう奴が元凶だ。聖魔戦争時代、強い戦士を生み出すために、人間の赤子に魔人の血を組み込んだ。それがどういう結果をもたらすのか考えもせずに。迷惑な話だよ。何が大魔道士だ。そいつが後の悲劇の大本だ」
ゼノスが手にしたコップの水を飲み干した。
「実験に成功し、喜んだけれど、魔人の血がもたらす狂気に気が付いた時は遅かった。人として成長しちまってたから、殺すわけにもいかないってな。自分の可愛がっていた鳥を食い殺したのが始まりだったか? ま、そこはどうでもいい。悲劇は拡大し、俺達合成種の素行を持て余した暁の塔の魔道士達は、合成種をここから追い出して、血は方々に拡散、今に至るってわけだ。そして自分達は知らんぷり。善人面してここで平和に暮らしてやがる」
「……恨み骨髄だな?」
そう言うと、ゼノスの視線が険しくなる。
「あたりまえだ。合成種はな、ほんのちょっとしたきっかけで親兄弟を殺っちまうんだよ。正気に返った時は、目の前に血まみれの遺体が転がってるって寸法だ。それを目にした時の俺達の衝撃が理解出来るか? 狂気に走った時の記憶が無いって部分だけが、唯一の救いだよ」
吐き捨てるよに言う。ああ、こいつは親兄弟を手にかけた事があるんだと分かる。そういった痛みを持った奴を何度も見てきたから。
「家族はいないのか?」
そう問うと、
「いない。生き残ったのは俺だけだ」
苦々しい口調でゼノスがそう言った。ああ、やっぱりな。
「ロイの家族は?」
横手の丸っこい男に向かって問うと、ふくよかな顔が笑う。
「僕? 僕は孤児だから知らない。親はどこかで生きているんじゃない?」
「私と同じか」
「あれ? エラも孤児?」
私が頷くと、ロイが明るく笑う。
「あはは、僕と同じかぁ。でも僕は幸せだったよ? サイラス様に小さい時に引き取られたからね。サイラス様が何不自由ない暮らしって奴を保証してくれたんだ。孤児院の先生達も優しかったし、辛い記憶は殆ど無い。唯一、院長先生がいなくなっちゃったのが悲しかったなぁ」
「いなくなった?」
「うん、あるときふいっとね。僕、ずっと待ってたんだけど、とうとう帰ってこなかったんだ。キノコを取りに山に一緒に入ったまでは記憶があるんだけど、どうしてかな、その後の事を覚えていないんだよ。院長先生は帰ってこなかった。どうしてだろう?」
ロイはじっと手元のリンゴに視線を落とし、
「リンゴを見るとね、何かを思い出しそうになるんだけど……院長先生がこう、リンゴをくれたんだ。食べなさいって笑って……でもそれが悲鳴に変わる。いっつもそう。記憶が変なんだよね。あの時、どうだったんだろう? 笑ってたっけ? 叫んでたっけ?」
「……考えても分からない事を考えてもしょうがねーよ。さっさと食え」
ゼノスがそう言って話を遮った。
「あー、うん。でもなぁ……」
「食い足りないなら、食堂からもっともらってこいよ」
「あ、そうだね。そうするよ」
ロイが笑い、立ち上がる。彼が部屋から出て行くと、
「院長先生とやらの話は聞き返さないでやってくれ」
ゼノスがそう言った。
「どうして?」
「思い出さないほうがいいからだよ。あいつ、院長先生を殺っちまってる。記憶が曖昧なのは狂気に支配されていたから。でも、遺体は見ているはずだ。ショックがでかすぎてそのことを忘れているんだよ。思い出さない方がいい」
あ……。
「孤児だったから、狂気のしずめ方を知らなかった?」
私がそう言うと、ゼノスが頷いた。
「だろうな。けど、知らなくても、普通は無意識に鳥とかの小動物を殺して、精神のバランスを取るもんだよ。けど、そう言った行為を、周囲の大人達がやめさせたんだろ? 無知はこえぇよ。俺達合成種の殺戮衝動は、発散されずに蓄積されると、身近な人間を殺しちまうってのに……小動物の殺しは止めさせちゃ駄目なんだ。動物の虐殺が唯一、俺達の精神を安定させてくれるんだから。合成種を無慈悲な殺人鬼にしちまうのは、いつだって周囲の無知な人間達だ」
「辛いな……」
「ああ……」
ゼノスはそう同意してから、ふっと笑った。
「本当、お前、合成種に詳しいんだな?」
「ん?」
「俺達合成種を見て、辛いな、なんて台詞を口にする普通の人間はいなかったからよ。お前、変わってる。ああ、いや、そういえばお袋はそうだったな」
「お袋さん?」
「ああ。俺の母親は合成種だと知っていながら、親父と一緒になったんだ。おしどり夫婦なんて言われるくらい仲が良かったよ。けど……ああ、いや、いい」
口を閉じた辛そうなゼノスの表情から、けど……その先の言葉が何となく分かってしまって、私も口を閉じた。
本当に合成種の過去は悲惨だよな。サイラスだって自分の父親を殺している。自分の意志じゃ無かったけれど。魔人の血の狂気はどんな善人も殺人鬼に変えちまう。
だから、サイラスはずっと研究をしていた。魔人の血を合成種の中から取り除けないかと。血の狂気を消滅させられないかと。求めて求めて求め続けた。
きっと、殺戮衝動のないヨアヒムを目にした時は、歓喜した筈だ。自ら求め続けた答えを手に入れたのだから。なんとしても彼から秘密を解き明かしたいと、そう思ったに違いない。ヨアヒム、あ……。
「そうだ! 聞こうと思っていて忘れてた。ヨアヒムの事をお前、仲間じゃないって言ってたよな? あれ、どういう意味だ?」
ゼノスの目が剣呑になる。
「……そのまんまだよ。あいつは仲間じゃねぇ。普通の人間より質が悪い」
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