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番外編 王子殿下の思い人
第十六話
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「ディオン様! どうしてですか? どうしてアニエスとの婚約を解消したんですの?」
後日、クラリスが、城内にいるディオン・ダーナを探し出し、婚約解消の理由を問い詰めると、彼はなんとも言えない顔をした。
「勘違いだったんです」
彼はそう言って自嘲気味に笑う。少しお痩せになったろうか?
「勘違い?」
怪訝そうな声になってしまうのは致し方ない。
「そう、アニエス王女殿下を愛していると、私は勘違いをしていたようなんです。それがはっきり分かったので、婚約解消に応じました。アニエス王女殿下がそう望まれましたので……」
「アニエスが!?」
クラリスは仰天した。一体どういうことなのか……。
「ああ、いえ、いいんです、これで。先程も言ったように、彼女を愛していると勘違いしていただけなんですから。アニエス王女殿下も私との結婚がなくなって清々したようですし、これでいいんです」
「そんな……」
ディオン様が寂しそうに笑った。
「婚約おめでとう。ビンセント殿下とうまくいったんですね?」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
そう、ディオン様の言葉通り、つい先日、ビンセント殿下との婚約が正式に決まったばかりで、まだ夢見心地である。身につけている黄色い髪飾りは、ビンセント殿下から頂いたものだ。貴婦人方からは散々羨ましがられ、彼の話を何度もねだられた。
その上、結婚が決まって、ビンセント殿下の人気が下がるどころか、彼の姿を写し取った写光画が飛ぶように売れているらしい。今朝もまた、とっておきの品だと、侍女のニーナに嬉しそうに見せられたばかりである。
――クラリス様とビンセント殿下が一緒に映った写光画があれば、是非欲しいですわ!
そんな事をニーナが嬉しそうに口にした。
ディオン様の目が、黄色い髪飾りに向く。パールとイエローダイヤをあしらったとても素敵な一品だ。夜会用にと思ったけれど、普段使いにして欲しいと言われ、今こうして身につけている。
「その髪飾り……よく似合っています」
「あ、ありがとうございます」
「それは、あなたが好きな色ですね?」
「は、はい、その……そうです」
「私はそんな事も知らなかった……」
ぽつりと呟く。
「いや、知ろうともしなかった。私の曇った目は、ずっとアニエスを追っていたから……アニエスの好きな物なら言えるんですよ。赤い薔薇にダイヤモンド……しゃれた会話に観劇……ビンセント殿下に、あなたの好きな物は何だと問われて、まったく答えられなかった。ひまわりが好きだったんですね? そんなあなたに、私はずっと赤い薔薇を送り続けていた」
大きく息を吐き出した。
「ビンセント殿下は、あなたをよくご存じだ。好きな書物も好きな食べ物も本当によく知っていて……私の方がずっと付き合いが長いはずなのに、どうしてでしょうね? ひまわりが好きだと教えてくれたのも彼です。私は今まで何を見ていたのかと、自分の至らなさを思い知らされたようで、本当に恥ずかしかった。あなたの恋人だったなどと語るのもおこがましい。こんな情けない男では、アニエスに振られて当然です」
クラリスは首を横に振った。
「そんな……元気を出してください、ディオン様。この先きっと、本当に愛する女性を見つけられると思いますわ。ディオン様はその、十分素敵ですもの」
ディオン様が笑った。いつになく優しい眼差しだ。
かつて、自分を見ていたあの眼差しが戻ったかのよう。
「本当、私は見る目がなかったんですね。あなたの言葉はいつだって温かかったのに……私は見た目の美しさに惑わされて、本物とまがい物を取り違えた」
「え?」
「素晴らしい宝を手にしていたのに、それと気が付かずに捨ててしまった。クラリス王女殿下、あなたは本当に素晴らしい女性ですよ。私なんかにはもったいない。本当に、心からそう思います。どうか、その、お幸せに……」
ディオン様はそう言って立ち去った。
後日、クラリスが、城内にいるディオン・ダーナを探し出し、婚約解消の理由を問い詰めると、彼はなんとも言えない顔をした。
「勘違いだったんです」
彼はそう言って自嘲気味に笑う。少しお痩せになったろうか?
「勘違い?」
怪訝そうな声になってしまうのは致し方ない。
「そう、アニエス王女殿下を愛していると、私は勘違いをしていたようなんです。それがはっきり分かったので、婚約解消に応じました。アニエス王女殿下がそう望まれましたので……」
「アニエスが!?」
クラリスは仰天した。一体どういうことなのか……。
「ああ、いえ、いいんです、これで。先程も言ったように、彼女を愛していると勘違いしていただけなんですから。アニエス王女殿下も私との結婚がなくなって清々したようですし、これでいいんです」
「そんな……」
ディオン様が寂しそうに笑った。
「婚約おめでとう。ビンセント殿下とうまくいったんですね?」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
そう、ディオン様の言葉通り、つい先日、ビンセント殿下との婚約が正式に決まったばかりで、まだ夢見心地である。身につけている黄色い髪飾りは、ビンセント殿下から頂いたものだ。貴婦人方からは散々羨ましがられ、彼の話を何度もねだられた。
その上、結婚が決まって、ビンセント殿下の人気が下がるどころか、彼の姿を写し取った写光画が飛ぶように売れているらしい。今朝もまた、とっておきの品だと、侍女のニーナに嬉しそうに見せられたばかりである。
――クラリス様とビンセント殿下が一緒に映った写光画があれば、是非欲しいですわ!
そんな事をニーナが嬉しそうに口にした。
ディオン様の目が、黄色い髪飾りに向く。パールとイエローダイヤをあしらったとても素敵な一品だ。夜会用にと思ったけれど、普段使いにして欲しいと言われ、今こうして身につけている。
「その髪飾り……よく似合っています」
「あ、ありがとうございます」
「それは、あなたが好きな色ですね?」
「は、はい、その……そうです」
「私はそんな事も知らなかった……」
ぽつりと呟く。
「いや、知ろうともしなかった。私の曇った目は、ずっとアニエスを追っていたから……アニエスの好きな物なら言えるんですよ。赤い薔薇にダイヤモンド……しゃれた会話に観劇……ビンセント殿下に、あなたの好きな物は何だと問われて、まったく答えられなかった。ひまわりが好きだったんですね? そんなあなたに、私はずっと赤い薔薇を送り続けていた」
大きく息を吐き出した。
「ビンセント殿下は、あなたをよくご存じだ。好きな書物も好きな食べ物も本当によく知っていて……私の方がずっと付き合いが長いはずなのに、どうしてでしょうね? ひまわりが好きだと教えてくれたのも彼です。私は今まで何を見ていたのかと、自分の至らなさを思い知らされたようで、本当に恥ずかしかった。あなたの恋人だったなどと語るのもおこがましい。こんな情けない男では、アニエスに振られて当然です」
クラリスは首を横に振った。
「そんな……元気を出してください、ディオン様。この先きっと、本当に愛する女性を見つけられると思いますわ。ディオン様はその、十分素敵ですもの」
ディオン様が笑った。いつになく優しい眼差しだ。
かつて、自分を見ていたあの眼差しが戻ったかのよう。
「本当、私は見る目がなかったんですね。あなたの言葉はいつだって温かかったのに……私は見た目の美しさに惑わされて、本物とまがい物を取り違えた」
「え?」
「素晴らしい宝を手にしていたのに、それと気が付かずに捨ててしまった。クラリス王女殿下、あなたは本当に素晴らしい女性ですよ。私なんかにはもったいない。本当に、心からそう思います。どうか、その、お幸せに……」
ディオン様はそう言って立ち去った。
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