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世界で一つだけの華を貴方へ

立ちふさがる男

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 夜。半月が浮かぶ、帰り道。


 今日も河原で時間を潰していたネイファは、一人で石畳を歩いていた。

 
 その瞳に映るのは、過去。


 あの日も、母が殺された日も、こんな、夜遅くに帰った日のことだった。






『ネイファ。遅くなるなら一言入れろって何回も何回も言ってるでしょ!? あんたもマルコも、どうしてその程度のことを守ることができないの!?』


 わりとよくある口上だった。そりゃそうだ。母は、普通の人であったからだ。


『るっさいなー。別にいいでしょ? お母さんだって、夜遅くにペイリさんと会ったりしてんだから』


 玄関口でブーツを脱ぎながら、自分は言った。


 これだって普通の口上だろう。親から見れば張り倒したくなるかもしれない。しかし自分は、十四なのだ。よくある反抗期というやつじゃないか。


 それで、どうして殺される?


 自分に一体、何の落ち度があるというのか――

 
 いや、嘘だ。


 本当は気づいてる。


 全ては、積み重ねであると。


 しかし、過去の自分は気がつかない。


 過去の自分が振り返った。


 母は『憎』しみを浮かべている。


 それを精神精神《アストラルサイド》から見て、嘲笑った。母と同じようで全く違う、相手には悟られない『憎』しみを、込めて。


『あれ? もしかして、気づかれないとでも思ってんの? それとも、まだ貫《ぬ》かれてないとでも思ったの? 今のあたしの見鬼けんきは、あんたの整纏せいてんぐらい、楽々貫くよ?』


 事実だった。


 自分の力は今や母の力を越えていた。


 ただ越えていないところが一つある。


『というか痕跡残しすぎだって。匂い消したら済む問題じゃないから。整纏せいてんも下手糞。お父さんに対して『愛』情の欠片もないどころか、『憎』んでいることも精神世界《アストラルサイド》から見れば全部わかる。あ―、追加であたしとマルコも入れとくか?』


 それは、人生経験だ。


 愚かだった。


 本当に。


 それ以外の言葉は多分ない。


 真実は――


『まあ誰にも言わないであげるからさ。お母さんも、あたしが家出るまでは静かにしててよ。それぐらいしてくれたって、罰は当たらないで――』


 別のところに、あったのに……。






 カラカラカラ――カラッ。


 竜車が目の前で止まった。大きな荷台を引いていて、その上には、それをすっぽりと覆うほどの布がかけられている。


 バッ!!


 布をひっぺがし、ワラワラと人が降りてきた。
 

 みな『あいつら』と同じ、揃いの月のネックレスをつけていた。


(八人か……)


 ネイファは特に動揺することもなく、静かに状況分析を始めた。


(後ろから人が出てくる様子なし。囲んでくる様子もなし。舐めてるのかバカなのかプライドなのか……)


「ネイファ=ラングレイだな。悪いけどちょっと付き合ってもらうぜ。痛い目見たくなかったら、黙って従うことだ」


 リーダー格らしい男が言った。


 ガタイはいい。整纏せいてんも中々だ。しかし正味そんなもの関係ない。


 この時代で、見るべきなのは筋量ではなく、瞳の色。


(たかだか三位の魔力容量で、あたしの前に立つとはね)


 笑った。


 掌。向けあって、広げた。






 マルコは自分のことを無気力だという。


 だが事実は違う。


 確かに色々なことにやる気をなくした。


 だけど、あれからもう半年だ。


 自分は、そこまでヒロイックにはなれない。


 本当のところを言うと、立ち直っている。


 ただちょっとやる気が出ないだけなんだ。


 声も全然戻らないし。


 だから――


 こういうバカ共をぶっ飛ばすことに、躊躇ためらいなんか欠片も起きない。






 パン!!


 ネイファは無言で柏手かしわでを鳴らした。


 銀器。


 指輪型の銀具を発動し、水を顕現する。


 更に、術式練魔で豪水にし、それを、魔力誘導を用いて、正面にいる相手に放水した。


「ぐっ!!」


 男らが苦悶の声を上げる。しかし所詮はただの水である。今のところ鬱陶しいだけであろう。


 だが――ここからだ。


 掌から魔力を走らせた。


 すると、放水していた水が、男らの手もろとも凍り付く。


 魔力結合。


 水は魔力と結びつきやすい性質を持っていて、竜脈に魔力を流し込んでやると、すぐに凍ってしまう。


 そして――


 ネイファは透明なボールでも持つように、両の掌を向け合った。


 掌の中で、風が吹き荒れる。


 風は魔力に反発する。


 反発する風を逃がさないように、更に風で覆いを作り、凝縮圧縮し、相手に向けて放った。


 術理を利用した魔術の三連打。


 暴風を正面から受けた男らが、腕に絡みついた氷を皮膚ごと引きちぎって、飛んで行く。


 バタンバタンバタン――


 鮮血を撒き散らしながら、男らが次々に石畳の上に落ちていく。


「うわああああああああああ!!」


「いてええええ!! いてええよおおお!!」


 その様を見て、ネイファはニヤニヤと笑った。声が出るなら、高笑いしていたところである。


 高魔力魔術師と先天性魔術師はSが多い。死聴しちょうがあるからだ。


 しかし、それを言い訳にはするまい。


 こういうゴミみたいなやつらが痛い目にあうのは、非常に愉快結構なことである。


 それが自分の魔術の手によるものなんだから、尚更だ。


 女らしくない? 実に結構。こんなゴミの前で女でいる必要性なし。


 そんな時。


「よええなーお前ら。いくらガキとはいえ話になんねえ。族とか廃業しろよ。才能ねえわ。保護プログラム利用した鉄砲玉にされるのがオチだぜ」


 竜車から一人の男が降りてきた。


 厳つい顔をしたオヤジで、両手をポケットにつっこみながら、ニヤニヤと笑っている。


 ミーティア家の護衛にして、虎戦傭兵団団員が一。


 プロの魔術師。


 ジョニー=ホワイトであった。
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