67 / 89
第6章 仲間と絆
6.黄色エルフの街
しおりを挟む
エルフの娘、サマリアが去った後に精霊の手の中へと戻ると、ピエトロはリリアに抱かれた状態でビクビクと震え、イブは手で両耳を抑え、パウロは自らの羽を伸ばして自分と皆を包み込んで庇い、アンドレアがそんな皆を守る様に外に向かってシャーと威嚇をしていた。
おそらくは大きな音がした所為だろうか……。
俺はそんな風に怖がっている猫たちに悪いと思いながらも、皆が皆イカ耳になっている姿に可愛いという思いが湧き、思わずフフッと笑ってしまった。
「もう大丈夫だよ。」
猫たちの背中を撫でながらそう言うと、少し安心したのかソオーっと伏せていた顔を上げた。
「リリアも怖かったよね。猫たちを守ってくれてありがとう。」
「そんな……、私は………。」
「お兄ちゃ~ん! ワタチも怖かったにゃ~。抱っこしてにゃ~。」
パウロが抱き着いて素直に甘えてきたのに対し、リリアは少し申し訳なさそうにしていた。
精霊の手を暫く走らせていると、それまでは道沿いに密集した木々によって真上しか見えなかった狭い空が広大になる程に開けた場所へと出てきた。
「ルカ様! あれは……!」
ピエトロにそう示されて見た前方には、この世のものとは思えない程に大きな大樹が見えた。
植わっている場所はまだ遠くであるはずなのに、まるで目の前にでも存在する様な錯覚をしてしまう程の大樹は上空の枝を黄色エルフの街の端から端まで伸ばし、それは街を守っているかの様に生い茂る葉の影がすっぽりと包み込んでいた。
「大樹に守られた街、か……。あの娘は『村』と言っていたがなかなかどうして…、立派な街じゃないか。」
今居る場所から眼下に一望できるその集落は、今までこの世界で見てきたどの『街』よりも少し小さめではあるが『村』というには些か規模の大きなものであった。
「なんだか……不思議な感じだね、お兄ちゃん。まるであの大きな樹がお母さんで、抱っこされてるみたい。」
「そうだな……。」
そんな事を話しながら街の出入り口を目指した。
この街はほかの街と違って森の中にある所為か、魔物の侵入防止の為の背の高い塀というものが存在しない。
だが、大きな湖の中にある島に街が存在し、出入り口は唯一外界と内とを繋ぐ様に架けられている橋1つだけなので特に心配はないのだろう。
「う~ん……。なんだか神秘的な場所だな。」
そんな感想が俺の口からポロっと漏れた程だった。
「ト・マ・レ。」
街の入り口である橋まで来ると、高さが3mはあろうかという石で出来た大きな人形に前進するのを阻まれ、止められた。
「おい、お前! この村に何の用だ?」
精霊の手の外に出て初めて見たその大きな人形に目を奪われていると、街の中から黄色エルフの若い男が一人出てきた。
「あ、あの! 俺たちはこういうもので……。今旅をしてまして………。」
俺はさっきと同じ様に救世主の証である指輪をまた見せながら話した。
「あぁ………。お前がお嬢がさっき話してた……。」
俺の頭の天辺から足の先まで、まるで値踏みでもされるが如くジロジロと舐めまわす様に見てきた。
「村長も…、別に金を払うなら村に入れてやらんこともないと言っていたが……。いくら持ってるんだ? 精霊の手に乗っているのはお前一人か? 中に他にもいるというなら全員降ろして見せろ!」
百万円持っていると言えば百万円を払えとでも言いだしそうな雰囲気に少したじろいでいると、精霊の手の中からリリアがひょっこりと顔を出した。
「お兄ちゃん?」
「ほう……。可愛い女を連れているじゃないか……。なんだったら、その子を俺に差し出すなら金はまけてやってもいいぞ。滅多と来ないサクラヴェール国の人間だ。なぁに、ちょっと普段と違う味を試してみたいだけさ。数日使ったら返してやるよ。こういうのが門番の特権だからな。ヒヒヒッ! この高貴なエルフ様が気まぐれに人間の女なんかを味わってやろうって言うんだから喜べよ!」
「なっ…!?」
オフィーリア国民であるエルフはサクラヴェール国民である人間を格下に見ているものというが……、この男言い分は酷かった。
俺が怒りで握り締めた拳をワナワナと震わせていると、背後の精霊の手の出入り口からイブが飛び出してきた。
イブはエルフの男の顔に飛び掛かり、爪を立てて何度も引っ掻きながら威嚇の声をあげていた。
「ウッ! ウワッ! 痛い! 何だ!? や、止めろ! っ!!」
エルフの男は悲痛な叫び声をあげながらなんとか顔にしがみ付いているモノを引き剥がし、イブの姿を確認してそれが白猫だと分かると、まるで汚い物を振り払うかの様に床に投げつけた。
俺は「ヒャンッ!」というイブの叫び声が聞こえるよりも先に守ろうと駆け寄ったが痛みなんか感じないという様子で、イブは興奮冷めやらぬままフーッフーッと鼻息荒く毛を逆立てて威嚇していた。
「何をするんだ!」
「何をするか、だって? そいつはお前の連れだろう? “白”だなんて気味の悪い……。」
そう言ってエルフの男はイブに引っかかれた顔を「痛てて…。」と言いながら摩っていた。
「気味の悪いだなんて………。」
背中に隠れていたリリアがボソリとそう洩らし、俺の服をギュッと掴んで引っ張った。
「“白”は邪神を象徴する色だぞ? サクラヴェール国の人間はそんなことも知らんのか? 邪神の祝福を色濃く受けた御使いである悪魔にしか無い色だ。野蛮人めっ! そんな者を連れていると知っちゃあ、村の中に入れるわけにはいかんな……。お前も本当は救世主じゃなくて邪神教徒なんじゃないか? 出ていけ! もし明日もこの辺りをうろついている様なら神に背いてでも殺しに行くからな。」
そう言われ、俺たちは石で出来た大きな人形によって追い帰された。
おそらくは大きな音がした所為だろうか……。
俺はそんな風に怖がっている猫たちに悪いと思いながらも、皆が皆イカ耳になっている姿に可愛いという思いが湧き、思わずフフッと笑ってしまった。
「もう大丈夫だよ。」
猫たちの背中を撫でながらそう言うと、少し安心したのかソオーっと伏せていた顔を上げた。
「リリアも怖かったよね。猫たちを守ってくれてありがとう。」
「そんな……、私は………。」
「お兄ちゃ~ん! ワタチも怖かったにゃ~。抱っこしてにゃ~。」
パウロが抱き着いて素直に甘えてきたのに対し、リリアは少し申し訳なさそうにしていた。
精霊の手を暫く走らせていると、それまでは道沿いに密集した木々によって真上しか見えなかった狭い空が広大になる程に開けた場所へと出てきた。
「ルカ様! あれは……!」
ピエトロにそう示されて見た前方には、この世のものとは思えない程に大きな大樹が見えた。
植わっている場所はまだ遠くであるはずなのに、まるで目の前にでも存在する様な錯覚をしてしまう程の大樹は上空の枝を黄色エルフの街の端から端まで伸ばし、それは街を守っているかの様に生い茂る葉の影がすっぽりと包み込んでいた。
「大樹に守られた街、か……。あの娘は『村』と言っていたがなかなかどうして…、立派な街じゃないか。」
今居る場所から眼下に一望できるその集落は、今までこの世界で見てきたどの『街』よりも少し小さめではあるが『村』というには些か規模の大きなものであった。
「なんだか……不思議な感じだね、お兄ちゃん。まるであの大きな樹がお母さんで、抱っこされてるみたい。」
「そうだな……。」
そんな事を話しながら街の出入り口を目指した。
この街はほかの街と違って森の中にある所為か、魔物の侵入防止の為の背の高い塀というものが存在しない。
だが、大きな湖の中にある島に街が存在し、出入り口は唯一外界と内とを繋ぐ様に架けられている橋1つだけなので特に心配はないのだろう。
「う~ん……。なんだか神秘的な場所だな。」
そんな感想が俺の口からポロっと漏れた程だった。
「ト・マ・レ。」
街の入り口である橋まで来ると、高さが3mはあろうかという石で出来た大きな人形に前進するのを阻まれ、止められた。
「おい、お前! この村に何の用だ?」
精霊の手の外に出て初めて見たその大きな人形に目を奪われていると、街の中から黄色エルフの若い男が一人出てきた。
「あ、あの! 俺たちはこういうもので……。今旅をしてまして………。」
俺はさっきと同じ様に救世主の証である指輪をまた見せながら話した。
「あぁ………。お前がお嬢がさっき話してた……。」
俺の頭の天辺から足の先まで、まるで値踏みでもされるが如くジロジロと舐めまわす様に見てきた。
「村長も…、別に金を払うなら村に入れてやらんこともないと言っていたが……。いくら持ってるんだ? 精霊の手に乗っているのはお前一人か? 中に他にもいるというなら全員降ろして見せろ!」
百万円持っていると言えば百万円を払えとでも言いだしそうな雰囲気に少したじろいでいると、精霊の手の中からリリアがひょっこりと顔を出した。
「お兄ちゃん?」
「ほう……。可愛い女を連れているじゃないか……。なんだったら、その子を俺に差し出すなら金はまけてやってもいいぞ。滅多と来ないサクラヴェール国の人間だ。なぁに、ちょっと普段と違う味を試してみたいだけさ。数日使ったら返してやるよ。こういうのが門番の特権だからな。ヒヒヒッ! この高貴なエルフ様が気まぐれに人間の女なんかを味わってやろうって言うんだから喜べよ!」
「なっ…!?」
オフィーリア国民であるエルフはサクラヴェール国民である人間を格下に見ているものというが……、この男言い分は酷かった。
俺が怒りで握り締めた拳をワナワナと震わせていると、背後の精霊の手の出入り口からイブが飛び出してきた。
イブはエルフの男の顔に飛び掛かり、爪を立てて何度も引っ掻きながら威嚇の声をあげていた。
「ウッ! ウワッ! 痛い! 何だ!? や、止めろ! っ!!」
エルフの男は悲痛な叫び声をあげながらなんとか顔にしがみ付いているモノを引き剥がし、イブの姿を確認してそれが白猫だと分かると、まるで汚い物を振り払うかの様に床に投げつけた。
俺は「ヒャンッ!」というイブの叫び声が聞こえるよりも先に守ろうと駆け寄ったが痛みなんか感じないという様子で、イブは興奮冷めやらぬままフーッフーッと鼻息荒く毛を逆立てて威嚇していた。
「何をするんだ!」
「何をするか、だって? そいつはお前の連れだろう? “白”だなんて気味の悪い……。」
そう言ってエルフの男はイブに引っかかれた顔を「痛てて…。」と言いながら摩っていた。
「気味の悪いだなんて………。」
背中に隠れていたリリアがボソリとそう洩らし、俺の服をギュッと掴んで引っ張った。
「“白”は邪神を象徴する色だぞ? サクラヴェール国の人間はそんなことも知らんのか? 邪神の祝福を色濃く受けた御使いである悪魔にしか無い色だ。野蛮人めっ! そんな者を連れていると知っちゃあ、村の中に入れるわけにはいかんな……。お前も本当は救世主じゃなくて邪神教徒なんじゃないか? 出ていけ! もし明日もこの辺りをうろついている様なら神に背いてでも殺しに行くからな。」
そう言われ、俺たちは石で出来た大きな人形によって追い帰された。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる