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第4章 出会いと別れ

4.ネコ

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「お兄ちゃ~ん。起きて~!」

 リリアの声で起こされて目が覚めると、俺の胸の上にパウロが抱き付いていた。

「…どおりで寝苦しいと思った……。」

 俺が体を起き上がらせても目が覚める気配がなく、そっとパウロを横に降ろしてテントの外に出ると、既に起きているリリアとイブが朝食の用意をしてくれていた。

「あぁ、用意してくれてたんだ…。ありがとう。」

「だって私、お兄ちゃんの妻ですもの。」

 いつもは何でも一番年上の俺が率先して用意したりして面倒を見ているのに初めて先に動いているのを目の当たりにし、フフンと得意げな顔をして俺に言うリリアが何だかすごく可愛く思えて頭を撫でた。

「お、お兄ちゃん! 私は子供じゃないんだから撫でるのとかやめてよ~。」

「フフフッ。」

「もうっ!」

 リリアは恥ずかしそうに照れつつも、子ども扱いされたことに少し拗ねていた。

「リリアが要らないならワタチに撫で撫でするにゃ~。」

 やっと起きてきたパウロがパタパタと羽を嬉しそうに羽ばたかせて俺の傍まで来ると、リリアとの間にズボッと顔を出してきた。

「プッ! パウロったら!」

 パウロのした事にリリアは笑い出し、ほら撫でろとばかりに俺の手に頭を擦り付けるパウロも、頭を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らして嬉しそうだった。
 俺たちの笑い声に一番の寝坊助だったアダムが起きてきたので朝食にし、身支度を整えると再び今日も港湾都市オズリックへ向けて歩き出した。

「アージェに書いて貰った簡単な地図には山の向こうまで抜けている洞窟の入り口が麓にあるけど、危ないから近道だからってそこを通ろうと思うな、決して近付くなって書いてあるな…。徒歩なら森の中を通って川沿いに歩いて山を越えるのが最善だって言われたけど……。あそこには何があるって言うんだろう…?」

「洞窟にはよく魔物が住み着くからね。それでじゃない? お兄ちゃん。」

「魔物、か……。なるほど。」

 危険な魔物を避ける為には確かに巣は避けた方が良いなと納得し、アージェに言われていた通りに森を突っ切って、一先ず目印となる大きな川を目指すことにした。
 怪我をしていたイブも問題なく歩ける程回復しており、たまに木の実や美味しそうに熟している果物のなっている樹を見付けては実をもいで、おやつにそれを食べながら皆で森の中を歩いた。
 久しぶりに食べるもぎたての果物の味にリリアは喜び、森の中では人の目を気にしなくても良い事からパウロたちもお喋りをしたりして楽しそうであった。
 でも、「面白い物を見付けたよ。」と言ってパウロが持ってきたピンポン玉程の大きさをした表面に産毛の生えた茶色い実は皮をむくとキレイな若菜色をした美味しそうな果物ではあったが、咥えていたパウロが酔っぱらい、ゲラゲラと笑い出して歩けなくなったのですぐさま捨てた。

「この実ってもしかして……マタタビみたいなやつか…? 流石にちょっと効き目が強すぎるから危ないだろ……。」

「おぉ! これは……!!」

 俺の捨てたマタタビみたいな果物に飛び掛かる様にアダムとイブも寄ってきたのでアダムとイブたちの前に出て止めた。

「こらこら、これはダメ!」

「エェーー! お願い、ルカ様~。インブリューの実はなかなかお目にかかれないから是非とも味わいたいのにゃ~……。」

「この果物のことを知っているの?」

 俺の捨てた実が欲しくて縋る様に俺の足に纏わりつくアダムを引き剥がし、アダムの目線に合わせてしゃがんで訊いた。

「私たちネコ種には有名な果物ですにゃ。これは人間達にとってのお酒みたいなものでしょうかねぇ…。まぁ、人間が食べてもただの甘い果物らしいんですが……。でも肉食の私たちにとってはこれだけは別で…、そして私の大好きな物なのですにゃ~!」

 やっぱりこの世界におけるマタタビみたいな物なのかと、酒好きのオジさんの様にインブリューの実を求めるアダムを制止していると背後でガサゴソと音がして、ため息をついていたイブとリリアが「あっ!」と突然声を上げた。

「ん? 何だ!? 魔物か?」

「お兄ちゃん、後ろ後ろ。」

 立ち上がって後ろを振り向いたが何もなく、どこで音がしているのかと警戒してキョロキョロしていると「足元!」とリリアに言われたので自分の足元を見た。

「にゃ~!」

「えっ?」

 そこにはアダムとイブよりは少し小さな猫が俺の顔を見上げて鳴いていた。
 その猫にイブは近寄り、ニャーニャーと猫語で何やら話をし始めた。

「…ニャッ! ゥニャ~ン……。」

 話をしていたイブが俺の方に振り向くとその猫の話を伝えてくれた。

「ルカ様。どうやらこの子、最近巣立ちをしたばかりの様ですにゃ…。それでさっきのパウロ様の笑い声が聞こえてここにやって来たらしくって…。何をしているのかと聞かれて話したら、自分も仲間に加えてほしいそうですにゃ……。」

「仲間?」

「えぇ、一緒に旅をしたいそうですにゃ。それで……。」

 俺の足元にいたその小さな猫からグギュルルルルルル~というお腹の鳴る音が聞こえた。

「どうしたの!?」

 吃驚してその猫を俺が抱き上げると、猫はぐったりとしていた。

「どうやら狩りが失敗続きらしくって、ここ3日ぐらい何も食べていないらしくって、食べ物を分けてほしいそうですにゃ……。」

 川がもう近くに見えていたこともあり、猫たちを抱きかかえてそこまで行ってから日暮れには少し早かったが野営をすることにした。

「すぐ夕飯にするからなっ!」

 酔っ払って幸せそうな顔をして眠るパウロやインブリューの実を求めて泣くアダムと、お腹が空き過ぎてぐったりとしている小さな猫の3匹の世話をリリアとイブに任せ、俺は急いで昨日狩ったミャエナの肉で夕食を作った。

「道中枯れ枝も拾いながら来てて良かった~。ホレイショーの街で買った野菜もまだあるし、ずーっと採りながら来た果物と木の実も入れてるから鞄の中は既にパンパンで何も入らないけど、助かったな…。」
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