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第33話ー4
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――それから5時間後の真夜中、外から聞こえた兵士の絶叫。
「陛下! 敵襲です! 陛下!」
同時にぱっと覚醒し、レットから飛び出したフラヴィオとベル。
フラヴィオは壁に立てかけておいた剣を取り、ベルはベッドサイドテーブルの引き出しに手を掛ける。
そして中から赤のオルキデーア石のピアスを取り出すと、手早くフラヴィオの左耳の青のオルキデーア石のそれと付け替えた。
「ここから出るな、ベル。良いな?」
力の王の顔があった。
それはベルの「スィー」の返事を確認するなり、寝室から飛び出して行く。
「お待ちください、フラヴィオ様!」
と、呼び止められて振り返った。
窓から差し込む月明りに照らし出された愛しい7番目の天使の顔に、困惑が浮かんでいる。
安心させるために微笑した。
「大丈夫だ、アモーレ。庶民ごっこはもう終わりで、宮廷に戻るときが来たが、あくまでもそれだけなのだから。余がそなたを愛していることには何も変わりがない」
「スィー、フラヴィオ様。ベルナデッタも宰相に戻りますが、フラヴィオ様を誰よりも何よりも愛することに変わりはありません。ですから、そうではなく……」
「どうした、怖いのか」
とフラヴィオが踵を返し、ベルを宥めるように抱き締めてバーチョする。
外には大砲の発砲音が鳴り始めた。
「大丈夫、ここにいれば安全だ」
「そういうことでもなく」
「ん? ああ、心配するな。今はアラブとテンテンがいるんだし、余は無傷でそなたのところへ帰って来る」
「いえ、そういうことでもなく……」
と言いながらベルがその手で持ち上げたのは、フラヴィオの服だった。
「着てください?」
「あー」
と全裸だった力の王は、ベルに手早く服を着せてもらうと、今度こそ邸宅から飛び出して行った。
――その頃のカンクロ国。カプリコルノ国よりも7時間早い午前8時過ぎ。
「なんだって?」
後宮にある自室に呼び出した女官を目前に、王太子ワン・ジンは耳を疑っていた。
女官が怯えた様子で言葉を繰り返す。
「人伝ではありますが、カプリコルノ国の花嫁衣裳は、真っ白だとお聞きしたことがあります」
「花嫁衣裳が真っ白だと? そんな馬鹿な、赤だろう?」
「ここカンクロ国では赤ですが……カプリコルノ国の隣島のアクアーリオとサジッターリオも白で、またこの辺だとレオーネ国なんかも白です」
「赤だろう?」
そう言えといわんばかりに圧力を掛けてくるワン・ジンに、女官が「はい」と声を震わせた。
「赤です、王太子殿下」
「下がれ」
承知して一礼し、戸口へと向かっていった女官。扉を開けながら、小さく呟いた。
「汚らわしいメッゾサングエが」
その直後、真正面に立っていた者を見つめて、顔から血の気が引いていった。
「聞こえたわよ」
「――お、お許しください、王妃陛下! 殿下のことを言ったのでありません、お許しください!」
と土下座して許しを乞うたが、無理であることは分かっていった。
カーネ・ロッソの王妃――ワン・ジンの母の命令ですぐさま捕えられ、問答無用で牢獄へと引きずられていく。
宮廷内に響いた断末魔のような絶叫は、自身の未来を予知しているかのようだった。
ワン・ジンの母はフンと鼻を鳴らすと、息子の部屋へと入っていく。
それは浮彫の施された牀(ベッド)に座って、俯いていた。
「どうしたの、ジンジン」
と子供の頃からの愛称で呼んで、その黒髪を撫でる。呟きが返ってきた。
「花嫁衣裳が白……」
「えー? 私は赤の方が好きよ」
ワン・ジンがはっとして、隣を見た。そこに母がいることにやっと気付き、仰天して牀から跳び上がる。
「即位したら、花嫁衣裳を白に変える気なの?」
「いえ、母上、そういうわけでは……!」
「ああそう」
「ところで俺に何かご用ですか」
とワン・ジンが問うと、母が立ち上がってまたその頭を撫でた。
「残念ね、ジンジン。あなたのためにレオーネ国から盗ってきた桜が枯れてしまったわ」
「え……?」
「あなたには他の花の方が良いってことかしらね?」
「――……母上」
ワン・ジンが、再び牀に腰掛けた。
「すみません、リエンにここへ来るよう言って来てください」
「リエンに?」
と鸚鵡返しに問うてから少しすると、母の犬耳がご機嫌そうにピンと立ち、瞳が煌めいていった。
「ええ、分かったわジンジン。ちょっと待っててね、すぐに呼んで来るから。誰にも邪魔させないから、しっかりね!」
と、母がテレトラスポルトでその場から消えてから数分すると、廊下からリエンのカタコト口調が聞こえて来た。
「ご主人様ー? リエンが来たヨー?」
ワン・ジンが「入れ」と言うと、リエンが従った。
ワン・ジンの様子を見るなり、「どうしたノ!」と狼狽して駆け寄り、牀に腰かけているその顔を覗き込む。
「どうしたノ、ご主人様っ? 元気ないヨ?」
「ああ」
「どうしたノ、何があっ――」
その言葉を遮るように、ワン・ジンがリエンの胸にしがみ付く。
「――ご…ご主人様っ? んと……あっ?」
ワン・ジンの手に力が入り、リエンの衣類の一部が破けた。
ワン・ジンの身体は小刻みに震えていて、リエンが動揺して抱き締める。
「どうしたノ、ご主人様? どっか痛いノ? リエン、グワリーレ出来るよ? 大丈夫なノ?」
ワン・ジンが何か呟いて、リエンは「え?」とその顔に犬耳を近付ける。
聞こえて来たのは、昨日見た女の名だった。
「エミ……!」
その直後、リエンから「わっ」と声が出る。
視界に天蓋の裏側と、さっきまで胸に抱き締めていた主の顔が映った。
常日頃から不機嫌そうに見えるそれは一層歪み、わずかに涙が浮かんでいるように見える。
「ご、ご主人様? 大丈夫なノ?」
尚のこと動揺し、心配したリエンの腰帯にワン・ジンの手が掛かった。それを解かれたときに、「えっ?」と頬を染める。
「すぐ終わらせる。おとなしくしろ」
そう命を下したワン・ジンに衣類を剥ぎ取られ、投げ捨てられながら、リエンが「うん」と嬉しそうな微笑を見せた。
「リエン、おとなしくするヨ。ご主人様のためなラ、何でもするヨ――」
※番外編に33.5話あり
「陛下! 敵襲です! 陛下!」
同時にぱっと覚醒し、レットから飛び出したフラヴィオとベル。
フラヴィオは壁に立てかけておいた剣を取り、ベルはベッドサイドテーブルの引き出しに手を掛ける。
そして中から赤のオルキデーア石のピアスを取り出すと、手早くフラヴィオの左耳の青のオルキデーア石のそれと付け替えた。
「ここから出るな、ベル。良いな?」
力の王の顔があった。
それはベルの「スィー」の返事を確認するなり、寝室から飛び出して行く。
「お待ちください、フラヴィオ様!」
と、呼び止められて振り返った。
窓から差し込む月明りに照らし出された愛しい7番目の天使の顔に、困惑が浮かんでいる。
安心させるために微笑した。
「大丈夫だ、アモーレ。庶民ごっこはもう終わりで、宮廷に戻るときが来たが、あくまでもそれだけなのだから。余がそなたを愛していることには何も変わりがない」
「スィー、フラヴィオ様。ベルナデッタも宰相に戻りますが、フラヴィオ様を誰よりも何よりも愛することに変わりはありません。ですから、そうではなく……」
「どうした、怖いのか」
とフラヴィオが踵を返し、ベルを宥めるように抱き締めてバーチョする。
外には大砲の発砲音が鳴り始めた。
「大丈夫、ここにいれば安全だ」
「そういうことでもなく」
「ん? ああ、心配するな。今はアラブとテンテンがいるんだし、余は無傷でそなたのところへ帰って来る」
「いえ、そういうことでもなく……」
と言いながらベルがその手で持ち上げたのは、フラヴィオの服だった。
「着てください?」
「あー」
と全裸だった力の王は、ベルに手早く服を着せてもらうと、今度こそ邸宅から飛び出して行った。
――その頃のカンクロ国。カプリコルノ国よりも7時間早い午前8時過ぎ。
「なんだって?」
後宮にある自室に呼び出した女官を目前に、王太子ワン・ジンは耳を疑っていた。
女官が怯えた様子で言葉を繰り返す。
「人伝ではありますが、カプリコルノ国の花嫁衣裳は、真っ白だとお聞きしたことがあります」
「花嫁衣裳が真っ白だと? そんな馬鹿な、赤だろう?」
「ここカンクロ国では赤ですが……カプリコルノ国の隣島のアクアーリオとサジッターリオも白で、またこの辺だとレオーネ国なんかも白です」
「赤だろう?」
そう言えといわんばかりに圧力を掛けてくるワン・ジンに、女官が「はい」と声を震わせた。
「赤です、王太子殿下」
「下がれ」
承知して一礼し、戸口へと向かっていった女官。扉を開けながら、小さく呟いた。
「汚らわしいメッゾサングエが」
その直後、真正面に立っていた者を見つめて、顔から血の気が引いていった。
「聞こえたわよ」
「――お、お許しください、王妃陛下! 殿下のことを言ったのでありません、お許しください!」
と土下座して許しを乞うたが、無理であることは分かっていった。
カーネ・ロッソの王妃――ワン・ジンの母の命令ですぐさま捕えられ、問答無用で牢獄へと引きずられていく。
宮廷内に響いた断末魔のような絶叫は、自身の未来を予知しているかのようだった。
ワン・ジンの母はフンと鼻を鳴らすと、息子の部屋へと入っていく。
それは浮彫の施された牀(ベッド)に座って、俯いていた。
「どうしたの、ジンジン」
と子供の頃からの愛称で呼んで、その黒髪を撫でる。呟きが返ってきた。
「花嫁衣裳が白……」
「えー? 私は赤の方が好きよ」
ワン・ジンがはっとして、隣を見た。そこに母がいることにやっと気付き、仰天して牀から跳び上がる。
「即位したら、花嫁衣裳を白に変える気なの?」
「いえ、母上、そういうわけでは……!」
「ああそう」
「ところで俺に何かご用ですか」
とワン・ジンが問うと、母が立ち上がってまたその頭を撫でた。
「残念ね、ジンジン。あなたのためにレオーネ国から盗ってきた桜が枯れてしまったわ」
「え……?」
「あなたには他の花の方が良いってことかしらね?」
「――……母上」
ワン・ジンが、再び牀に腰掛けた。
「すみません、リエンにここへ来るよう言って来てください」
「リエンに?」
と鸚鵡返しに問うてから少しすると、母の犬耳がご機嫌そうにピンと立ち、瞳が煌めいていった。
「ええ、分かったわジンジン。ちょっと待っててね、すぐに呼んで来るから。誰にも邪魔させないから、しっかりね!」
と、母がテレトラスポルトでその場から消えてから数分すると、廊下からリエンのカタコト口調が聞こえて来た。
「ご主人様ー? リエンが来たヨー?」
ワン・ジンが「入れ」と言うと、リエンが従った。
ワン・ジンの様子を見るなり、「どうしたノ!」と狼狽して駆け寄り、牀に腰かけているその顔を覗き込む。
「どうしたノ、ご主人様っ? 元気ないヨ?」
「ああ」
「どうしたノ、何があっ――」
その言葉を遮るように、ワン・ジンがリエンの胸にしがみ付く。
「――ご…ご主人様っ? んと……あっ?」
ワン・ジンの手に力が入り、リエンの衣類の一部が破けた。
ワン・ジンの身体は小刻みに震えていて、リエンが動揺して抱き締める。
「どうしたノ、ご主人様? どっか痛いノ? リエン、グワリーレ出来るよ? 大丈夫なノ?」
ワン・ジンが何か呟いて、リエンは「え?」とその顔に犬耳を近付ける。
聞こえて来たのは、昨日見た女の名だった。
「エミ……!」
その直後、リエンから「わっ」と声が出る。
視界に天蓋の裏側と、さっきまで胸に抱き締めていた主の顔が映った。
常日頃から不機嫌そうに見えるそれは一層歪み、わずかに涙が浮かんでいるように見える。
「ご、ご主人様? 大丈夫なノ?」
尚のこと動揺し、心配したリエンの腰帯にワン・ジンの手が掛かった。それを解かれたときに、「えっ?」と頬を染める。
「すぐ終わらせる。おとなしくしろ」
そう命を下したワン・ジンに衣類を剥ぎ取られ、投げ捨てられながら、リエンが「うん」と嬉しそうな微笑を見せた。
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