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第15話ー2
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「ベラ様には朝廷で言わない方が良いと言われましたし、とりあえずムネ殿下がカンクロ国に送り込んだ密偵の結果を待ってからにしようかと思っていましたが、ここはやはり……」
とベルがフラヴィオの顔を見ると、それは思案顔で頷いた。
「うん……この島がまだオルキデーア国とプリームラ国の二国に分かれてたとき、オルキデーア国では余の父上――先王が、プリームラ国では当時のプリームラ国王が、貴族とのあいだにした『約束』だったのだが」
村人が数名「約束?」と鸚鵡返しにした。
「ああ。昔、二国とも貴族も土地を持ち、領主だった頃があるだろう?」
その時代から王政へと変わるとき、オルキデーア・プリームラ双方の国王は、それまで領主だった貴族を武官・文官にさせて給料を与える他、それまで通りの『免税特権』の保持を約束していた。
「ここのところ、毎日のようにフェーデ様・ドルフ様とも話していますが、それを排除すべきだと私は思うのです。そして、一般民衆の税を引き下げたいのです」
とベルが言うと、村人たちが一斉に「えっ!」と仰天した声を上げた。
その顔々を見回しながらベルが続ける。
「むしろ私は、農民の方々にこそ『免税特権』を与え、これからはその分を、財産の有り余っている貴族の方々に課税したいくらいです」
さらに仰天したらしい村人たちが言葉を失い、ベルから引いていく。
ナナ・ネネがさも不思議そうに問うた。
「それじゃ駄目なのか?」
「何か問題があるのか?」
フラヴィオが長嘆息した。
「そうなったら、貴族――特にプリームラ貴族が、まず黙っていないのだ。内乱の恐れすらある。課税することになったって、食料や日用品らは当然のこと、宝石を買う余裕すらあるはずなんだがな」
ナナ・ネネが眉をひそめた。
「人間は本当に意味が分からない」
「食い物が食い放題なら裕福じゃないか」
「しかも、宝石って必要あるのか?」
「宝石を身に着けていれば、腹を満たせるのか?」
そんな言葉に、日頃この宝島の国王としてキンキンキラキラに着飾っているフラヴィオはバツが悪くなってしまい、「すまん……」と苦笑した。
ふと、人間いつから宝石や金を富の象徴とするようになったのだろうなんて考える。
その傍ら、ベルが村人たちに問うた。
「免税は難しいようですが、大幅に減税となり、懐に余裕が出来たら、コニッリョとの争いは避けられるようになりますか?」
「もちろんだべ!」
複数の声が上がった。
それならばと、ベルがフラヴィオの顔を見る。
「ここはもう、明日の朝廷から審議に入りましょう」
「そうだな……プリームラ貴族が面倒だが、そうするか」
それを聞いたパオラが「大変だべ!」と外へと飛び出していき、事件が起こる度にそうであるように、大声で皆に伝えながら町の方へと駆けていく。
朝廷での審議が明日から始まるというだけで、まだ決定はしていないフラヴィオが「こらこら」と追い駆けていく。
しかし、玄関を出たところで、早くも押し寄せて来た村人たちに取り囲まれ、足止めを食らってしまった。
その間、パオラが声を張り上げながら町の方へと駆けていく。
「大変だべ、大変だべ! おらたちの税金がいっぺぇ減るようになるど!」
「なーに言ってんだべ、村天使様! それじゃ陛下が困っぺー?」
「それが、これからは貴族にも払ってもらうんだってよ!」
農村が上を下への大騒ぎになる中、『珠の湯』へと向かって走っていた馬車がふと止まった。
そして中から、貴族階級だと分かる豪奢なドレスをまとい、オルキデーア石の装飾品を身に着けた4人の女が出て来て、パオラの前に立ちはだかった。
「もし、村天使さん?」
疾走していたパオラは、慌てて「わっ」と声を上げると足を急停止させた。
4人にぶつかる寸前のところで止まる。
「おーっ、危ねえ危ねえ」
と冷や汗を掻きそうになった額を手で拭い、4人の顔を見回しながら笑顔を作った。
「おらに何か用ですだか?」
見覚えがあった。
隣町プリームラ――元プリームラ国――の公爵夫人とその子女3人だが、その夫・父親であるスピーナ公セシリオ・バレッタは文官で、その仕事はほぼ宮廷内でする故、一家揃ってオルキデーアに移り住んだからだ。
公爵夫人は40歳行くか行かないかの年齢で、子女のうちの末っ子がパオラと同い年の16歳だった記憶がある。
「さっきの話は本当なの?」
とスピーナ公爵夫人が問うてきた。
「はいですだ、公爵夫人! 明日から審議に入るみたいですだ!」
「じゃあ、陛下はまだ決定はしていないのね?」
「あれ? 言われてみればそうですだね……でも、フラヴィオ様はきっと決定してくれますだ」
「あなたが陛下にお願いしたのかしら?」
それはベルだと言おうとして、パオラはふと思い止まった。
理由は分からなかったが、4人の瞳が憎悪に満ちている。
だから、こう答えてしまった。
「そ、そうですだ……おらがフラヴィオ様にお願いしたですだ」
「――この、農民が!」
と、公爵夫人に突き飛ばされたパオラが、「わっ」と地面の上に尻を付いた。
4人の甲高い怒声が降り掛かる。
「信じられないわ! わたくしたち貴族に、税金を払えですって!?」
「農民のクセになんて生意気なの! あなたといい、宮廷天使といい!」
「そうだわ、宮廷天使も怪しいわ! 最近は朝廷にも顔を出すようになったって、お父様が言ってたもの! すっかり陛下の『補佐』気取りよ!」
「だったら宮廷天使が言い出したんじゃないの!? 宮廷天使は死刑にされたエルバ卿に奴隷にされてたようだって、お父様が言ってたし! あたくしたちプリームラ貴族に対する仕返しなのよ!」
パオラが狼狽して声を上げた。
「ち、違いますだ! ベルちゃんは何も言ってないですだ! おらがフラヴィオ様にお願いしたんですだ!」
「あらそう」
と長女におさげにしている髪を引っ張られ、パオラが「いたっ!」と声を上げた。
「だったら、あなたが陛下にお願いを取り消してきなさい?」
「い……嫌ですだ」
「なんですって?」
「農民は、たとえ税金がなくなったって貴族さんみたいには裕福になれねぇですだ。でも貴族さんは税金を払ったって、農民よりずっとずっと裕福ですだ。それに農作業は重労働だし、おらはなるべく村の皆を楽にしてあげたいだ。だから、嫌ですだ。絶対……絶対、嫌ですだ!」
カッとした長女が手を振り上げたとき、見ていられなくなった馬車の御者が駆け寄って来た。
「村天使様!」
馬車に乗っていた者たちも降りて来、お祭り騒ぎになっていた村人たちも異変に気付いて寄って来る。
そして、その中にフラヴィオの姿が紛れているのを見つけると、長女が振り上げていた手を下ろし、それをパオラに向かって差し伸べた。
先ほどとは打って変わって、柔和な笑顔がある。他の3人も同じ表情になってパオラを見下ろしている。
「まぁ村天使様、大丈夫ですの?」
差し伸べられた手を取らず、パオラが自分で立ち上がろうとしたとき、フラヴィオの声が割り込んで来た。
「パオラ! どうした、大丈夫か?」
とフラヴィオが腕に抱いて立ち上がらせ、続いて駆け寄って来たベルがそのスカートに付いた土を払っていると、パオラが笑顔を見せた。
「大丈夫ですだ、フラヴィオ様。ベルちゃんも、気にしないで? 土で服が汚れるのなんて、いつものことだべよ」
「村天使様ったら、馬車に驚いて転んでしまったみたいなんですの」
と言った公爵夫人の顔を見たあと、フラヴィオとベルがパオラに顔を戻す。
「おら、興奮しすぎてて馬車に気付かなかっただよ」
「そうか、危ないな。気を付けるんだぞ?」
とフラヴィオがパオラの頭を撫でると、パオラが「はいですだ」と言って明るい笑顔を見せた。
そして「町の皆にも知らせて来るだ!」と言ってまた大騒ぎしながらその場から駆け出すと、スピーナ公爵家の女4人が「では」とフラヴィオに頭を下げてから馬車に乗り込んだ。
『珠の湯』へと向かって走り出す馬車を見つめながら、ベルが口を開く。
「フラヴィオ様……」
「うむ……――」
とベルがフラヴィオの顔を見ると、それは思案顔で頷いた。
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「ここのところ、毎日のようにフェーデ様・ドルフ様とも話していますが、それを排除すべきだと私は思うのです。そして、一般民衆の税を引き下げたいのです」
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「むしろ私は、農民の方々にこそ『免税特権』を与え、これからはその分を、財産の有り余っている貴族の方々に課税したいくらいです」
さらに仰天したらしい村人たちが言葉を失い、ベルから引いていく。
ナナ・ネネがさも不思議そうに問うた。
「それじゃ駄目なのか?」
「何か問題があるのか?」
フラヴィオが長嘆息した。
「そうなったら、貴族――特にプリームラ貴族が、まず黙っていないのだ。内乱の恐れすらある。課税することになったって、食料や日用品らは当然のこと、宝石を買う余裕すらあるはずなんだがな」
ナナ・ネネが眉をひそめた。
「人間は本当に意味が分からない」
「食い物が食い放題なら裕福じゃないか」
「しかも、宝石って必要あるのか?」
「宝石を身に着けていれば、腹を満たせるのか?」
そんな言葉に、日頃この宝島の国王としてキンキンキラキラに着飾っているフラヴィオはバツが悪くなってしまい、「すまん……」と苦笑した。
ふと、人間いつから宝石や金を富の象徴とするようになったのだろうなんて考える。
その傍ら、ベルが村人たちに問うた。
「免税は難しいようですが、大幅に減税となり、懐に余裕が出来たら、コニッリョとの争いは避けられるようになりますか?」
「もちろんだべ!」
複数の声が上がった。
それならばと、ベルがフラヴィオの顔を見る。
「ここはもう、明日の朝廷から審議に入りましょう」
「そうだな……プリームラ貴族が面倒だが、そうするか」
それを聞いたパオラが「大変だべ!」と外へと飛び出していき、事件が起こる度にそうであるように、大声で皆に伝えながら町の方へと駆けていく。
朝廷での審議が明日から始まるというだけで、まだ決定はしていないフラヴィオが「こらこら」と追い駆けていく。
しかし、玄関を出たところで、早くも押し寄せて来た村人たちに取り囲まれ、足止めを食らってしまった。
その間、パオラが声を張り上げながら町の方へと駆けていく。
「大変だべ、大変だべ! おらたちの税金がいっぺぇ減るようになるど!」
「なーに言ってんだべ、村天使様! それじゃ陛下が困っぺー?」
「それが、これからは貴族にも払ってもらうんだってよ!」
農村が上を下への大騒ぎになる中、『珠の湯』へと向かって走っていた馬車がふと止まった。
そして中から、貴族階級だと分かる豪奢なドレスをまとい、オルキデーア石の装飾品を身に着けた4人の女が出て来て、パオラの前に立ちはだかった。
「もし、村天使さん?」
疾走していたパオラは、慌てて「わっ」と声を上げると足を急停止させた。
4人にぶつかる寸前のところで止まる。
「おーっ、危ねえ危ねえ」
と冷や汗を掻きそうになった額を手で拭い、4人の顔を見回しながら笑顔を作った。
「おらに何か用ですだか?」
見覚えがあった。
隣町プリームラ――元プリームラ国――の公爵夫人とその子女3人だが、その夫・父親であるスピーナ公セシリオ・バレッタは文官で、その仕事はほぼ宮廷内でする故、一家揃ってオルキデーアに移り住んだからだ。
公爵夫人は40歳行くか行かないかの年齢で、子女のうちの末っ子がパオラと同い年の16歳だった記憶がある。
「さっきの話は本当なの?」
とスピーナ公爵夫人が問うてきた。
「はいですだ、公爵夫人! 明日から審議に入るみたいですだ!」
「じゃあ、陛下はまだ決定はしていないのね?」
「あれ? 言われてみればそうですだね……でも、フラヴィオ様はきっと決定してくれますだ」
「あなたが陛下にお願いしたのかしら?」
それはベルだと言おうとして、パオラはふと思い止まった。
理由は分からなかったが、4人の瞳が憎悪に満ちている。
だから、こう答えてしまった。
「そ、そうですだ……おらがフラヴィオ様にお願いしたですだ」
「――この、農民が!」
と、公爵夫人に突き飛ばされたパオラが、「わっ」と地面の上に尻を付いた。
4人の甲高い怒声が降り掛かる。
「信じられないわ! わたくしたち貴族に、税金を払えですって!?」
「農民のクセになんて生意気なの! あなたといい、宮廷天使といい!」
「そうだわ、宮廷天使も怪しいわ! 最近は朝廷にも顔を出すようになったって、お父様が言ってたもの! すっかり陛下の『補佐』気取りよ!」
「だったら宮廷天使が言い出したんじゃないの!? 宮廷天使は死刑にされたエルバ卿に奴隷にされてたようだって、お父様が言ってたし! あたくしたちプリームラ貴族に対する仕返しなのよ!」
パオラが狼狽して声を上げた。
「ち、違いますだ! ベルちゃんは何も言ってないですだ! おらがフラヴィオ様にお願いしたんですだ!」
「あらそう」
と長女におさげにしている髪を引っ張られ、パオラが「いたっ!」と声を上げた。
「だったら、あなたが陛下にお願いを取り消してきなさい?」
「い……嫌ですだ」
「なんですって?」
「農民は、たとえ税金がなくなったって貴族さんみたいには裕福になれねぇですだ。でも貴族さんは税金を払ったって、農民よりずっとずっと裕福ですだ。それに農作業は重労働だし、おらはなるべく村の皆を楽にしてあげたいだ。だから、嫌ですだ。絶対……絶対、嫌ですだ!」
カッとした長女が手を振り上げたとき、見ていられなくなった馬車の御者が駆け寄って来た。
「村天使様!」
馬車に乗っていた者たちも降りて来、お祭り騒ぎになっていた村人たちも異変に気付いて寄って来る。
そして、その中にフラヴィオの姿が紛れているのを見つけると、長女が振り上げていた手を下ろし、それをパオラに向かって差し伸べた。
先ほどとは打って変わって、柔和な笑顔がある。他の3人も同じ表情になってパオラを見下ろしている。
「まぁ村天使様、大丈夫ですの?」
差し伸べられた手を取らず、パオラが自分で立ち上がろうとしたとき、フラヴィオの声が割り込んで来た。
「パオラ! どうした、大丈夫か?」
とフラヴィオが腕に抱いて立ち上がらせ、続いて駆け寄って来たベルがそのスカートに付いた土を払っていると、パオラが笑顔を見せた。
「大丈夫ですだ、フラヴィオ様。ベルちゃんも、気にしないで? 土で服が汚れるのなんて、いつものことだべよ」
「村天使様ったら、馬車に驚いて転んでしまったみたいなんですの」
と言った公爵夫人の顔を見たあと、フラヴィオとベルがパオラに顔を戻す。
「おら、興奮しすぎてて馬車に気付かなかっただよ」
「そうか、危ないな。気を付けるんだぞ?」
とフラヴィオがパオラの頭を撫でると、パオラが「はいですだ」と言って明るい笑顔を見せた。
そして「町の皆にも知らせて来るだ!」と言ってまた大騒ぎしながらその場から駆け出すと、スピーナ公爵家の女4人が「では」とフラヴィオに頭を下げてから馬車に乗り込んだ。
『珠の湯』へと向かって走り出す馬車を見つめながら、ベルが口を開く。
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