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第6話ー4

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「私、恋したのかも」

 と、皆大好き5番目の天使・絶世の美少女ヴァレンティーナ王女が報告に来たのは、昼時の『中の中庭』。

「――え……!?」

 と衝撃の斉唱を響かせたのは、午前中にここで筋肉・体力作りに励んだ10人の男たち――

 国王フラヴィオ・マストランジェロと、4人の王子(13歳・12歳・7歳・5歳)。

 フラヴィオの弟である大公フェデリコ・マストランジェロと、その3人の息子(10歳・8歳・4歳)。

 それから、フラヴィオ・フェデリコ兄弟の親友である侯爵アドルフォ・ガリバルディ。

 城の4階にある王侯貴族専用の食堂まで行って昼食を取るときもあるが、大抵はここで済ますことが多く。

 1階にある将兵専用の浴室で汗を流し、半裸で戻って来たところだった。

 3人の使用人と共に配膳台車の前に集まり、本日の昼食をせっせと配分しているベルのゴンナを、ヴァレンティーナがしかと握り締めている。

「ああ、ついにこの日が来てしまったか。一体どこのどいつが、ティーナの心を射止めたというんだ……!」

 と、アドルフォが目頭を押さえる傍ら。

 9人のマストランジェロ一族の男たちは「ふふふ」と含み笑いをする者と、咳払いをして頬を染める者の二組に分かれる。

『ふふふ組』代表フラヴィオと、『咳払い組』代表フェデリコが、ほぼ同時にティーナに問いかける。

「父上だろう?」

「フェーデ叔父上か?」

 その答えは「いいえ」だった。

「え!?」と大衝撃を受けたらしい2人の横顔を見たアドルフォが噴き出す一方、ヴァレンティーナが矢継ぎ早の質問を浴びせられる――

「では私、ランド兄上だな?」

「いや、コラード兄上だろ?」

「ボクですよね、姉上?」

「えー、おれでしょ?」

「私だよね、ティーナ殿下?」

「僕でしょ?」

「ぼくって言って?」

 …………その答えは、全て「ノ」。

 それならばと、注目が集まるは残りのアドルフォ。

「……え? あ……え? おお、俺かっ……ドルフ叔父上か、ティーナ!」

「ノ」

「何ィっ!?」

 さっき笑ったお返しと言わんばかりに、フラヴィオ・フェデリコ兄弟がアドルフォを見て哄笑する。

 ヴァレンティーナの答えは、その澄んだ蒼の瞳が見つめる先――手でしかとそのゴンナを握って捕まえている『ベル』だった。

「ベルってこんなにちっちゃ可愛いのに、かっこいいのよ。それにすごいの。このあいだの夕餉のびっくりするくらい美味しかったドルチェも、どこかに引っかけてほつれてしまった私のお気に入りのヴェスティートの難しい刺繍の修復も、明るいところだと目をつむってしまうくらいピカピカになって出て来るようになった私のお靴みがきも、ぜーんぶベルだったのよ。それにさっき裏庭で庭師さんの取り除いた雑草の中にお花があったから、それを集めて花冠を作ってもらったら1分も経たずに仕上げちゃうし、絵を描いてもらってもとっても上手だったわ。ほんとに何でもできちゃうのよ、こんなにちっちゃ可愛いのに。それに、こんなにこんなにちっちゃ可愛いのに、私を守ってくれるだなんて…………なんて、ちっちゃかわかっこいいのかしら」

「なんだ、7番目の天使か……」

 と呟いた男たちの顔々は、安堵したものだったり、複雑そうなものだったり。

「あっ、でも気にしないで父上!」

 と、フラヴィオの顔を見たヴァレンティーナの蒼の瞳は、煌めいていた。

「私のことは気にしないで、ベルを『めかけ』にしてね!」

「めか……」

「私、それがいいと思うの! ベルは父上の『めかけ』がいちばん幸せになれるのよ、『めかけ』が!」

「……………」

 フラヴィオとフェデリコ、アドルフォは顔を見合わせると、ティーナに背を向けて三角形を作り、顔を寄せ合った。

「なぁ……これは、ベルを余の『側室』にするなということか? 母上はひとりで居て欲しいとかそういう理由がある故に『側室』は嫌だけど、『妾』なら良いということなのか? 敢えて『妾』推しなのか?」

「何かおかしい気がする。どうもティーナの中で『側室』と『妾』が混同しているような……」

「それ、俺の妻が吹き込んだような気がしないでもない」

「ああ、ベラか……」

「も、申し訳ない……」

 と、3人が苦笑していたとき。

 王太子オルランドが、昼食の配当に集中していたベルの手首を突如掴み、『中の中庭』から廊下へと引っ張って行った。

 フラヴィオたちの死角に入り、狼狽した様子で声を潜める。

「早まっては駄目だ、ベル…! よく考えるんだ……!」

 何のことかと、ベルはきょとんとしてオルランドの顔を見上げる。

 オルランドはベルよりも2つ下の13歳だが、マストランジェロ一族の男は皆身体が大きく、もうすでに170cmを超えていた。

「国王の『側室』ならともかく『妾』だというなら、頼りなくとも私の妻――王太子妃になった方が、何十倍も幸せだ……!」

 その台詞は小声むなしく、すぐ近くまで迫っていた国王、並びに大公、侯爵の耳にしっかりと届いていた。





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