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評判
しおりを挟むさあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。 貴方のお困りごと、私が解決してみせましょう!
と、そんな決まり文句を口にしながら商業ギルド内をうろついて早二十日。
私の思った通りに物事は進み、スネッチョラの依頼を始め船内清掃や街のゴミ拾い、職人達の洗濯代行などなど、孤児達を派遣するこの仕事は大盛況をもたらしていた。
何故こんな短期間で依頼か殺到したのかと問えば、にこやかに笑った髭面の親父達や、大変太ましくも筋肉モリモリの女性衆は口を揃えてこう言うのである。
『安いし早い。そして丁寧だ』
今までは冒険者ギルドに依頼を出していたが安い料金であるこれらの依頼を受けるものは中々おらず、渋々依頼料は高くなる。しかしながらその一方で不真面目なパーティに依頼を受けられて仕舞えば金は取られるのに雑な仕事をされて、二度手間になってしまうという散々たるもの。
その過程を知っていればどこの誰だか分からなくとも、たとえそれが孤児だとしても、安い依頼で手早い仕事をこなす子らの方が需要があるわけだ。
万が一、そう万が一に孤児が盗みをしたり物を壊したりしたとしても私やギルドに報告すればいいと思っていた住人も多々居たようだが、私がそんなヘマをするわけない。
依頼先には丁寧な挨拶を大きな声で、きちんと名前を言ってから仕事内容の確認し、盗みをできぬようカバンやポケットのある服は着させない。
そんなことを徹底してれば私らの仕事は評判
だけが残り、お忙しい奥様方や職人の皆様までもが御用達となったのである。
けれども忙しい事は良いことばかりではない。
それはつまり仕事と孤児の人数が合わず、なおかつ無謀な依頼を出す輩も増えるという事なのだ。
「はいはーい。 あら、奥様。 また商店のお掃除の依頼ですかね? 申し訳ないのですが手が足りなくて二、三日待っていただけますか? 順番が周り次第子供らを向かわせますね」
「そうなの、じゃあ後でお願いね」
「ハイわかりました。 はいはーい、次の方ーってお前か。 薬草は集めん、冒険者ギルドに行け」
「そこを何とか! 薬草が、君のとる薬草が欲しいんだ!」
「はいはーい、次の方次の方ー!」
ニッコリと笑う奥様の次に現れたのは私を、私の薬草をしつこく狙う薬師の一人で、私が商業ギルドに登録をした直後からこうして現れている。いい加減諦めればいいものの、日を変え人を変え、一日一度は訪れるストーカー一味だ。
そろそろスヴェンかウーゴにお願いして、邪魔者を制裁すべき頃合いなのかもしれない。
忙しい窓口で小さなため息をつけば、私の手伝いをかって出たロジーは小ぶりなカップを差し出してどうぞと笑う。
その可愛らしい笑顔と香ばしい香りに、私は引きつった頬をホッと緩めた。
「ありがとう、いただきます!」
コクリとその液体を飲めば、舌を痺れさせるような苦味と仄かな甘味。
以前冒険者ギルドで飲んだ黒曜のお茶は私のよく知る珈琲そのものと言っても過言ではないだろう。
「あー、うま。 ロジーがいてくれて本当助かるよ、ハイ、お礼にお菓子!」
「やった! ありがとうおねぇちゃん!」
「いやいや、こちらこそ癒しをありがとう!」
グリグリとロジーの頭を撫でくりまわし、そしてカップに残った珈琲を一気飲み。
そして私は午後の仕事にせいを出す。
のだが、今日の受付作業は午前中で終わりなのだ。
あまり仕事を詰めても労働力が足りなければ意味はないし、そして何より労働力が倒れて仕舞えば仕事の評価さえも下がる。
適度な休息が必要なのだ。
商業ギルド内に用意された私の仕事場に『本日の営業は終了しました』と彫った木の板を置き、ウーゴに一礼をしてギルドの外へと飛び出した。
今日は朝早くからホアンとともにセシル達が狩りに出ている。きっと昼頃には私の家へと戻るだろう。
ならば私はその前に買い物を済まし、そして彼らの帰りを待たなければならない。
ホアンへの報酬は毎回その日払いだある故、私が遅れて行くわけにはいかないのだ。
「オバチャーン、ミルクくださいなー!」
「はいよ、まいどありー」
市場をかけながら家に足りなくなってきた食材を、主に乳製品を買い集め、ギルドを出てから約一時間後には小さな私の家へとたどり着く。
しかしながら私の予想を反してか、そこにはセシル達四人の姿がすでにそこにはあったのである。
「すいません、遅れました! 今日の狩りはどうでした?」
「今日はセシルが大物を捕まえたぞ。 大人のストルッチェだ! 褒めてやんな!」
「おお、これはなかなかーー」
セシルが仕留めたというストルッチェと言う鳥は首の長いダチョウのようなフォルムをしていた。
子供達では持てない程の大きさのその鳥はホアンの背丈ほどあり、とても大きな鳥だ。
食べたこともない見たこともない鳥を目の前に、私はホアンにストルッチェの食べた方を問うた。
「まぁ、俺は焼いて食うがな。 そこらへんの鳥と違って身は赤身で、肉肉しい」
「なるほど。 ならふつうに串焼きとかがベストか。 いや、フィレカツもいいか。 うん。 フィレカツにしよう! ホアンさんはお肉、持ち帰ります?」
「んにゃ、俺は報酬と、あれだ、菓子がいい」
「分かりました。 じゃあ少し待っててくださいね」
私は急いで玄関の鍵を開け、そしてホアン用に用意した報酬とお菓子を壁の棚から取り出す。
ホアンはいつも目の前ではお菓子を食べることはないが、こうして狩った獲物の肉の代わりにお菓子を求めるところから察するに、やはり甘いものが好きなのだろう。
本日のお菓子は蜂蜜たっぷりのヌガーだ。気にってくれると嬉しい。
その二つを持ってまた玄関をくぐり抜け、嬉しそうニヤニヤ笑う子らの頭をはたき、私も笑顔でホアンに報酬を手渡した。
「いつもありがとう御座います! またよろしくお願いしますね」
「ああ、こっちこそまた頼む」
厳つい顔のホアンはその顔に笑みを浮かべて踵を返し、そして私達残った四名はストルッチェの調理に取り掛かった。
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