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新しい仕事
しおりを挟む「ウーゴさん、ウーゴさん。私、商業者登録したいんだけどできますかね?」
「ん? できっけど、何を売るつもりだ? ギルドとしてはスヴェンの商品を卸してくれると嬉しいんだかな」
「スヴェンの商品は私では決められませんが、私の売りたいのは労働力です!」
ニッコリと笑いながら受付の机をたたきつければ、ウーゴの眉間はヒクヒクと細かに動いた。
次にウーゴのぽかんと開けられた口から吐き出された言葉は奴隷商になるのかと疑問と軽蔑を孕んだ言葉で、私はその問いに笑いながら首を振る。
「私が売りたいのは孤児達各々の労働力なんです! 要は冒険者ギルドがやっている事を私個人がする感じで! まぁ、そのうち余裕が出来れば私自身が作ったものを売るかも知れませんが」
どうでしょうと首を傾げてウーゴを見るとその目は険しくひそめられており、私の考えに同意できないと言っているようにも思える。
けれどもそこで諦めるのは私ではない。
そこで私は孤児達を助けたいんですと思ってもいない言葉を吐いたのだ。
ウーゴその言葉に眉をピクリと動かすと大きなため息をつき、そして冒険者ギルドに喧嘩を売る気かと私を睨みつけたのである。
「登録票を持ってない子らを使うのはいいが、ギルドとおんなじ事を嬢ちゃん個人でするとなるとバルドロの仕事の一つを一つ奪うことにもなるんだぞ? あっちがどう動くかわからねぇが、少なくとも冒険者ギルドからは干されるぞ」
「いやはや、別に問題ないっすね。先に喧嘩売ってきたのばバルドロなので、もう二度とあのギルドを使わないつもりで運営しますよ。勿論商業ギルドにはご迷惑をお掛けすると思うので、きちんとそれに伴った契約金はお支払いします。なんで私と依頼主との間に入っていただけると嬉しいんですが」
もし許可してくれるのならばスヴェンに商品卸してくれるように頼んでみますよと耳元で囁けば、ウーゴはぐぬぬと呻きながらも頭をかく。
冒険者ギルドとの関係にキズを入れるような行為だが、スヴェンの商品は手に入れたい。
そんな思いから頭を悩ませているのだろう。
そこで私はもうひと押しと、さらに話を続けた。
「私がみた現状、冒険者ギルドでは持て余している依頼が大量にあります。スネッチョラの駆除も船の清掃も、私が始めるまで他の冒険者達は手をつけなかった依頼の一つとも言えるでしょう。それ故に船の清掃に至っては態々私の所まで依頼に来る船主さんも出てきている始末です。ウーゴさんとしては彼方のギルドの仕事を奪う事になる私の考えに同意出来ないのは当たり前だと思います。が、しかし、しかしですよ! ギルドに依頼を出している当事者からしたらいつまでたっても受けてくれないギルドより、どんな身なりでも受けてくれる方がいいはずではありませんか!」
「ーーそれはそうかもしれないが」
「それにぶっちゃけ外で金を落とす冒険者に依頼するよりこの街の孤児に依頼して、そしてこの街の物を買ってもらう方が経済が回りますよ! 面倒くせぇって顔して仕事されるより、一生懸命に生きるために仕事する子らの方が雇い主もいいでしょう? 依頼を一生懸命こなしてもらって、その間に依頼主だって他の仕事ができるんです! そりゃ多少ギルド同士のいざこざはあるかもしれませんが、この街の住人にとっては私がやろうとしてることの方が断然いいと思いますが! どうでしょう!」
バンっと音を立ててテーブルを叩き、これもこの街のためなんです。 ここで商売を営む人達の為なんですと心の隅っこにすら思っていない言葉を綴れば、それもそうかもしれないとウーゴは私の話に流されていく。
ちゃんとした頭でギルド同士の対立を考えれば、私の言ってることは破茶滅茶だって事はウーゴは理解してはいるはず。
それでも私の言葉に耳を傾けるのは全ての冒険者がきちんと依頼をこなしていないという事実と、私の従える孤児達の仕事への態度を商業ギルドとして知っているからだろう。
どちらが今後のギルド運営に大切かと天秤にかければ、それはこの街に住み着く商人や街人に傾くのは致し方ない事実であり、それが全てなのだ。
「ーー全部が全部認められるわけじゃねぇ。だが確かにお嬢ちゃんの言うことにも一理ある。取り敢えず後ろ盾はしてやるからがんばってみな」
「はい、出来るだけ皆様のお力に慣れるよう孤児達共々頑張らせて頂きます! いやぁ、ウーゴさんが受付で助かりました。じゃあ手続きお願いしますね!」
いつも通りのにこやかな笑顔を貼り付けて、私は首にかけていた認識票をテーブルへと置き、ウーゴはほんの少し遠い目をしながらそれを受け取る。
心の底で少しばかり贔屓していこうと決意し、私は認識票がもう一度手渡されるまで待った。
「ほらよ。登録料は五十ダイムだ」
「冒険者ギルドより高いんですねぇ。まあ、ありますから払います」
認識票を受け取り財布から銅貨五枚渡し、受け取ったばかりのそれをまじまじと見つめる。
先ほどまでは生まれ故郷と名前、ハウシュタットの地名と一つ星しかなったそれには、新しくニヤリと笑った口元に似ている三日月が刻まれていた。
これも冒険者ギルドのランク同様に増えていくものなのかとウーゴに問えば、そうだと簡単な言葉だけが返ってくる。
「彼方さんのランク同様、商人にもそれに近しいものはある。一つ月、二つつ、三つ月と上がってく。だが依頼をこなせば上がっていくランクと違ってこっちは早々増えやしねぇよ」
「成る程。確かに商人の方が冒険者よりも色々大変そうですしね。ちなみにスヴェンはーー?」
「旅商人は基本二つ月だが、スヴェンは一定区間の商人だったからな。今のところお嬢ちゃんと同じ一つ月だ」
「ほほぅ! 私とスヴェンが同レベル!」
「でもすぐにでも上がるだろうな。あいつの名前を知らない冒険者や商人の方が少なねぇぐれぇだ。ーーこの街で店でも持てば一気に三つ月になれるさ。だからお嬢ちゃんからスヴェンに言ってやんな、そろそろ店を持ってもいいんじゃねぇかってな!」
「あ、それは結構です」
店持ちにはなりたいだろうが、今はまだ時期じゃない。
それになりより店なんか出しても生産の手が回らなくなるし、私の自由がなくなる。
本音を言えば面倒だから嫌だ。
これ以上、他人のために仕事なんて増やしたくない。
「ーーまぁ、これで私も一介の商人ですし、これ掲示板に貼っても良いですよね?」
私は認識票に刻まれた三日月同様に頬を歪め、ペラリと一枚の紙をウーゴの眼前に取り出した。
その紙に書かれた内容を確認したウーゴは呆れたような声で好きにしろと言い、そして大きなため息をついた。
「最初から断られることなんて考えてなかったんだな、お嬢ちゃんは」
「そりゃまぁ。私は、前向き人間ですので!」
ニヤニヤと笑いながら私が貼り付けた紙には誰がみてもどんな商売をしているかわかるように簡単に、単純な言葉をだけを綴っておいたのである。
《労働力、派遣いたします。冒険者より役に立つ子供達です!》
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