リズエッタのチート飯

10期

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原因

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 さて、状況を整理しよう。

 まず初めに私が貴族という誤解を解こうと身の上話をしていたこの男、この船の船長エリオであった。
 船長と言うからに昼間から酒でも飲み漁っているのではと偏見を持っていたがそうではなく、長年連れ添った船を船員とともに掃除をする良いおじさんだったようだ。

 次にわかった事は誤解の原因はやはりバルドロにあるという事。
 昨日私達がここに来る前に使いを走らせ、私を怒らせるな楽な仕事を回せとエリオに要求したそうだ。その結果エリオは不愉快になり私たちに一番酷な仕事を押し付け、さっさと逃げ帰るように仕向けた。
 だがしかし私達は逃げ帰るどころか笑って仕事を完遂させ、それに気分を良くしたエリオは依頼の継続を決定。それに伴い今日の仕事は軽めのものに変更した、と。
 もしもそれで嫌なら来ないだろうし、来なくてもギルドには連絡して依頼金は出す予定だったそうな。

 最後に私が貴族のご令嬢と、お遊びと勘違いされたのは私の身の振り方が原因だったらしい。
 基本初対面で尚且つ仕事上の人間には低姿勢かつ敬語で話す癖があったが、そんな事をする平民はあまりいない。
 居たとしても荒くれ者とされる船乗りに頭を下げて笑って挨拶なんて目的がなきゃする事はないとエリオは言う。

 言われてみれば初めて会った船員に私が頭を下げ、それにつられてウィル達も同じ行動をする三人をみれば、それはそれでお嬢様と下僕。

 面倒くさそうに私を見ていた船員は貴族と関わるとろくなことがないと背中を向け、お気楽なお仕事ごっこに自分達の職場が選ばれたなんてプライドを持つ人間からすればいい気はしないだろう。

 バルドロの余計なお節介と、私の良かれと思ってやっていた行動がうまい具合に合致し今回の誤解に至ったと言うわけだ。

「でも、貴族を雇うのが面倒と思っていたのならば昨日で切ってくれればよかったじゃないですか! その方がそちらだってよかったはずでは?」

「まぁ確かに昨日で依頼達成でもよかったんだがな、愚痴一つ言わねぇお嬢ちゃんに感心したのさ。ギルドには頼んでも投げ出す奴はいるが、笑ってこなす奴はいねぇ。たとえお貴族のお嬢ちゃんでも使えるものは使った方がいいだろう」

「その結果私は今日怪我をするところで、船員には殴られましたが?  仮に私が貴族の娘だったらエライ問題でしたよ!」

「でも嬢ちゃんは貴族じゃなかったんだろ? なら問題ねぇよ!」

 そう言う問題じゃないと叫んだところでエリオは豪快に口を広げて笑うだけで、私は思わず頭を抱えた。
 大人しく昨日でやめておけば良かったと言う気持ちは正直あるが、孤児三人に一種のお仕事体験をさせてあげられたのは良かったかもしれない。
 お仕事ごっこを嫌う船員でも、よく働く孤児には嫌な気はしないだろう。

「嬢ちゃんたちが良ければ当分きてくれてもいいぞ? 貴族じゃねぇってんなら他の奴らも楽だろうし」

「そのお言葉に甘えたいのは山々なのですか、それであの依頼金ですとちょっとーー」

「勿論あれば一日分の依頼金だぁ。今度からは来た分きっちり払ってやるよ」

「きっちり働かせてもらいます! ついでに孤児の追加もいいですか!」

 思ってもいないエリオの言葉に勢いよく返事を返し、そしてもひとつオマケに孤児の増員を願い出る。するとエリオはにやりと笑いながら人数が増えても依頼金は増えないと釘をさし、私はそれでも経験が積めるのならばと了承した。

 本来ならば人数増えた分、依頼金の増額を希望するところだが、今回は普通の人間ではなく孤児を働き手として私は連れてくる。
 信用のない孤児を雇用するのは相手にとっても良い事とは言い切れず、孤児からしたら働く場所が出来てありがたいと思うしかあるまい。
 この仕事で信用を勝ち取れば今後は私が口添えしなくてもて仕事が見つかる可能性はある。ただの可能性ではあるが、何もしないよりはマシだろう。

「では今日も引き続き仕事にあたらせてもらいます。それと私を助けてくれた人にお礼を言いたいのですが、どちらにいます?」

「ーー殴られたのに礼を言うのか?」

「殴られたのと助けてもらったのは別なので」

 私がニッコリと笑ってそう言うとエリオはまたもや豪快に笑い、オスカーを連れてこいと大声で叫んだ。
 すると後ろでせっせと働いていた船員が走り出し、一二分もしないうちに服も顔も言葉通りにボロ雑巾に成り果てた黒髪の男を引きずり帰ってくる。
 ポイと地面に放り投げられた男はゴロゴロと転がり、そして赤黒く腫れた顔をもち上げて舌打ちをした。

「イッテェなぁ、くそ! んだよ、またお前か!」

 私に向かって悪態を吐くオスカーとやらに、私の後ろに控えていたエリオをギロリと鋭い視線を向ける。その視線に気づいたオスカーはバツが悪そうに私に顔を背け、そしてまたチッと舌打ちをした。

「オスカーさん、でいいんですかね? さっきは助けてくれて有難うございました」

 口調が丁寧すぎるとエリオに言われたばかりなのであまり畏まらずにお礼を言い頭を下げ、続けて私は貴族ではないと訂正を入れる。そしてついでにもしも私が貴族だったらその口調と態度はいささか問題になるのではと指摘しておいた。
 私としてはなんの問題にもならないのだが、本当の貴族のお嬢さんを殴る事があったらこの船の信用にも関わってくるのだ、気をつけてもらった方がいいだろう。

「あなたが海に沈められようと生き餌にされようと関係は無いのですが、他の人に迷惑がかかる事を認識した方がいいですよ?」

「別に! 俺は迷惑をかけるつもりはねぇし!」

「それでも私がお貴族のお嬢様だったら、あなたを雇ってるエリオさんに責任を問いますが? その結果打ち首とかになったらどうするんです? あなたのせいで、エリオさんが! 御免なさいで済むほど可愛らしい"お嬢様"なんて早々いませんよ! 私が平民だったのが幸運なんですからね!」

 流石にエリオの死をチラつかせればオスカーはぐぬぬと唸りながらも黙り、その様子にエリオはニヤニヤと笑った。
 私たちのやり取りを見ていた船員もオスカーを馬鹿にするような、面白そうな目で見ているだけで助け舟を出すことはしない。
 ぱんぱんに腫れ上がった顔をむすっとさせていたオスカーは自分の仕出かした事の重大さに気づき、そして小声ですまなかったと私への謝罪を述べたのである。

「殴ったのは悪かった。でも俺は悪くねぇし」

「どっちなんだよオイ。でもまあいいです、悪いのは全部クソバルドロなんで。私もあなたを許すので、仕事を手伝ってもらえません? とりあえず洗濯済みなのを甲板まで運んでください」

「なんで俺が!」

「もう私の体が限界なんだよこんちくしょう!」

 言葉遣いも崩れてきたが、それと同時に私の足腰も崩れ落ちた。
 運動不足気味の私の体はすでに限界値に達し、甲板までの登り降りはもう無理だと思えるくらいに筋肉がピクピクと痙攣し始めているのだ。体が若いと筋肉痛は早くくるというが、半日も働かないうちにもう既にピークを迎えていたのである。

「この子鹿のように震える足が見えますか! 見えるでしょう!? 女の子の頭を殴った事は不問をしてあげるんですから手伝ってくれてもいいじゃない! ねぇエリオさん!いいですよね!」

「オスカー、手伝ってやれ。下手にギルドにチクられても困るしな」

 ギルドに告げ口するの気なんてないがエリオが面白そうに笑っているし、オスカーはボロボロの顔をさらに歪めているから理由とするには十分なのだろう。
 私もニヤニヤと笑いながらギルドには手を上げた事は内緒にしときますと意地の悪い顔をしてみれば、オスカーは諦めたように深いため息をついた。

「なんかお前、性格違くねぇ?」

「いやはや、これが素ですよ? みなさんが五月蝿いから切り替えただけです」

 お貴族様とかお嬢様とか言われなければ礼儀正しいリズエッタちゃんでいたあげたものを、その態度を良しとしなかった船員とエリオが悪いのだ。
 まあ、一番悪いのは変な事をぬかしたバルドロだが。

「後の仕事が詰まってますし、じゃんじゃんやってきましょ!」

 元気よく張り切って両腕を上げ、私はにこやから笑顔の後ろでひたすら考えを巡られせた。

 バルドロが一番嫌がる事は何かと、冒険者ギルドとって不利な事はなにかと。

 私が考えつく限りの不合意を示してやらなければ、私のこの苛立った腹の虫は治る事はないのだから。
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