リズエッタのチート飯

10期

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カルメ焼き

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 人に得意不得意があるように、生きているうちに合う合わないの人間関係もあるだろう。
 例えば、私がラルスを苦手意識から進化を遂げて嫌うように、それは誰にでもある事だ。
 だから私は目の前で言い争っている二人に仲良くしろとは言わないが、ほんの少し、ほんの少しだけでも歩み寄ってもらいたいとも思うのは間違いなのだろうか。

「私がどうリズエッタを呼ぼうが関係ないだろう!」

「関係なくねぇ! オメェはもっとお嬢を敬え! 呼び捨てなんて論外だ!」

 見つめ合う二人に色を感じることはなく、そこにあるのは嫌悪のみ。
 作業を教え始めもう一ヶ月以上経つというのにあの二人は仲良くなるそぶりはみせない。

 私を敬い讃え、主人呼びかつ敬語で接しろというレドに対し、シャンタルは私をまだ認めても信頼してもいない為に呼び捨ての軽んじた口調。

 本来ならばレドの意見が正しいのだろうけれど、面倒臭いし、わざわざ敵意を向けられるのも嫌だった為に私はそれを許したのだ。
 しかし私至上主義となった忠犬レドからしてみれば気に食わないのは当たり前で、そこのところを考慮できなかった私のミスだと言える。

「……止めますか?」

「んにゃ、いい。 やらせておけ」

 深いため息をつきながら私はパメラと共に果物を採取していく。木の上にいるパメラも二人の様子をチラチラと確認しているがその手を止めることはなく、柔軟な下半身を使って次々と枝を渡り私の遥か頭上に出来た果物達を落としていった。

 パネラは蛇の様な下半身を持っているからか木に登るのが得意だ。
 今までレドや祖父に肩車してもらわなければ取れなかった場所にある果実も、するりと木に登り楽々手に取ることができ、そのおかげで一日に採取する量は増えているし地面に落として傷つく果実も減っている。

 一方シャンタルは木登りは得意ではないが、パメラの補助や新たな試みである皮のなめしに大変役にたっている。
 彼女が生み出す糸はとても丈夫で、木の下にはっておけば果実が落ちても地面につくことはなく、万が一私が木から落ちても怪我をすることがない。先日その糸でファングを吊って捌いてみたがビクともせず、そこそこの重量に耐えられるだろう。

 また彼女がファングの毛皮が勿体無いと呟いたことにより皮の加工を始めてみたところ、案外あっさりと上手くいったのだ。
 それは彼女がなめし方を知っており加工した事があった事と、庭に必要な植物があった故に可能となったのである。

 最初はシャンタルが使用していた草を用意しようとしたのだが、なんでもお茶として飲んでいたとものを濃く煮詰めただけらしいので試しに緑茶を使ったら案外上手くいっだのである。
 しかし緑茶を使ってなめすと色の薄い毛皮の場合は若干黒く染まってしまう為、それらをなめす場合は火山帯にある石を使用した方がいい様だ。
 近々その石を手に入れようと手配してはいるが、やはり大きな都市に行かないと売っている場所もないらしい。
 今度ハウシュタットに出向いた時にでも見つけて買ってこよう。

「パメラー、あれはほっといておやつにしようか」

「そうですね、そうしましょう」

 最初より物腰の柔らかくなったパネラは甘いお菓子に弱い。
 パンケーキはもちろん、試しに作ったプリンを大層気に入った様で今じゃおやつという単語によく釣られる。
 今日のおやつは贅沢に砂糖を溶かして固めただけのカルメ焼きだ。

 いまだ声を荒げ合う二人に背を向けパメラと二人でキッチンへ向かい、用意したザラメと水を金属のお玉に用意して調理開始。
 あまり強い火は使いたくないので精霊にもらった火の花を四、五本まとめそれをパネラに持っていてもらい、ブクブクと粘り気のある泡が出るまでひたすら溶かす。そこまで溶けたら濡れた布巾にお玉をおき、ベーキングパウダーを少し入れ数秒グールグル。
 あとは勝手に膨らむから放置して、軽く冷めたらもう一度熱して逆さまにポンとすればぷっくりふくれたカルメ焼きの完成だ。

 そのカルメ焼きを見ていると、ふと、昔はよくやったなぁと私が私になる前の記憶を呼び起こし、あの時は混ぜすぎて膨らまなかったとか重曹入れ過ぎて苦かったなとか、あの時から料理は出来なかったのかと今更ながら思い知ったのであった。

「……お嬢ぅ、オレの分はーー」

「わ、私のは!」

 甘い香りに誘われてきた二人は先程の剣呑とした空気を捨て此方を見つめ、レドに至っては耳と尻尾を垂らしている。

「あるよー、だから大人しく待ってなさい」

 その様子に急いで作るからと呆れ帰りながら笑うと、二人はヘドバンのごとく頭を上下に振った。

 もしかしてこの二人、似た者同士なんじゃない? 同族嫌悪でいがみ合ってるんじゃない?

 と、そんな事を思いながら待っている二人分を作り終えれば、食べ終えたであろうパメラが物欲しそうに二人を見つめ、私はみんなに二つずつ渡る様に再度作り始めたのである。



 私は亜人三人が両のほっぺにカルメ焼きを詰める姿をほのぼのと眺め、口が甘くなり過ぎない様にコップに水を用意したあと一旦家へ通じる扉をくぐり、高めのテンションで声を上げる。

「ただーいまっ!」

 誰もいないだろうと思っての行動だったのだがその考えは浅く、目の前には何してんだお前と語りかける瞳のスヴェンと、おかえりと微笑ましく笑う祖父がそこにいた。

「……何も、見なかったことにしてください」

「わかった。 見なかったことにしてやる、聞いてはいたがな」

 ああ言えばこう言うスヴェンは鼻で笑い、そして何かに気づいた様に私に近づき匂いをかいた。

「ーー変態?」

「違ぇわ、リズ、お前なんか作っただろ。 大人しくよこしなさい」

 ジィッと私を見る目から逃れようと祖父に視線を向けるも祖父も同じ様な目で私を見つめており、私は渋々ポケットに隠しておいたカルメ焼きを取り出し引き渡す。
 それを受け取り満足気に笑うスヴェンは当たり前の様にカルメ焼きを半分に割り、祖父と二人で美味い美味いと頬張るのだ。
 孫からお菓子を奪うとは、子供からおやつを奪うとはと恨めしく睨むも、用意してないお前が悪いとスヴェンは鼻を鳴らすだけで悪いとは思っていないのだろう。

「ーーんで、あの二人の様子は?」

 カルメ焼きをバリバリと食べながらスヴェンはパメラとシャンタルの様子を私に尋ねた。というのもスヴェンがあの二人と会ったのは領主の屋敷にいた時のみ。
 それは彼女らにさらなる負担をかけない為の私なりの配慮だ。

「仕事内容は大体覚えてきてるし、パメラの方は今の状況を受け入れつつあるよ。 シャンタルはまぁ、まだレドと言い合うレベルにいるけど、食べ物に釣られる。 多分二人とも庭に残る事を選択すると思うよ」

「ーーーーそうか。 ならそろそろ次のをお迎えに行くか」

「いいけど、私も行っていいの? 行っていいってか逃げていいの?」

 首を傾げながら問題ないのかと前の決定より早い決行ではないとかと尋ねれば、スヴェンと祖父は顔を見合わせてラルスが、と申し訳なさそうに目を背けたのである。

「嗚呼、ラルスがやっぱりやばい、と」

「まあ、そんな感じじゃ。 もうアレはどうにも止められん」

「何がやばいって村中が婚姻を決定付けてるのがやばい」

 がっくりと頭を落とす私の肩をスヴェンは叩き、私はフツフツと湧き上がる怒りをどう収めるべきかと頭を悩ませ、そして思いつくのはたった一つの思い。

「こうなったら泣かす、意地でも泣かす、吐くほど泣かす。 自分より若い女の子に泣かされて生き恥を晒すがいい」

 暴言の限りを尽くしてラルスを泣かせば、少しは私の気持ちも晴れるに違いない。

 そう心に決めたのである。


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