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8 騎士団の日常
しおりを挟む佳乃の一日は太陽が昇る前、まだ城の住民たちが寝静まっている時間から始まる。
騎士の一員、とは言っても解体、整備要員としても仲間にいれてもらった佳乃だが、それでも一応は騎士。
騎士団隊長でがあるルーカス・ベルナルドに認められる為に日々の演習にも参加させてもらう事にしたのである。
「ヨシノ! 遅れてるぞ! もっと早く走れっ!」
「すいませんっ」
ゼイハアと息を吐き、他の騎士を追って敷地内をひたすら走る。勿論佳乃は一般的な女性で、体力なんてそれほど無い。それ故に銃の演習に参加する前の基礎運動やランニングで既に膝が笑っていた。
けれどもだからといってミランや他の騎士が佳乃を助けてくれるはずなどなく、自分自身の力で彼らについていくしか無いのだ。
ランニングが終わると次は銃の手入れに入る。
ここで使用している銃は佳乃が使っていた猟銃とよく似ており、手入れを覚えるのに然程苦労はなかった。
唯一あった苦労といえば、彼女を気に入らない人間による嫌がらせだ。
殴る蹴る、などといった暴力行為こそないが、女の癖にや聖女様のおまけに癖にと暴言を吐かれることは多い。こうも毎日言っていて飽きないものかと佳乃は呆れてきてはいるが言葉に出す事はなかった。
それは言葉を出したら最後、ネチネチと言われ続けるだろうと予測しているからだ。
そして今日もまた気にも留めない佳乃の後ろでは、ニヤニヤと笑いながら彼女を嬲る暴言が吐かれた。
「女の癖にここに居られるなんて、隊長にどんな媚を売ってんだろうなぁ?」
「媚で済むのかぁ? 身体でも売ってんじゃねぇの? まぁあんな貧相な身体じゃ誰も買う気はねぇだろうけどな」
下品に笑うその声に、佳乃は隊長であるルーカスさえも馬鹿にしている事に気付かないのかと下唇を噛む。
自分を馬鹿にするのはいい。彼らの言う通り佳乃は女で貧相で、ここでは異質の存在だ。
だがルーカスは佳乃の願いを叶えただけに過ぎない。我儘で身勝手な、拒否する事すら拒まれるお願いをされたに過ぎないと、佳乃はそう思っている。
事実ルーカスが佳乃をここの置いてる理由はツェリに頭を下げられ、世話係のミランが口添えをしたからこそ、聖女と離すという命があったこそ、佳乃を騎士団においていたのだ。
そんな事実を知らないとはいえ、いくらなんでも自分達の隊長を落とす言葉を言うことができるなとチラリと視線を動かしてみると、彼らは不機嫌そうに佳乃を睨んでいる。
「ーーなんか文句あんのか?」
「いえ、何も」
黙っているのが正しい。
変に歯向かって居場所が無くなるのは嫌だ。
佳乃は痛み出す胃を撫でながら、誰にも気づかれないように溜息を吐いた。
早朝からの演習訓練が終わると、佳乃はそのまま調理場へと入る。何人かで分けられている調理班の一員に加わり、朝食の準備を手伝う為だ。
最初は城の警備なのだから支給してくれてもいいのではないかと思っていた佳乃だが、騎士団の食べる量を計り間違えていたことに気づいた。
一般職員よりもガタイの良い彼らの食べる量は凄まじく、きっと城内の小綺麗な料理じゃ物足りない。それならば多少は大雑把でも量の確保できる品を用意するのが的確な判断ともいえたのだ。
淡々と皿を並べ、籠に入ったパンの山をテーブル一つ一つに準備していく。食事は皆同じで、今日の献立は肉と野菜がゴロゴロ入ったスープにマッシュポテト、どでかい肉の塊をただ塩で焼いただけモノに食べ放題のパン。
パンは佳乃が知っているものよりもズッシリと重く皮が固い丸パンで、パンだけでも腹にたまる。
だいたいスープと肉の味付けとだけが変わる胃もたれを起こすような献立で、それが毎日続く。
時折ツェリが気を使って食事や薬を用意してくれているからか酷く体調を崩す事はないが、騎士団に入って早一月、佳乃の身体は確実に変化を良くも悪くも遂げていた。
甘味を食べることが少なくなり、赤身の肉を大量に取る為か身体は筋肉質なものへと代わりつつある。しかしその一方で慣れない食生活のため三日に一度は腹を下し、げっそりとした表情を見せる事もある。
うっかりその表情が美琴に見られる事があれば騎士団から一度拉致され、彼女の部屋に連行。お茶会と名のついた愚痴会に付き合わされて騎士団の仕事を放棄せざるおえない。
その結果騎士団への評価はサボリ魔と言われてまた下がり、ストレスで胃が痛むという嫌なループが繰り返されるのだ。
城の人間が佳乃と美琴が合わないよう気を張ってると言うのに、彼女はそれを無視して佳乃へ構う。
嫌だとはっきり言えない佳乃も悪いのだが、いい加減美琴にも一人でやっていってほしいと佳乃は願うのであった。
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