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空くもその先で。
しおりを挟む【拝啓、コレを目にしているすべての皆様へ。
どうもこんにちわ、もしくはこんばんは田中すずと申します。
私は長年平々凡々生きてきた一般市民でしたが、ある日を境にそれは一変してしまいました。
そう、皆様のよくご存じなゾンビ化ウィルスのせいです。
未だのこれの発生源はわかってないとの事ですが、そんな事私にとってはどうでも良い事ですので話題にはしません。
では何故私が皆様に語りかけているのか。
それは私はこの状況になった事にもこの決定がされた事にも、何も感じていないと知っておいて欲しかったのです。
いつかはこんな日がくると内心わかっていました。
だから多少苦しくも納得できてしまうのが現状と言えましょうか。
きっと私と似たような現象にいる半ゾンビの方々も理解を示しています。
いや、理解はしていませんね。
どうでも良いと思っているのです。
何せ私達半ゾンビはとても感情が乏しくて、喜怒哀楽をうまく表現できません。以前はどうやっていたのかすら思い出せません。
けれど、確かに誰かを思っていた事は理解しています。
私にも大切な家族がいましたし、それはゾンビになった方々も同じでしょう。
だからこそ単純にその決定に従う事ができるのだと思います。
私たちは今まで街の外に生きる皆様のご好意で"生存者“と名乗っていただけに過ぎず、その正体は化け物そのものです。
だから皆様、ご安心ください。
皆様は世界の脅威を排除するだけです。
あの黒光する虫を無意識に毛嫌いするように、存在を許せないように、私達はきっと相容れないもの同士なのです。
だがこそ何度も伝えます。
私達はそれを理解しております。重々承知しています。
みんなで手をとり仲良く生きてなんていけないのです。私達は理性があっても人を襲うから、食ってしまうから共存できやしないのです。
ですがもし少しでも私達をあれば是非ともゾンビ化の現状を解明し、このウィルスを根絶していただければ嬉しい限りです。
長々と続けてしまいましたが、コレをもって私の前に現れる事はありません。
それでは皆様、ごきげんよう】
「お前、またそれ読んでんの?」
「んぁ、まぁ、なんか印象深くてさ」
時は流れ既にゾンビと呼ばれた者達はほとんど消え失せた時代。それは歴史上の出来事となりつつあった。
当初意識のあるゾンビは人間として認められていたが、数が減るにつれて彼等も化け物とみなす声が多くなるようになった。普通の人間からすればゾンビも半ゾンビも変わらぬ、人を食う化け物。
いくら同類同士殺し合いをして人数を減らしてくれた陰の立役者だったとして、脅威である事は変わりない。
故に世界は彼らをゾンビと同様な扱いをする決定を出したのだ。
最初は彼らを擁護していた人間いたが、ならばお前達が襲わないような協定を話し合いを行ってみろと言われれば口を閉ざす。いくら意識があっとしても彼ら人を襲ういうことを知っていたから、行動には移せないかったのである。
そして世界中が悶々とした雰囲気の最中、最初の一人と言われていた田中すずは大々的に『それで良い』と発言し、公に自身の意見をネットに上げた。
ゾンビが住む街にもテレビやラジオはあり、彼女はそれを見て納得した上での行動だったのだろう。
それを機に彼女はネット上から消え、他の半ゾンビ達も仕方がないと発言しては消えていく。
彼女達の決断を無駄には出来ないと綺麗事を述べた政治家は彼らの街を焼き払い、残ったのは街や人だったものの残骸だけだった。
おおよそ二十年ほども前の出来事だが、今でもネットの海を漂えば"生きていた"とされる半ゾンビ達の記憶は辿れる。
それだけを見れば自分達と同じ人間らしく思えるのに、一体何がそうさせてしまっていたのだろうか。
ウィルスがまだ根絶していない世界で、彼らはとあるサプリメントを毎食摂取する。
未だその原理が解明されていないがただ一つだけ、自分達が"殺した“人たちのお陰で生活できているとうことは理解できている。
「この人は一体最後になにを思ったんだろうな……」
どうしようないその言葉はガヤつく空気に飲まれ、最初からなかったかのように消えていったのである。
fin
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みんなの感想(1件)
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ゾンビ物にあまり心動かされないタイプなのですが…好きです。今後どうなるのか楽しみにしてます。
お読みいたただいて嬉しいです!
それほど長くはない物語なので、完走まで頑張ります!