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人質

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 そして、慌てる事なく彼は人質を取った。

 転移魔法で移動してゾフィーのお爺ちゃんの背後を取ったのだ。
「陛下、お久しぶりですね。お元気そうで何よりだ。私、転移魔法使える様になりましてね」
 彼は、公爵家の庭師ーーエルメリア元国王、昔自分の仕えた主君を後ろから羽交い締めにし、片手は顎を取りもう片手は喉仏を握り込んでいた。ほんの少し力を入れただけで砕いてしまうだろう。でも多分そんな事しなくても殺せる。俺たちに対するパフォーマンスなのだ。その先に真の目的がある。
「いつからそんなに……」
「使える様になったかって? 多分彼女にーー彼に逃げられてからでしょう。
 唯一つ望むものは手に入らないのに、望んだわけではないものだけが手に入る。
 皆欲しいのでしょうね。この魔力の強さも属性も」
「まさか」
「そうなのですよ、陛下。力はそれなりに強くなるものなのでしょうが、三つの属性全てを身に付けました。悪魔と契約したわけでもないのにね。どんどん強くなる。
 やあ、マーゴットも久し振り。今はゾフィーだっけ?」
 シニカルな笑みを浮かべる。それさえもサマになる美丈夫だ。なんかムカつく。お子様な俺には太刀打ちできない。そこだけ太刀打ちできないのなら良いんだけど。
「何か老けたね。お互い様だけど」

 こちらの魔法が無効化され、しかも人質まで取られては手も足も出ない。
 ピシッ!
 その時何かが爆ぜた。
「おっと、動かない様にね」
 魔法が効かないので、自ら動こうとした人々が動きを再び封じられる。
 本当に手も足も出ない。

 ぼんやりとゾフィーを見ている。見ているのは彼女の向こうの彼。
「なんかやっぱり違うかな。
 私はどうしても彼の事が愛せなかった。約束した筈なのに」

 そう言った瞬間、彼は別の場所に移動していた。キールの背後に。同じ様に羽交い締めにし、今度もいつでも砕ける様に喉に手を掛けている。
 目が虚ろだ。
 それがとても怖い。

「どうしようかな。この彼にしとこうかな。彼もなかなか美しいですよね」
 俺たちに喋りかけてるというより、自問自答している様だ。
「君も転生者らしいね。約束の恋人は見つかった?
 忠告しといてあげよう。見つけない方が良いよ。絶望するだけだから」

「余所の国に迷惑をかけるな」
 解放された庭師のお爺ちゃんが嗜めようとする。そんなのは効かない。分かっているけど、口に出さなければ話が進まないもどかしさ。
「それは私も思うのですけれど、私の望むものはどうやらこの国にある様なので」
 そこで漸っと、彼は目に光を取り戻した。様に俺には見えた。

 そして気付いた時は、彼は俺の背後に居て、俺は皆んなから引き離されいた。


 どういう事?
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