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長い一日
しおりを挟む俺たちの長い一日はまだ終わらない。
俺は得意満面である。銀のスプーンぷるぷるさせてたのにこの成長。リョウくん頑張った。自分を褒めたい。
警察署だけど。
「カツ丼とか無理だろうね」
「食べたくなるからやめて」
「今度作って貰おう。米あるから」
「マジで?!」
「あ、でも醤油とか出汁とかあるのかな? 作り方とか材料とか良く分からないけど要るよね? 三つ葉は外せないけどあるかな」
盛り上がる俺とライトは、
「ありますよ、カツ丼」
というキールの言葉に更に呑気に盛り上がった。
この時点で容疑者だと言われても、拘束されないし取調室じゃなくてフツーに事務職員とかも居る部屋のソファだし、緊張感ない事甚しい。それに容疑者って位置でもないらしいんだ。警察といったら、カツ丼だよね。マジックミラーは昼間カフェで体験しちゃったしな。でもこの世界の警察にマジックミラーはあるんだろうか? 無かったら進言してみたい。
でもカツ丼はあの異世界の日本の女の負では無い方の齎したものだと聞いて気分が落ちる。
カツ丼は無かったがお茶を出された。
出してくれたのはエドモンドという警部だった。警部自ら。皆んな忙しい。
俺たちは彼と初対面ではなかった。
ゾフィーの店に居たオジサンだ。他に居た客もお巡りさんだった。彼らは今あの男を取調べ中だ。
道理で何か内装に合ってないと思った。
エドモンド警部は言った。
「異世界人だからって疑って悪かったな」
前任者のせいか。関係ないのにこっちが何か謝りたくなるな。本当に何をしたんだか。
あの店に寄るのは予定の内だったから最初から張られていたらしい。城は無理だもんね。張り付きたくても。
「警部自らとは」
「まぁ、王子様だしな。若いのは面割れているし」
王子様も何をしたの。
軽い結界魔法は尾行者がきちんと意識を向けると意味をなさなかった。そして俺たちを尾行ている時に爆発騒ぎが起きた。
「でも早々に容疑者から外して良いんですか?」
「あんたたち二人は外にいたし、爆発に慌ててたしな」
水属性の二人を置いてったのが敗因だよ。居れば水で簡単に消せたのに。
「被害者を装うという事もありますし」
「何で“麗しのグエン=ローデンハイム号”を犠牲にしてまでする事があるのだ」
そういうのもあったな。
「恨みのある者による内部犯行とか?」
我ながらいい線いってる。
「リョウ」
え? 何で俺?
皆んなの視線が突き刺さる。
「こういう過激な事に及ぶのって、性格上限られてくるよね」
「ヒヨリ、幼馴染を裏切るな」
「幼馴染だから理解が……」
キール?
「いいか」
横道に逸れた俺たちにエドモンド警部が割って入った。
ゆるくさせて油断してるところで何かポロっと零すの待ってる訳じゃないよね?
「野次馬も居ましたね。怖くないのかな」
うん。不思議そうにするヒヨリも可愛い。
「ずっと下町で城下の方じゃ初めてだったからというのもあるんだろう。下町じゃ被害で建物が片付かない所がまだある。城下の様に綺麗じゃない」
男は被害者の家族だった。
彼は一連の爆弾テロ事件の内に奥方と子供二人を亡くしていた。奥方の実家が下町で親の病気見舞いに行った際事件に巻き込まれたという。
「爆弾は彼が作ったものではないんですね?」
「え?」
「家族殺された時は疑ったが動機がないし、テロはその前からあってな。テロというものでもないんだが。出回ってる。それに全て犯人は違うんだ」
「どういう事ですか?」
「爆弾が出来て、凶器として認知されて、銃やナイフや毒なんかに取って代わってる。個人の怨恨も、地下組織の抗争も、凶器として爆弾を持て囃している」
エドモンド警部は続ける。
「犯人は捕まえたのものも居るが、目星のつかないのもある」
「彼の家族を犠牲にした事件の犯人は」
「ああ、見つかってない。地下組織の抗争でもないらしくてな。警察に任せる気がなかったというよりそうせずには居られなかったんだろうな。仲の良い家族だったらしい」
警部の言葉に俺たちはしんとなる。
被害者の家族だったのに。死んでしまったのは彼の奥さんと子供たちだったのに。爆弾の出所も突き止めたのに。何故同じ様な犯行に及んでしまったんだろう。
「事態は一向に良くならないし、それで王家に恨みが向いてしまったんだろう」
ヒヨリが言う。
「忘れたかったのかな。忘れたくなかったのかな。どちらにしろ日々の生活の中じゃ余計思い出してしまうものね」
「それでやっぱり自殺しようとしたんですか?」
訊くリロイに。
「あの状況では間違いなくそうだろうが。まだ黙秘中で供述は何も取れてない」
「私たちに会ったせいかな」
グエンの意見は間違ってないと思う。
逃れられないと切羽詰まったんだろうな。
「被害が出なくて良かったですね」
そう言うヒヨリに頭を差し出し撫で撫でして貰う。
「うん。リョウのお陰」
「でも良く分かったな」
警部に猫の話をする。
「危険を報せる猫ねぇ」
「悪いカンジはしないんです。何でくっついて来たかは分かんないけど」
間違いなく妖精の森の公爵家別邸から着いて来てると思うんだ。何の異世界特権だろう?
「他の奴らも捕まえんとな」
エドモンド警部は言うが、何人捕まるんだろう。何人捕まえられるんだろう。
「愉快犯みたいのは」
「それもあるかも知れんな。最初は地下組織の抗争から始まったんだが。しかし多分素人巻き込んだ時点でそいつらは爆弾からは手を引いてる可能性がある。犯人が出頭して来たとしても、蜥蜴の尻尾切りだろう。本当の実行犯でない可能性もある。どちらにしろ、命令を下した者を捕まえるのは難しい」
「無理だとは仰らないんですね」
キールに警部は頼もしく答えた。
「それは意地でも言いたくないな」
俺たちの長い一日はやっと終わり、眠りに就いて俺は、ヒヨリがしてくれた様に黒猫の頭を撫で撫でするという夢を見た。
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