77 / 190
ラスティア国
77 秘書官レティシア
しおりを挟む五人の従者sは、常にアシュリーの側で生活をしている。それが、アルティア王国でもラスティア国でも変わりはない。
妹がいるルークだけは、王国へ来た当初…ロザリーの預け先となるクロエ夫人の世話になっていた。ロザリーが新生活に慣れるまでの間、兄妹で身を寄せていたのだ。
ユティス公爵家より『レティシアを受け入れたい』との有り難い申し出があった…と報告を受けたアシュリーは、すぐにルークの住まいを大公邸から公爵邸へと移らせる。
レティシアの護衛役として急遽引っ越しを余儀なくされたルークは、再び妹と同じ屋根の下?で暮らすことになった。
(私に護衛が必要なのかしら?秘書官ってそういうもの?)
他国を周っていたアシュリーに誘われるまま、同じ異世界から召喚された“聖女”に会いたい一心で王国へとやって来たレティシアは、予定外のイレギュラーな存在。
便利な魔法があるとしても、たった一日でレティシアの生活環境を整えなければならなかったルークとカリムは苦労したに違いない。ルークの疲れた顔を思い出し、引っ越し作業まで加わってしまったことを申し訳なく思う。
(今のところ…私、手間と迷惑を掛けているだけだわ)
明日からはしっかりしなければと…柔らかなベッドの中で、レティシアは目を閉じた。
──────────
──────────
「…何もない?……共寝したんじゃ?」
「馬鹿おっしゃい!」
「昨夜、ロザリーが俺の部屋に飛び込んで来た。自分が邪魔をしてしまったって、半泣きになっていたぞ?」
「それは…誤解があったせいよ。だから、ルークも変なことを言わないで。殿下は、用事が済んだらお邸へお帰りになったの」
「用事?…抱き合って?」
「お願い、それ…もう忘れてくれない」
「…ロザリーが…ひどく気にしている…」
「今朝、彼女には私からちゃんと伝えたわ。大丈夫よ」
「本当か?」
「………ルーク…」
(あなたシスコンなの?…いや、シスコン確定ね)
可愛いロザリーを心配する気持ちは、レティシアにも分かる。とはいえ、護衛であるのをいいことに、朝からやたらとまとわりついては昨夜の出来事を根掘り葉掘り聞いて来るルークに…うんざりして項垂れた。
兄とは、妹を溺愛する生き物。それを身を以て知っているレティシアは、これ以上ルークがシスコンを拗らせないよう神に祈る。
♢
昨夜のアシュリーは、自分とラファエルの逞しさを見比べて欲しかったらしく、いきなり肉体美を見せつけるという…トンチンカンな行動に出てレティシアを大いに困らせた。
王族は、ほぼ全裸の状態から服を着せて貰うなど、毎日の身の回りの世話を他人に任せる身分。幼少期からそうした待遇を受け続ければ、最終的に従者の前で素肌を晒すことに羞恥心がなくなる。
しかも、レティシアはアシュリーの上半身(背中)をすでに一度見ていた。怪我を心配して確認した時には全く躊躇しなかったレティシアが、まさか大声を上げるとは思ってもみなかったのだろう。
あそこまでフリーズしたアシュリーを見たのは初めて。大きな身体で、どうしようもなくオドオドする姿が何だか可愛くて…可哀想で?怒れなかった。
(殿下のほうが、いい筋肉をしていますよー!!)
♢
今日は“秘書官”として初の出勤?日。
ブツクサ煩いルークを護衛兼案内人として伴うレティシアは、緊張感のない状態で長い廊下を歩き続け…いつの間にか秘書官室の前を通過、建物の突き当り近くまで来ていた。
「あ、レティシア…秘書官殿?おはようございます」
騎士の制服を格好よく着こなし、背筋をピンと伸ばしたカインが、壁を背にして涼し気な顔で廊下に立っていた。カインの隣には見知らぬ騎士がもう一人、レティシアは軽く二人に会釈をする。
大公殿下の秘書官ともなると、むやみにペコペコ頭を下げていてはいけないらしい。(ゴードンの教え)
「イグニス卿、おはようございます。お仕事中ですか?」
「そう、見張り。大公殿下の執務室前だし?」
「執務室…えっ?ちょっと、ルークさん。私の部屋は他の方たちと別になっているから、そこに連れて行ってくださると仰っていませんでした?!」
レティシアは、案内人のルークをジロリと見上げた。
すると、カインとルークが同時に執務室を指差し、レティシアを見る。
「「…ここだよ…」」
「ここ?だって、ここは………冗談よね?」
──────────
執務室内にも、扉の左右に騎士が二人無言で立っていた。
立派な応接セットが並んで二つ、事務机、ドッシリとした大きな執務机…の上には、溜まった書類が山積みになっている。
漫画でしか見たことのないような絵面に呆然としていると、執務机に座るアシュリーが書類の影からヒョイと顔を出す。
「レティシア…おはよう、待っていたよ」
「…おはようございます、殿下。本日より、よろしくお願い申し上げます」
「あぁ、頼んだよ。今日は初日だから様子見でいい」
「はい、ありがとうございます」
レティシアとて、別に熊の敷物や鹿の剥製を期待していたわけではないが…シンプルで無駄なものを何一つ置かず、室内の壁面はギッシリ本の詰まった本棚だらけ。
窓が少なく、広い部屋の中心まで自然光が届かないため、魔法の灯りで補っている。それが逆に厳かな執務室を演出しているかに思えた。
調度品やカーテンは落ち着いた色調で揃えられ、全体的にノーブルな雰囲気の室内にはアシュリーの魔力香が強く残る。
「とても素敵な執務室ですね、書類の量には驚きですが」
「あぁ、留守の間に溜まった。内容は全て叔父上が確認済みのものばかりだ、承認前に私が一度目を通しておく。後は、収支報告書を出す時期も重なっているし…視察先の資料も多いな」
「大変ですね」
「レティシアはこの隣の部屋、というか…続き間に近いが、そこを使ってくれ」
「隣?…続きとは?執務室と繋がっているのですか?」
「まぁ、見てみるといい。その扉から行けるから」
アシュリーは、本棚と本棚の間にある扉を指し示した。
───────── next 78 秘書官レティシア2
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
瞬殺された婚約破棄のその後の物語
ハチ助
恋愛
★アルファポリス様主催の『第17回恋愛小説大賞』にて奨励賞を頂きました!★
【あらすじ】第三王子フィオルドの婚約者である伯爵令嬢のローゼリアは、留学中に功績を上げ5年ぶりに帰国した第二王子の祝賀パーティーで婚約破棄を告げられ始めた。近い将来、その未来がやって来るとある程度覚悟していたローゼリアは、それを受け入れようとしたのだが……そのフィオルドの婚約破棄は最後まで達成される事はなかった。
※ざまぁは微量。一瞬(二話目)で終了な上に制裁激甘なのでスッキリ爽快感は期待しないでください。
尚、本作品はざまぁ描写よりも恋愛展開重視で作者は書いたつもりです。
全28話で完結済。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる