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69 どこへ行こうか(リュウside)

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薬草採取だけ済ませれば終わりだったはずが、気付けばそこから半月が過ぎていた。


家出をしたアドリアナに会い、思いの外深く関わってきてしまったが…俺がしてやれることはもうないと思う。

アドリアナは、帝国で新たな生活を始めることになる。

その場に俺は必要ない。




そろそろ、今まで通りの生活に戻る時が来たようだ。





「いろいろと世話になったな。昨夜は泊めてもらって助かったよ、ありがとう。元気でな…リン」

「昨夜は、久しぶりに飲んで騒いで…私も楽しかったわ。
リュウも元気でね。あ!兄さんには連絡してあげてよ」

「はいはい。…あぁ…そうだ。店で働いている竜人族の彼?あれは王族だぞ。末端だとは思うが、滅多なことがないように気を付けろよ」

「えぇ?!…それ本当?…確かに、1年だけってことで条件付きで預かってるのよ。そういう複雑な感じかぁ。
…ていうか、今ごろそれを言うなんて…リュウらしいわ」

「ははは……じゃあな…」




デイルとエリーゼには、昨夜の夕食会後に別れの挨拶をしておいた。

仲良くなったアドリアナに続いて俺も…となってしまったからか、エリーゼは少し泣いていたな。
デイルは今回のことで懐が暖かくなってよかっただろう。


兄妹はまだ酔い潰れて寝ている。


──────────


「…そうですか…他国へ行ってしまわれるのですね…」


ランセント侯爵家の明るい応接室で、俯いて暗い顔をするアドリアナ。


「うん。俺の役割はもう十分果たした気がするからね。

…アナ…そんな顔をするな…。

俺は平民の冒険者で、貴族のアナとは元々住む世界が違う。俺は依頼を受けないと、生活していけないだろう?」

「はい。リュウさんの助けを待っている人がいますよね…分かっています。
いつかお母様やリュウさんみたいな魔法使いになれるように、私も魔塔でたくさん勉強して頑張ります。

本当に…今までありがとうございました」

「アナなら大丈夫だ。成長を楽しみにしている」



では…そろそろ…と、俺は腰を上げた。
アドリアナとランセント侯爵夫人がエントランスで見送ってくれる。

出迎え時と違い、使用人は1人もいなかった。侯爵夫人が気を遣って人払いをしてくれたのだろう。


「…また…いつか、リュウさんに会えますか?」

「ん?あぁ。側にはいられないが、何かあったり助けが必要な時には俺を喚べばいい。そう教えたのを忘れたか?」


俺は…トン…と、アドリアナの左手の甲を指先で叩く。


「俺は、アイリーンさんの代わりに君を守る。
それが、俺と結んだえにしだ。ずっと途切れることはない」


実際は…ナイトが付いているから、おそらくアドリアナは安全だろう。俺は“お守り”といったところかな?


俺の上着の裾を握りしめ…ただポロポロと涙をこぼすアドリアナの背を、侯爵夫人があやすように優しく撫でる。


「リュウさん、どうかお気を付けて。
それから…ルーシアナの体調はかなりよくなってきていますわ。本当に感謝申し上げます。

いつでも侯爵家へいらして?あなたなら大歓迎よ」

「ありがとうございます。ランセント侯爵夫人、アナをよろしくお願いいたします。

侯爵家の皆様が、これからも仲良くお元気でお過ごしになることを…心から祈っております」





さて、次はどこへ行こうか?


こことは違う大陸へ渡ってみるのもいいかもしれないな。




    ♢

リュウへ

今はどこにいるんだろうか?

この前、リンデルから知らせがあった。
薬草採取はリュウに頼んでよかったよ、ありがとう。

帝国でまた事件に巻き込まれたそうだな。
確か、何年か前にも我儘な貴族令嬢に振り回されて大変な目にあったよな?

まぁ…リュウのことだから、今回も最終的には解決したんだろう。

それに、狼獣人の友人や、かわいい貴族令嬢と仲良くなったらしいじゃないか。リンデルが親しくなったと自慢気にしていたぞ。



一度村に遊びに来いよ。
皆リュウを忘れてない。待っているからな。


               友人№1 レイ

    ♢



エルフ村から風の便りが届いた。


「友人№1って…何だよ」


恥ずかしいことを…と、つい笑ってしまう。

手紙の最後には、いつも必ず“村に来い”と書いてある。




村に行けば、ずっといたくなるから…行けないんだよ…レイモンド。







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