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35 ガンダナ王国では
しおりを挟む「いいの?!ほんっっとうにいいのね?!」
「はいっ!もう決めたんです、私!」
先程から、アドリアナとエリーゼは何回もこのやり取りをしている。
「じゃあ…いくね!」
ジャキッ!!…バサバサッ…ジャキッ!!…バサバサ…
ずっと伸ばしてきた長い髪を切ると決めたアドリアナ。
決めたら早く切りたくて仕方がないようで、エリーゼがその大役を任されたのだ。
「………どう?…アナ?…」
「バッチリです!すごく軽いわ。ありがとうございますエリーゼさん。あ、…リンデルさーん!」
まだ切った髪を払い落としてすらいないのに、夕食の準備真っ最中であろうリンデルを呼ぶ。
「はいはい。もう終わったの?早いわね。
エリーゼ、ちゃんとできた?…わっ!髪の毛だらけ」
「できましたよ~養護院でも、私が子供たちの髪を切ってるんですよー」
「…あら…アナ、いいじゃないの!」
「どうですか?似合ってますか?」
「「かわいい!!」」
お姉さん2人に褒められて、とてもうれしそうに笑うアドリアナ。
両膝の怪我もよくなってきて、今では家の中のことを手伝っている。
リュウがリマ王国へ旅立って3日目。薬屋はとても平和だった。
「あれ?アナってネックレスしてたの?」
首元に散らばる細かい髪の毛を、ハケで手早く払い落としながらエリーゼが言う。
「あ、これは…小さい頃からずっと付けていて」
アドリアナが手に取ったネックレスを、リンデルもエリーゼと一緒になって覗き込む。
宝石ではなく、濃い紫の石のように見える。
「小さな…石?が付いてるね」
「あれ?前もっと白っぽくなかった?」
リンデルは治療をした時にもネックレスを見ていたので、色が違うと感じていた。
「不思議なんですけど…夜になると…色が濃くなる?気がします」
「光の加減で色が変わる石なのかもねー」
「ふ~ん…さ、ご飯にしよう。エリーゼも食べるでしょ?」
「あ、兄さんも来るって言ってましたよ。勿論ご飯狙いです!」
リュウは、リンデルにまとまったお金を渡してから旅に出ていた。連日、賑やかな夕食会が開かれる事を予想していたに違いない。
3人で食卓を囲んでいると、すぐにデイルがやって来た。
「おぉ!アナ…髪切ったのか?」
「はい。…どうですか…?」
「…か、かわいい…と思う」
「プッ!兄さんったら、褒めるのヘタ」
食卓はさらに賑やかになる。
デイルが来るのは、リンデルに情報を伝える必要があるからなのだが…アドリアナとエリーゼには伏せていた。
食後、エリーゼはアドリアナの髪を可愛くアレンジしながら遊んでいる。
「デイル、最近どう?」
「出入国者に関しては目立って怪しい情報はないんですが…ギルドに…かなり高額な報酬の“人捜し依頼”があったらしいんです。
多分…アナを捜してますね」
「…はぁ、…リュウ…何やってんだろう」
「本当にそうですよね。分かります」
「念のため、目立つアナの髪を染める…?」
「ウソでしょ?」
あの長く美しい髪を切っただけでも驚いたのに…と、デイルは目を丸くする。
「ギルドの人捜し、依頼人は誰?」
「確か…ハルブリック伯爵」
「は…伯爵?どうなってるのかな。依頼を受ける冒険者しか、依頼内容を知ることはできないのよね?」
「はい。でも…アナを捜しているんだと思いますよ、俺は。…用心してください…」
デイルとリンデルの視線の先には、無邪気にはしゃぐ娘が2人。
「「……はぁ………」」
──────────
翌日の夕食も4人揃って賑やかであった。
「リンデルさん…依頼、誰かが引き受けたみたいです」
「え!!……やっぱり、髪を染めるか…」
「受けた冒険者が誰かは情報を貰えませんが…どうやら、魔法使いみたいです」
「そりゃ相手が悪いねぇ。これは髪を染めても無駄か」
─翌日、リュウがひょっこりと帰ってきた─
リマ王国へ旅立って…5日目のことである。
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