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31 リュウという男(アレクサンダーside)

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この大帝国の宮殿内、しかも第二皇子である俺の私室に…いとも簡単に侵入してくるのは…自称“冒険者”のリュウという男。

俺に何か頼み事があると言うが、お前にできないことなどこの世にあるのか?と、問いたい。


───────────


皇族に生まれた男児は…皇子としての立場を強固なものにするまで、何度も何度も生命の危機に晒される。

だから…俺は、物心ついた時から感情や甘えを捨て、敵の多い帝国の中で自分を偽りながら生きてきた。

それでも…理不尽に命を狙われ、暗い谷底に突き落とされることはある。


10年前、瀕死の俺を助けた自称“冒険者”は…魂が生きたいと強く願っているから救う…と言った。

俺には、その冒険者が“神”に見えた。

その日から、ずっと奇跡が起きているんだ。
こうして…俺は生きているのだから…。


──────────


「…なぁ…」

「はい。…このワイン美味しいですね」


要件は済んだ…とばかりに、機嫌よくワインを飲みチーズをつまむ…年を取らない男。


「……俺が…また死にそうになったら…さ」

「…え…そんな予定でもあるんですか?」

「…あってたまるか…」

「なら…口にしないことです。言霊って知ってます?」

「………………」

「…困ったら…俺の名を喚んでください……」

「…っ!!…」


ニヤリと笑い…『手足が千切れていても大丈夫』…なんて…やめろ、縁起でもない。

そうやってふざけながら…お前は…俺が欲しい言葉をいとも容易く言う。


「もう、休まれたほうがいいですね。俺も失礼します…ワインご馳走さまでした」


そう言って、ゆるりと礼をすると姿を消した…最後に安静魔法をそっと俺に施して。


──────────


翌日。

リュウは無事に大魔法使い殿と会えただろうか?と考えつつ…執務室で書類を片付けていたところに言伝が届いた。


「大魔法使いグロリア様が、皇子殿下にお目通り願いたいと…」


どうしましょうか?と、困った様子の文官と護衛官。

相手は帝国魔法使いのトップである魔塔主だ…暇なわけがない。


「…すぐに…大魔法使い殿にお会いしよう…」


応接室に行くと、神妙な顔をしたグロリアが突っ立っていた。
簡単に挨拶を済ませると…人払いをした。

部屋の扉は開けたまま、扉横には護衛官がいる。

この応接室は広く、部屋全体を防音素材で造らせているため、普通の会話程度なら内容まで外に漏れ聞こえることはない。


「今朝は、私の友人のことでお世話になっていましたね。急なお願いで申し訳ありませんでした」

「第二皇子殿下…こちらこそ…突然訪ねて大変申し訳ございません。実は、お尋ねしたいことがございます。

…そのご友人のことなのですが…」


いつも凛々しい姿のグロリアしか知らないが、今日はどこか落ち着かないようだな。


「リュウが…何か?」

「殿下、私は魔力量が多く…いくら気を配っても周りの者に少し影響を与えてしまうのです。
それなのに、彼は側にいても違和感がなく…いえ、それどころか一緒にいて心地いい…私はそう感じていました。

なぜでしょうか…?…こんなことは私も初めてで、気になって仕方がないのです」

「……なるほど……」


グロリアは少し気恥ずかしい様子で、ほんのり頬をピンクに染めていた。


「大魔法使い殿、…今まで…ご自分より強い存在に出会ったことは?」


その瞬間、グロリアの瞳は大きく見開かれた。

驚愕…しているんだろうな。

自分の魔力の影響を受けない相手、それは…相手が格上であることを示している。
ハイエルフの中でも、彼女ほどの魔力量をもつ者は過去に類を見ない。


…それを上回る者など…。


「…え?…彼……失礼、リュウ殿…あのお方は一体?」

「私の危機をいつも救ってくれる…親切な友人…かな。すまない、それ以上は…話せない」


グロリアは眉根を寄せ、不服そうな表情をする。


「本日、私はリュウ殿を東の塔にご案内いたしました。

あそこは10階層の隅々まで書類がギッシリ詰まっているのですが…あのお方は、的確に必要な書類だけを手に取り確認していかれました。

保管書類の説明をしようとした管理人も大層驚いておりましたが…時間がないので手短に済ませたいと仰って…」

「ほう。その時、リュウが魔法を使っているところをご覧になりましたか?」

「魔法?…いいえ。特に何かを感じたり見たりしておりません」


過去最高クラスの大魔法使いが見ても分からない…か…。

そもそも無詠唱だが、空間の歪みも大量の魔力も波動も…周りが感じられなかったということだ。

資料が光ったり、空を舞ったり、魔法っぽいことは何もなく…ただ、書類を手に取り静かに見て帰ったという。


あまりに普通…だからこそ違和感がある。


リュウはさらに魔法レベルを上げたのか?全く…底が知れない。


「リュウは…ピアスをしていましたか?」

「ピアス?…いえ…気が付きませんでした」


魔塔に出向いたのは、ただの魔法使いの冒険者のほうか…純粋に情報集めが目的だな。


「私から話すことは何もなさそうですね」

「殿下!」

「…言い方を変えよう…リュウについて詳しく話すことができないのだ、大魔法使い殿」


グロリアはハッとして俺の顔を見た。

…そう…俺が知るリュウの能力については、話そうと思っても言葉が出せない。ある種の契約魔法か古の禁忌の魔法か…定かではないが。

その強力な魔法は…リュウが誰彼構わずに使っているのではない。ある条件が揃うと…リュウの意思とは関係なく発動する、らしい。


「実は…リュウ殿の魔法使いとしての登録も確認したのです。なぜか魔力量も適性も全て平均以下で…検査年齢も不明でした」

「それが帝国が知る情報の全てです。彼を鑑定することなど…誰にもできない。

リュウと我々は常に平行線、こちらの世界と深く交わることなど…あってはならないのですよ」


グロリアの美しい顔が色を失った。

これは触れてはいけないものだと…理解をしたか。


「我が帝国の最高位魔法使いは…あなただ、大魔法使いグロリア殿」




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