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閑話2

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私はジョージ(男)。

リマ王国の騎士団に所属している。


フィリーライツ子爵家当主であるライアン兄さんの一人娘、アドリアナが行方不明になって数日が経つ。
知らせを受けて急ぎ駆け付けはしたが…アドリアナは逃げ、詐欺グループには金を取られ…全てが手遅れだった。


兄さんは浅薄な人だ。
婚約破棄の慰謝料を狙われていたのなら、遅かれ早かれ被害にはあっていただろうと思う。

それにしても、急場を凌ぐためとはいえ…貴族令嬢がたった1人で邸を出て行くとは…。

執事のアーノルドが言うには、アドリアナのデビュタント準備のために若い侍女を半年前に雇い入れたが、不運にも骨折して田舎で療養中。子爵家には、同行に適した使用人がいなかったのだとか。

今さらそこを責めることはできないし、引き止めてもアドリアナが決行した可能性は高い。


しかし、ここまで見付からないとは…悪い想像ばかりが頭をよぎる。
王国外へ出た記録もなく、目撃情報はゼロ。

マレッシオより遠くの街へなど行けないはず…一体これ以上どこを捜せばいいのか?と、途方に暮れる。


──────────


そんな時、酒場でおかしな男に出会った。

私がフィリーライツの家の者だと知っていて…声をかけてきたのだ。


「敵ではありません。…ご令嬢が行方不明でお困りかと思いまして…」


きれいな顔をした見知らぬ男がそう言う。

男は魔法使いだったが、緑に光る瞳は妙に鋭く…なぜだかゾッとした。
不覚にも私は怯んだ…この魔法使い、簡単に信用してはならない。


「子爵家ご当主が詐欺にあいましたね?」

「娘を売る契約をしたそうですね?」


アドリアナが行方不明という噂は街全体に広まっていたが…その理由は伏せられている。知っているはずがないのに。


「当事者から聞いたんです」


疑わしい部分はあるが、この魔法使いがアドリアナと接触したことに間違いはないように思った。


今、情報は喉から手が出るほど欲しい。


──────────


私は、跡継ぎとして育てられた兄のライアンとは違い、自由に生きてきた。

まぁ…自由とは…放置と同義だが…。

異性に興味を持つ年ごろになると、いつも女性に囲まれている兄さんを羨む気持ちとは別に…権力に群がる女性に嫌悪感を抱くことも多くなっていった。

その余波だろうか…今も未婚だ。


「あなたの年齢で騎士団所属だと、もう少し華やかな暮らしかと思いましたけど…」


そう言われても…私は今の生活を変えたいと思ってはいないし、恋愛相手もいなければ結婚する気もない。
使わない金は貯まっていく一方だ。


「それより…話を聞かせてくれ」


話してみて驚いた。

この魔法使いはとても冷静で話に無駄がない。魔力が高いと知力も高いのか?私とは次元が違うのだろうか。


「…その拉致には、フィリップ・バーグリッツという男が絡んでいると思っています…」


話の内容に頭が追い付いていかない。

そんな突拍子もない話を、まるで見てきたかのように説明するとは…この魔法使いこそ詐欺師なのではないか?
いや、騙すつもりならもっと上手いやり方がある…まさか…本当に見てきたのか?


「金や爵位ではなく、アドリアナさんが欲しいんですよ…」


アドリアナは、今なお狙われているという。


ライアン兄さんは、しっかり教育を受けたはずだが…貴族としても領主としてもどこか不十分な人だ。

アドリアナがこの魔法使いに助けられて無事でいるのだとすれば…そちらのほうが安全なのではないか?


私はこの若い魔法使いを信じてみることにする。


──────────


ひょんなことから…アドリアナの母親、アイリーンの話になった。

子爵家では口に出せない話題だが…隠さずありのままに話した。
アドリアナの母親なのだ…理由はどうあれ、不憫に思う気持ちが心の片隅にあったのかもしれない…。


「今では、10年に1人しか現れないとまでいわれている…光属性の対となる貴重で稀有な魔法使い。

それが彼女の正体です」



『アイリーンは魔女だ』兄さんはそう言った。自分は惑わされていた…と。

その判断の材料となったのは…親交のない村人から聞いた噂話と、魔女は悪だ!という心像だけ。
それだけで、悪しき魔女であることを隠していたと…アイリーンを責めた。

その話が間違っているかもしれないと…考えることも気付くこともなかった。



「アイリーンさんは、悪しき魔女と呼ばれる自分を子爵家から切り離そうと離縁を願い出た。自分は厄災だから…可愛い娘を守るためにはその選択しかないと考えたんですよ。
…放浪癖?…あるはずがない」


そんなことも分からなかったのか?と、笑われている気がした。

ついさっきまでアイリーンの名前すら知らなかった魔法使いは、私の話を聞いただけで全ての真相を読み解いたのだ。



あの時…なぜ私は疑問に思わなかったのか…

『魔女ではない』と、なぜ誰もアイリーンに言ってやらなかったのか…。

ライアン兄さんだけが愚かだったのではない。
私も…何も確かめず、ただ見ないふりをして忘れ去ったではないか。



「まぁ、貴族の権力も…平民の悪意も…人を地獄に突き落とすことはできる。

俺は…それも“悪しき力”だと思いますが…」



魔法使いは最後にそう言って…私の目の前から一瞬で消えた。



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