30 / 75
29 闇の魔法使い(旅の2日目夜:龍崎side)
しおりを挟む俺は指を鳴らし…魔法陣のエフェクトをパッと消す。
ついでに、この家にも小さな魔法陣を貼り付けておこう…また来るかもしれないから。
「お前は…本物の魔法使いか?」
「はい」
「お前…いや、君が…破落戸たちからアドリアナを助けてくれたのか?」
「まぁ…そうです」
「アドリアナの父と母に代わって、心から感謝する」
俺を信じることにしたのかな?
勢いよく頭を下げるジョージの姿を見てそう思った。
「アドリアナさんは、お母さん似ですよね?」
「あぁ…最近、ますます似てきたな」
「離縁されてから、一切関係を持たなかったのですか?」
「……そうだ……何でもご存知だな」
「何か理由が?」
「……君は魔法使い、だよな……」
ん?さっきもそう聞いていましたよ…?
「アドリアナの母親は、貧しい田舎の村出身の平民だった。
当時…次期領主という立場だった兄さんは、領地の視察先の教会で祈りを捧げていた彼女をひと目見て気に入り…強引に邸へと連れ去った。
アドリアナを生んだ後、反対はされたが2人は結婚したよ。それから間もなくして、彼女の…アイリーンの過去が明らかになったんだ」
「アイリーンさんっていうんですね」
ジョージが頷いて、暗い瞳で俺を見た。
「昔、その田舎の村には…厄災“悪しき魔女”と呼ばれ、追放された…少女がいた。その少女の名は…アイリーン」
ジョージは明らかに言い淀んでいた。
まぁ…会ったばかりの俺に気軽に話せる内容ではないか。
「魔女…ですか」
「魔女だと知られたアイリーンは、その日に離縁したいと言ってきたそうだ。そもそも結婚を反対されていたから、あっさりと離縁して…まるで逃げるように…」
「アドリアナさんを手放して、出て行ったんですね」
魔女だから…と、子爵家はその後の繋がりを断ち切った。
そもそも勝手に攫ってきて、子を孕ませて、無理やり結婚しといて…何だ?
ライアンは、貴族は何をしてもいいと思っているバカか?
「あぁ。その短い結婚生活ですら、幸せそうではなかったがな。いつも怯えて不安そうで…魔女だと隠していたからかもしれない。
アドリアナを可愛がってはいたが…アイリーンがあの子に残したのは、小さなネックレスひとつだけだった」
「ネックレス…?」
「そう、アドリアナはいつも身に着けているよ…今となっては形見だ」
「アイリーンさんは魔法で誰かを傷付けたりしましたか?街を破壊したり、子爵家を呪ったりは?」
「いや。両親は流行り病で相次いで死んだ…呪いなどではない。
しかし…魔女とはさすがに驚いた。
兄さんは“誘惑された”と…後になって騒いでいたよ。私にはその辺りよく分からないが」
「……………」
ライアンは随分と勝手な男だ…ポンコツ確定。
下位貴族と平民の結婚は、純愛ならばまだ受け入れられるが…話を聞く限りそれはない。
身分は勿論、出自もその立場に響くのが貴族だ。
魔女であろうとなかろうと…そのよからぬ“噂”は社交の場で格好の餌食になり、誰かしらの記憶の中で長く残るものとなるだろう。
「君は魔女を知っているかい?魔法使いだというから…その…話を聞いたことはあるのかと」
『魔女』という禁忌のワードを聞いてもさほど驚かない…どちらかといえば薄い反応の俺を見て、ジョージは気になったようだが…俺はこれが通常だ。
「その田舎でいう魔女とは…多分“闇の魔法使い”のことですね。それを悪しき魔女などと呼ぶ…捻れて間違いだらけの言い伝えが染み付いた土地だと思います。
アイリーンさんは…勝手に魔女扱いされた被害者に他ならない。
自分は厄災であり魔女なのだと…幼い少女は思い込んでしまったことでしょう。気の毒に」
悪事を働く女性の魔法使いを魔女と呼ぶ。
しかし、それは闇の魔法使いとは全くの無関係。
稀な属性である闇の魔法使いは、光の魔法使いや聖魔法とは両極として存在する。
そのイメージからか誤解され、魔女だと悪く表現されることが田舎では多くあった。
「は?…魔女では…ない?…闇の魔法使い?」
「今では、10年に1人しか現れないとまでいわれている…光属性の対となる貴重で稀有な魔法使い。
それが彼女の正体です」
俺の言葉に…ジョージは息を呑んだ…。
正確には、闇の魔法使いになるはずであった…だろうか?…非常に残念なことである。
「闇の魔力持ちは、魔女でも悪魔でもありません。
帝国をはじめ…どの国でもそう教育していますし、どんな田舎の教会にも触書はあるはず。…無知は罪…ですよ」
「…そう…だったのか……」
「アイリーンさんは、悪しき魔女と呼ばれる自分を子爵家から切り離そうと離縁を願い出た。自分は厄災だから…可愛い娘を守るためにはその選択しかないと考えたんですよ。
…放浪癖?…あるはずがない。それは、こじつけです」
「………………」
「魔法は、使い方を間違えれば“悪しき力”となります。
その村には、大昔に悪い女魔法使いがいたのかもしれないですね。
魔女を忌み嫌うのは仕方がない…でも、何も知らない者が勝手に魔女を決めていいのでしょうか?」
「…それは…」
「村人たちは、罪のない少女を1人不幸にしました。
闇の魔力はとても強い。
少女が負の感情に取り込まれていたら、最悪の場合は魔力暴走を引き起こして大惨事…本当に…悪しき魔女となっていたかもしれません」
「わ…私たちは…聞いた話を鵜呑みにしてしまった…」
ジョージは当時のことを思い出しているのか…目を閉じて黙り込んでしまう。
「魔力持ちが少ないからこそ、細心の注意を払うべきなのです。
“悪しき力”に人々が脅かされることのないように、強い魔力を持つ者は帝国で正しい教育を受ける必要がある。
村から追い出し、その機会を奪うなど…以ての外ですよ」
そう淡々と話す俺の顔を、ジョージが見ることはなかった。
──────────
追放された幼い少女はどうやって生き延びたのだろう。
ただ静かに暮らしていた…そんな生活を踏み荒らしたのは誰だったのか?
俺は化け物だが、その姿を隠す術を持っている。
でも…もし、隠す術がなかったら?
少女と同じように、自分の力に怯え…人目を避けて生きるしかなかったのではないだろうか…。
周りが正しい知識を持ち、無垢な子供に知恵を与えてくれていたら…その人生は違ったものになったのでは…と、そう思わずにはいられない。
それにしても…お前の“鼻”は大したものだよ、ナイト。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。
SHO
ファンタジー
相棒はあの名機!
航空自衛隊のベテランパイロット、三戸花乃介。
長年日本の空を守ってきた愛機も、老朽化には勝てずに退役が決まる。そして病に侵されていた彼もまた、パイロットを引退する事を決意していた。
最後のスクランブル発進から帰還した彼は、程なくして病で死んでしまうが、そんな彼を待ち受けていたのは並行世界を救えという神様からの指令。
並行世界が滅べばこの世界も滅ぶ。世界を人質に取られた彼は世界を救済する戦いに身を投じる事になる。これはチートな相棒を従えて、並行世界で無双する元自衛官の物語。
全ては、やがて輪廻の輪から解き放たれる、妻子の生きる場所を救うために。
*これは以前公開していた作品を一時凍結、改稿、改題を経て新規に投稿し直した作品です。
ノベルアッププラス、小説家になろう。にて重複投稿。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる