15 / 75
15 宿屋『カンデール』
しおりを挟む薬屋から大通り3本分離れた場所に、宿屋カンデールがある。
1階は大衆食堂、2階に宿泊受付があり、3階から5階が客室になっている。
ガンダナ王国は他種族国家。
獣人の国とエルフの国に挟まれた大国で、種族が入り混じるのは当然ともいえる。
種の多さもあり…民の半分は獣人族で、中心街では獣人の種別毎に専門店が連なっている通りもある。
差別ではなく、それぞれの特性に合わせてサービスを行う為の区別といった部分だ。
そんな中で、カンデールは種族を選ばない店として有名だった。
王国の騎士団員宿舎が近いことや、店主が虎の獣人で元騎士団長、その奥方は人族、仲良く家族で経営しているという話だから…もうそこは納得だろう。
安宿とは利用者層が違い、しっかりした宿泊施設となっている。
──────────
カンデールの食堂を切り盛りしているのは、最近痩せて格好良くなったと評判の…店主の次男ルカだ。
彼は獣人の特性をほぼ持たずに生まれたが、ガンダナ王国では名コックとして知られている。
「お?リュウさんじゃないか!お帰り~」
店に入ってきた全身黒ずくめの男を見ても怪しむ様子はなく、ルカは気軽に声をかける。
「ルカさん…お腹が空いた…そして眠い」
リュウはカウンター席にドカッと座り、上半身を狭いテーブルへと投げ出す。
「食べたいの?寝たいの?どっち…?」
「…食べ…たい…」
「因みにまだ開店前だよ?宿泊者向けの朝食も仕込み中ね。
どこでそんなにエネルギー消費しちゃったの?
大好きなサンドイッチは無理だけど、早く仕上がる料理を何か出そうか?」
毎日必ずサンドイッチを注文する客だから、覚えられてしまっている。
「ご馳走さま!生き返ったよ」
大皿料理をペロリと平らげ、リュウは宿泊受付のある2階へと階段を上がって行った。
──────────
「おはようございます。お帰りなさいませ」
宿泊受付のカウンターで、豹獣人のラチェットが拭き掃除をしながら明るく挨拶をする。
時間的に宿泊客で間違いないと判断したラチェットは…素早く清掃用具を片付けた。
「おはよう…ラチェットさんは、いつもこんな早い時間のシフト?」
「えっ?…えぇ、私は夜からの勤務が特性に合っておりますので、朝の6時までこちらにおります。
お部屋番号は…【501号室】リュウ様でございますね、少々お待ちください」
なぜ、このお客様は自分の名前を知っているのか?…と、ラチェットは少し動揺しながらルームキーを用意した。
「ありがとう」
「ご朝食はどうなさいますか?」
ルームキーを渡しつつ…宿泊客リストに確認のチェックを入れ、ラチェットは尋ねる。
「あ、今1階でルカさんに無理言って…こんな時間だけど食べさせて貰ったから大丈夫。
後、昼ごろにデイルという男性が訪ねて来るから、部屋に通して欲しい。
今日の日中だと…カウンターの担当は…奥様かな?」
「承知いたしました。デイル様…ですね。
奥様には私からお伝えしておきます。ではどうぞお部屋でごゆっくり」
リュウはラチェットに会釈をすると、ルームキーを手に取り5階へと階段を上がっていった。
…宿泊受付カウンターのシフトになぜか詳しい…リュウであった…。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆本編完結◆
◆小説家になろう様でも、公開中◆
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる