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15 宿屋『カンデール』

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薬屋から大通り3本分離れた場所に、宿屋カンデールがある。


1階は大衆食堂、2階に宿泊受付があり、3階から5階が客室になっている。

ガンダナ王国は他種族国家。

獣人の国とエルフの国に挟まれた大国で、種族が入り混じるのは当然ともいえる。
種の多さもあり…民の半分は獣人族で、中心街では獣人の種別毎に専門店が連なっている通りもある。

差別ではなく、それぞれの特性に合わせてサービスを行う為の区別といった部分だ。

そんな中で、カンデールは種族を選ばない店として有名だった。

王国の騎士団員宿舎が近いことや、店主が虎の獣人で元騎士団長、その奥方は人族、仲良く家族で経営しているという話だから…もうそこは納得だろう。

安宿とは利用者層が違い、しっかりした宿泊施設となっている。


──────────


カンデールの食堂を切り盛りしているのは、最近痩せて格好良くなったと評判の…店主の次男ルカだ。

彼は獣人の特性をほぼ持たずに生まれたが、ガンダナ王国では名コックとして知られている。


「お?リュウさんじゃないか!お帰り~」


店に入ってきた全身黒ずくめの男を見ても怪しむ様子はなく、ルカは気軽に声をかける。


「ルカさん…お腹が空いた…そして眠い」


リュウはカウンター席にドカッと座り、上半身を狭いテーブルへと投げ出す。


「食べたいの?寝たいの?どっち…?」

「…食べ…たい…」

「因みにまだ開店前だよ?宿泊者向けの朝食も仕込み中ね。
どこでそんなにエネルギー消費しちゃったの?
大好きなサンドイッチは無理だけど、早く仕上がる料理を何か出そうか?」


毎日必ずサンドイッチを注文する客だから、覚えられてしまっている。


「ご馳走さま!生き返ったよ」


大皿料理をペロリと平らげ、リュウは宿泊受付のある2階へと階段を上がって行った。


──────────


「おはようございます。お帰りなさいませ」


宿泊受付のカウンターで、豹獣人のラチェットが拭き掃除をしながら明るく挨拶をする。

時間的に宿泊客で間違いないと判断したラチェットは…素早く清掃用具を片付けた。


「おはよう…ラチェットさんは、いつもこんな早い時間のシフト?」

「えっ?…えぇ、私は夜からの勤務が特性に合っておりますので、朝の6時までこちらにおります。

お部屋番号は…【501号室】リュウ様でございますね、少々お待ちください」


なぜ、このお客様は自分の名前を知っているのか?…と、ラチェットは少し動揺しながらルームキーを用意した。


「ありがとう」

「ご朝食はどうなさいますか?」


ルームキーを渡しつつ…宿泊客リストに確認のチェックを入れ、ラチェットは尋ねる。


「あ、今1階でルカさんに無理言って…こんな時間だけど食べさせて貰ったから大丈夫。
後、昼ごろにデイルという男性が訪ねて来るから、部屋に通して欲しい。
今日の日中だと…カウンターの担当は…奥様かな?」

「承知いたしました。デイル様…ですね。
奥様には私からお伝えしておきます。ではどうぞお部屋でごゆっくり」


リュウはラチェットに会釈をすると、ルームキーを手に取り5階へと階段を上がっていった。



…宿泊受付カウンターのシフトになぜか詳しい…リュウであった…。





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