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14 エルフの薬屋3(アドリアナside)
しおりを挟む本当に生きているの?お人形さんではなくって?
輝くような美しい肌、驚くほどに整ったその顔立ちを見て…何度も瞬きをしてしまいましたわ。
私が見惚れていると…ピンと尖った耳をもつエルフの美女が、さくらんぼみたいにプルンとした唇を開き私に話しかけてきたのです。
「話を聞きながら診てあげるね。リュウは診ている間は外。えーと、あなたのお名前は?」
あれ?途中、ちょっぴりドスの利いた声が…。
「…アドリアナ…ですわ」
背中を支えられ、薬品の独特な匂いがするお部屋へと案内されました。
「…じゃあ…アナ?でいいかな?」
『私はリンデルだよ』と、まるで水晶のような澄んだ瞳で私を見つめながら、お名前を教えてくださいました。
はぁ…お美しいです。
「湯をもってくるから、身体を拭こうね」
リンデルさんは手早く準備をして、着替えまで用意してくださいました。
その後、手当てをしていただきながら怪我をした時の話を一通りお伝えしたけれど…
追手が怖くて不法入国したことを黙っていていいのかな?
リンデルさんにご迷惑がかかることにはならないだろうかと、不安になってきてしまいました。
「…あの、私…」
「無理に全部話す必要はないよ。この国は他種族が入り混じって暮らしているから、まぁ…正直…訳ありも多いの。
アナは…何かあって、たった1人でこの王国へ来たんでしょう?」
リンデルさんは私の髪を手に取り、優しく耳にかけてくれて…項垂れたまま黙り込んでしまった私の顔を覗き込んだ。
「自分をそう酷く責めるんじゃないよ…後悔したところで今さら戻れないでしょう?前へ進むしかない。
まぁ、この先はリュウを信じて相談するといい。何を考えているか読めない男だけど、悪人じゃないから。
アナは運がよかったの…本当にね…」
私の目から…ポロリと涙が零れました。
無鉄砲な行動で己の身を危険にさらした…そんな情けない私を気遣ってくださるの…?
私は、フィリーライツ子爵家の一人娘として結婚相手を見つけなければならない。
跡継ぎとなる男性と良縁を結び、子孫を残していく…それが貴族令嬢としてやるべきことだと理解していたつもりでした。
でも、娼館へ売られるのなら…いっそ全てを捨ててしまいたいと思ったのです。
お父様が言ったように…お金で相手を黙らせることもできたはずなのに、私は敢えて逃げた。
その結果、不測の事態への備えもなく散々な目に遭い…いかに自分が弱く愚かであるかを知ったのです。
逃げた先に自由などない。
リュウさんに助けられ、今ここにいるのは本当に運がよかっただけだわ。
「男たちに囲まれて…怖かったろう…」
私の涙を拭って、リンデルさんがギュッと抱きしめてくれました。
ホワっといい香りがして気持ちが安らぐ…。
「あ…リュウのことを忘れてた。ちょっと話してくるから横になって休むといいよ。後で温かいスープを持ってくるからね」
リンデルさんは思い出したようにそう言って…私を寝かせてから部屋を出て行ってしまった。
──────────
「アドリアナさん?」
「リュウさん」
私は身体を起こし、その姿を目にして…ホッと安心した気持ちでいました。
「怪我が治るまで、しばらくはここで世話になるといい。彼女は俺の友人だから心配はいらない。
…それから…少しの間、目を瞑っていて欲しいんだが」
え?ここでリンデルさんのお世話になる?
目を瞑る?
「手に触れるよ」
そう声が聞こえて、リュウさんが私の両手を握りました。
不思議な感じ…フワッとしてあったかい?と思っていたら、何か身体の表面からスパッと剥がれ落ちていく感じがしましたわ。
この感覚はきっとあれよね…そう、脱皮。
え?私…脱皮した…?
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