目立たず平和に暮らしたい最強冒険者、貴族令嬢の家出に巻き込まれる。

１ プロローグ

ここは、多くの神々が集まって生み出した創造の異世界。地図上には４つの大陸がある。


─その大陸の１つ『キルアーシュ』─


キルアーシュには、巨大な帝国とそれに属する５つの王国、他に…エルフの国と獣人の国、他種族が入り混じって暮らしている国がある。

最も人口密度の高い大陸でありながら、未開の土地も多く…魔物が棲み着いたり、ダンジョンという迷宮まで存在するという。

中でも帝国の力は圧倒的。

神殿の大聖女が祈りの結界を張り、魔塔の大魔法使いが分厚い魔法城壁で帝国を取り囲み守っている。


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この大陸で無視できないのが魔力の有無。

大昔とは違い…今は魔力持ちが少ない。強い魔法使いなどそうは現れないので、魔力持ちはとても貴重な存在とされている。

どの国でも10歳からは学校に通うため、それまでに教会で魔力の有無を判定する。

魔力持ちは一般教養以外に魔法教育を受ける必要があり、特に魔法適性が高かったり魔力量が多い者については、帝国で専門教育を受けることが義務付けられていた。

誰もが魔法を使えた時代を経て、帝国は数少ない魔力持ちの確保に余念が無い。


貴族であれば、公的な教育を終えた後に15歳から３年間アカデミーで学んだり、家庭教師から指導を受けるというのが主流であった。

キルアーシュでは成人＝16歳と定められているが、婚姻関係を結ぶのは15歳から可能なため、平民では若いカップルも珍しくない。

貴族令嬢たちは社交上必要となる人脈作りもあり…デビュタント後やアカデミー卒業後に婚姻関係を結ぶことが多く、結婚適齢期は20歳までといわれている。


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帝国に属する国のひとつ『リマ王国』。


森林に囲まれた自然豊かな国で、隣国は他種族国家のガンダナ王国である。

リマ王国の賑やかな中心部から少し離れたところに、フィリーライツ子爵家はあった。

大邸宅ではないが…当主のライアン・フィリーライツと一人娘のアドリアナ、住み込みの執事、そして通いの使用人たち…皆で穏やかに暮らしていた。

空がうっすらと赤みを帯びて日が傾きはじめたころ、子爵家の前に馬車が止まり…１人の男がフラフラと降りてくる。


「う………今、戻ったぞ…」


父親ライアンの帰宅に、慌てて側へ駆け寄るのは…一人娘のアドリアナだ。