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いざ、競技会!

第172話 皇子と対峙

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 木々を避けながら、騎士団は進む。その速さに圧倒されながら、光太朗は躍動感を覚えていた。
 初めての単独乗馬だ。しかも自動運転である。快適さと愉しさが溢れてきて、緊張感も吹き飛んだ。

 先ほどからリーリュイは、アゲハと並行して馬を走らせている。そしてアゲハに対して、次々と言葉を放った。

「先頭はキースが務める。絶対にそれより前へ出るな。後方はウルフだ。同じくそれよりも後ろへ下がるな。常に私の後ろを走り、目の届く所を走れ。それから決して、光太朗を落とすなよ」

 馬の姿のアゲハが、光太朗をちらりと見遣った。その真っ黒な目が『面倒くさい』と訴えかけてくる。

『……コタロ。言われずとも解っていると、この過保護な堅物に言ってくれ』
「いいやアゲハ、お前は解っていない。いいか、再度言うぞ……」
「……」

 リーリュイとアゲハは、相変わらず意思疎通が完璧だ。苦笑いを浮かべていると、視界が開けた。
木々がまばらになり、少し拓けた部分がある。そこには数十名の騎士が、こちらの進路を塞ぐように立っていた。

 騎士の先頭にいるのは、一際大きな体躯を持った3人の騎士だ。馬の武具も身体の装備も、他の騎士とは違って豪華なものに見える。
 面倒そうな顔をするのは、今度はリーリュイの番だった。彼は嘆息し、馬を先行させる。

「……光太朗、兄上達だ。……ここにいてくれ」
「わかった」

 初めて見る皇子たちだったが、距離があって顔が見えない。
 せめて声だけでもと耳を澄ませると、王族特有の通った声が響く。しかしその声はリーリュイと違い、圧を含んだものだった。

「よう、不義理な弟よ。……ここから先の土地は、第1から第3騎士団が受け持つ。魔導騎士団は北谷の方へ回ってくれ」
「……当初の指示と違います。軍司令部からの指示でないと、受け入れられません」
「北谷は第4から第8までの管轄だったが、雨で地盤が緩んで危険だ。……弱小騎士団では荷が重いから、お前らが変わってやれって言ってるんだよ。優しい優しい第4皇子様だったら、彼らを放っておけないよなぁ?」
「……」

 皇子から下賤な笑い声が聞こえてくる。普段から彼は、リーリュイにこうした威圧的な態度を示しているのだろう。
 声を聞いているだけで光太朗の苛立ちは募った。不快感に胃をむかむかさせていると、皇子らの声色が変わる。

「そうそう、挨拶をしなければならなかった」

 皇子たちはそう言うと、突然馬を降りた。リーリュイの制止も聞かず、彼らは光太朗に向かって突き進む。

 
 目の前まで迫る皇子らを、光太朗は素早く観察した。リーリュイとはまったく似ていない。
 瞳の色は緑で、髪色はブロンド。共通点はあるが、それぞれ持つ雰囲気は違ったものだった。
 皇子の中の一人が光太朗を見上げ、満足そうに口端を吊り上げる。

「……やはり美しいな」
「……?」
「私はエイダン。この国の第1皇子だ。どうか馬を降りてくれないか?」

(……さっきリーリュイと話してたのはこいつか。じゃあ、このエイダンと似ているのが、弟のマシューだな?)

 光太朗が馬を降りようとすると、エイダンが手を差し伸べてきた。その手を無視して、光太朗は馬を飛び降りる。それを見ていたマシューは、声を荒げて光太朗に噛みついた。

「無礼な奴め! 兄上の手を拒むなど……」
「俺は男なので、補助などいりません」
「っ何!? 貴様……!」


 ____もしも女扱いされたら、蹴っても良い。
 かつてリーリュイが言ってくれた言葉だ。蹴らなかっただけでも上等だろう。
 
 エイダンがマシューを手で制し、光太朗の前に立った。彼らはリーリュイより背が高い。
 身体つきも筋肉質で、威圧感を感じるほどだ。2人とも母が同じだけあって、良く似ている。

 外見だけでは見分けがつかないが、マシューの頬には大きな切り傷があった。それが顔を引き攣らせていて、マシューの方が神経質に見える。

「あなたは騎士だったな、失礼した」
「こちらも、馬を降りず申し訳ありませんでした。なにしろフェンデなので、作法を知らないのです。ご容赦ください」
「何を言っているんだ。あなたは我が国に降りてきた、天からの授かりものだ」

 エイダンが笑みを作り、光太朗に向けて腰を折る。手を掴まれそうになって、光太朗は咄嗟に後退った。その姿を見て、エイダンがクツクツと笑いを零す。

「……本当に、可愛らしい人だ。まるで猫みたいだな。……身体の調子はどうだ? 可哀そうに、リーリュイは幌馬車も用意してくれなかったんだな? 装備もお粗末だ。これじゃあ雨で身体が冷えてしまうぞ?」
「ご心配は無用です。俺は元気だし、あなたが着ているような装飾だらけの装備なんて着たら、重みで潰れてしまいます」
「そう言うな。……そうだ、我が第1騎士団の幌馬車に乗ったらどうだ? あなたは乗っているだけで良い。私の話し相手になってくれ」
「……いいえ、結構です」

(話相手? ピクニック気分か? ったく……)

 煽り言葉が売るほど浮かんできたが、光太朗はぐっと耐えた。皇子たちは怖くないが、リーリュイの仕置きが心底怖い。
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