【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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いざ、競技会!

第151話 相次ぐ選手交代

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◇◇

 王族用の観覧席は、闘技場が全て見渡せる場所にある。
 皇子たちに用意された席の周りには豪華な料理が並び、酌をする為の侍女も側に控えていた。

 第1、第2皇子たちは、見目麗しい侍女に鼻の下を伸ばしている。
 第3皇子であるオーウェンは、少しだけ憂いを含んだ顔で闘技場をぼんやりと見つめていた。

 オーウェンの正室は、少し前から床に伏せっている。元々身体が弱かった彼女だが、いよいよ危ないとの噂があった。
 本来なら、彼女の側にいたい所であろう。しかしそうしないのは『私の事より職務を優先すべき』という彼女の願いがあったからだ。
 加えて彼女は、後に残されるオーウェンとウルフェイルの仲を後押ししている。ウルフェイルが参加する競技会は、必ず観覧するようにと毎年念を押しているようだ。
 

 リーリュイは他の皇子の姿を流し見た後、空になった闘技場を見遣った。

 剣技会に出る光太朗は、控えで準備しているはずである。彼の雄姿をここで見るのは、あまりにも勿体ない。

(……しばらくしたら、騎士団の観覧席に紛れ込むか。酒が入れば兄上らも気付くまい)

 豪華な食事や酒よりも、騎士らと一緒に光太朗の雄姿を応援したい。王族の席より、騎士団の観覧席の方がどれだけ楽しいだろう。
 酌をしに来た侍女を手で制し、リーリュイはまっすぐ虚空を見つめる。その視界の隅に、人影が見えた。

 その人物にリーリュイが眉を顰めると同時に、衛兵が駆け寄って来る。
 
「リーリュイ殿下。……ウィリアム様が、お話があると」
「……直ぐに行くと伝えよ」


 王族の席から少し離れた階段下に、ウィリアムは人目を避けて立っていた。リーリュイを見つけると、彼は親し気に手をひらひらと振る。
 リーリュイは距離を取ったまま、ウィリアムを睨みつけた。
 ウィリアムという男は、本当に読めない。

 リーリュイは幼少期、この男に気を許していた時があった。
 フェブールを母に持つ王宮の兄よりも、左上宮のこの兄の方が、よっぽどましに見えていた時期があったのだ。
 しかし光太朗を傷つけられ、それもすっかり発ち消えた。加えてウィリアムには、考えれば考えるほど疑わしい所が増えていくのだ。

「やあ、リーリュイ。戴冠式以来だね」
「何の用だ」
「……いやあ、君には驚かされたよ。堅い男だとは思っていたけど、まさか真向ど正攻法で突き進んでくるなんて……」

 階段下の壁に凭れて、ウィリアムは肩を竦める。

「皇子らにバレないように、囲って閉じ込めてしまえば良かったのに。公に晒してしまうと、競争相手が増えるじゃないか」
「囲ったら、お前がどんな手を使って奪うか分からない。……敵は増えてしまうが、牽制させ合う方がよっぽど良い」
「おや? 僕の事をよほど買ってくれてるんだねぇ? 嬉しいなぁ」

(良く言う……。王宮のどの皇子より、力も権力も桁違いだろうが……)

 王宮側は、年々衰退して行っている。勢力を伸ばしている左上宮の柱の一つが、ウィリアムと言っていい。
 水面下で力を伸ばし続けている彼らを、王宮側は警戒している。抑制など出来ず、警戒しているだけの現状だ。  

 くすくす笑っていたウィリアムが、人差し指を唇に当てた。

「素直に嬉しかったから、一つ教えてあげるよ。……この後の剣技会の事だ」
「……?」

 壁から背を離したウィリアムが、そっと近寄ってくる。彼はリーリュイに身を寄せると、そっと呟いた。

「さっき競技会役員の所に行ってきたんだけど、剣技会の選手入れ替えが多くて慌てふためいていたよ。前座である剣技会なのに、隊長クラスが続々参加の意向を示している。おかしいと思わないか?」
「……」

 ウィリアムが、目を細めた。少しの昏さを含んだ瞳をしながら、唇は弧を描く。

「君は、ちゃんとコータローの教育をしているのかい?」
「……何だと?」
「開会式前にね、騎士らが衝突したらしいよ。中心に居たのはコータローだ。……彼は対戦する騎士らに、何て言ったと思う?」

 眉を顰めるリーリュイを見て、ウィリアムは肩を竦めた。やれやれといった風に、彼は片眉を吊り上げる。

「コータローってば、『俺に勝ったら、夜の相手をしてやる』って騎士ら全員の前で言っちゃったらしいよ。だから出場予定じゃなかった隊長クラスまで、我先に出場したがってるってわけ。……コータロー弱そうだしね、やる気満々ってとこかなぁ」
「……!」
「もうすぐ競技開始だよ。どーすんの、リーリュイ殿下?」

 ウィリアムの言葉の半ばで、リーリュイは踵を返していた。

 腹の底からふつふつと、怒りと困惑が湧き上がってくる。しかし脳裏に浮かぶ愛しい人は、無邪気な笑顔を浮かべているだけだ。

 光太朗は対戦相手を煽っただけ。そんな事は容易に想像がつく。しかしそれでも、嫌なものは嫌だ。

(まったく君は……! 本当に!!)
 
 駆け足で光太朗の元へ駆けながら、リーリュイは苛立ち気に喉を鳴らした。
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