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いざ、競技会!
第150話 臨戦態勢
しおりを挟む「お前みたいなフェンデが、ウルフェイル様の隣に立つことすら許し難い。……言っておくが、こうして可愛がられているのも、一時的な事だぞ? リーリュイ殿下も直ぐに飽きて、お前をボロ屑みたいに捨てるだろうさ」
「確かに……そうかも知れないなぁ」
光太朗が苦笑いしながら言うと、ディーロは満足げに歪んだ顔を緩めた。そして声を落として、光太朗の耳元で囁く。
「じゃあ、大人しく宿へ帰れよ。それともなんだ? リーリュイ殿下のあれが不満で、今晩の相手でも探しに来てんのか?」
「……」
光太朗のこめかみが、ピクリと動く。苛立ちから、舌打ちも漏れた。
自分のことはまだしも、リーリュイの事を貶めるのは耐え難い。
光太朗がディーロを睨み上げると、彼は驚いたように目を見開いた。
「今晩の相手? 宿に帰れ? なるほどぉ。どうやら隊長さんは、どぉーしても俺に抱かれたいみたいだなぁ?」
「っな!? なにを……!」
「いいよ、抱いてやろうか? 剣技会には出るんだろうな? そこで俺に勝てたら、抱いてやるよ。仕方なくな」
ディーロが小刻みに震え、憤怒で顔を赤くする。
胸倉を掴まれそうになった光太朗は、すばやく後ろへと退いた。光太朗を容易く掴めると思っていたディーロは、空を掴んで身体が前へと傾ぐ。
その様を見て、光太朗は腹を抱えて笑い出した。
「あっはは、がっつくなよ、おっさん!」
「っつ!! きさまぁ!!」
「こらこらコウ、あんま煽んなぁ?」
いつの間にか隣に来ていたキースが、光太朗の頭を小突いた。同時に鋭い視線を、他の騎士団へと向ける。
キースが光太朗を背後に隠すと、ディーロは怒りを露にしながら詰め寄った。
「……キース隊長、そのフェンデは俺を愚弄しました! 許し難い屈辱です!」
「では、競技会でこのコウを打ち負かせばいい。言っておくが、彼は魔導騎士団の中でも屈指の戦士だ。納得できない者は、この弱そうに見えるフェンデを倒してみろ」
「弱そうって……。いや、否定はしないけども……」
光太朗がぼそぼそ言うと、キースから慰めるように頭を撫でられた。しかし尚もキースは続ける。
「剣技会には、俺も副団長も出ねぇ。この弱そうなコウが大将だ。ちょっとは加減してやれよ、コウ」
「……なぁなぁ、班長? 他の騎士を煽ってるよな?」
周りを見渡すと、他の騎士団から闘気が立ち昇っているように見えた。
キースの言う通り、剣技会にウルフェイルとキースは参加しない。リーリュイもだ。
競技会の目玉は、2種目目の魔法技会なのだと言う。剣技会は言わば前座のようなもので、強者は魔法技会に備えて出場しないのだ。
3種目全てに参加するのは、恐らく光太朗だけだろう。
そうこうしているうちに、鉄製の入場門が開いた。騎士らは闘志を燃やしたまま、闘技場へと進んでいく。
キースが振り返り、光太朗の腰にあるポーチに目線を移した。
「開会式が終わったら、そのまま剣技会だ。コウ、その黒いのは置いていけ」
「あ、そうだった」
キースがポーチに手を伸ばと、そこにいたアゲハがポーチを飛び出した。光太朗の身体をよじ登り、首の後ろへと隠れる。
アゲハはいつまで経っても、光太朗以外には懐かない。仕方なく外套の中へ隠すと、頭の中でアゲハの声がする。
『あいつらは、どうしてコタロをわるく言う?』
「あいつら? ああ、他の騎士団のことか。それは俺が、フェンデっていう底辺の身分だからだ。そんな俺が騎士になるなんて、許せないんだろうな」
『……いみがわからない。コタロはいせかい人だろ?』
「うん。そうだけど……俺はこの国に何も貢献できない、不具合転生人だからな」
闘技場に入ると、目の前に王族の観覧席が見えた。
その前に、リーリュイを含む皇子たちと団長がずらりと並ぶ。
しかし装飾が施された王座と、その周りにある3つの椅子には誰も座っていない。
『ふぐあい? ますます分からない。ふぐあいとは、誰がきめた?』
「誰がって……」
王座の前に立つリーリュイは、何の感情もない堅い顔だ。他の皇子は声援に笑って応え、従える騎士らを見て満足げに胸を張っている。
空の王座の近くには、ウィリアムらしき姿も見えた。目を凝らしてみたが、確信は持てない。
(誰がって……ウィリアムが……。いや違う、あいつは今までの傾向から判断してただけだ……)
「……誰だろうな……」
ザキュリオという国は、知れば知るほど解らない部分が増えていく。何かが歪んでいる気がしてならないのだ。
光太朗のぼやけた視界のように、この国は霞んでいる。これを鮮明にするには、国の中枢にまで入っていかなければならないだろう。
(……これ以上知ってはいけない気がするのは……何故だろうな……)
顔を出そうと必死になっているアゲハを押し込んで、光太朗はもやもやで満杯になった溜め息を吐き出した。
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