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いざ、競技会!
第149話 騎士団勢揃い
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◇◇
競技会開会式の日を迎え、王都は熱気に包まれた。
闘技場には、各騎士団から選りすぐりの猛者たちが集まっている。観客席はびっしりと埋まり、闘技場の外にも人が溢れていた。
闘技場の入場門を前に、各騎士団がずらっと並ぶ。光太朗は魔導騎士団の列に並び、アゲハの耳を揉みながら感嘆の声を上げる。
「すっげーな、アゲハ。映画みたいだ」
『えいが? なんだそれは?』
黒豆柴のアゲハが小首を傾げる。その様が可愛くて、光太朗はアゲハの額をするりと撫でた。
目の前に広がる光景は、まるで映画のようだ。コロシアムのような闘技場は、前世で目にした朽ちた遺跡ではなく、雄々しく息づいていた。
観衆の歓声が地面をも震わせて、その振動が騎士らの闘気を昂らせていく。
光太朗は騎士らを見ながら、前に並ぶキースを指で突く。
「なぁ、班長。どれが第1騎士団?」
「……あの右奥の前列だ。目つきの悪りぃ三白眼が、隊長のトラバート」
右奥に視線を遣ると、すらりと背の高い男が見えた。灰色の長髪を後ろへ流し、きっちりと結っている。三白眼を鋭く細め、彼は闘技場を睨んでいた。
遠くから見るだけでも、気配と佇まいで彼が強者だと分かる。
「隊長ってことは、第1班の班長って事?」
「他の騎士団は班分けがねぇから、班長とは呼ばねぇなぁ。ちなみに副団長っていうポストも、今はあまり聞かねぇな。魔導騎士団の規模がでかいだけだ」
「ウルフ、ぼっちじゃん」
「へぇへぇ。ふわっとした役職だってことは、俺が一番分かってるわ」
隣にいたウルフェイルが、肩を竦める。光太朗は彼に身体をぶつけながら、声を上げて笑う。
「あっはは、冗談! あんたのガタイでふわっとは無いだろ!」
「失礼な。にしても、コウは元気だな」
ウルフェイルから頭をわしわし撫でられ、光太朗は苦笑いを零す。
自覚はあった。他の騎士団がぴりついている中、自分だけが浮ついている。
考えてみれば、人生初めて臨む大イベントだ。緊張など飛び越して、光太朗はこの状況を愉しんでしまっている。
光太朗の笑い声に、他の騎士団から鋭い視線が飛ぶ。それを魔導騎士団が睨み返すと、どこからともなく声が上がった。
「天下の魔導騎士団が、役立たずのフェンデなんて連れて来やがって。競技会の最中でも、ヤろうってんじゃねぇだろうな」
「てめぇ、今なんつった!?」
光太朗の後方から、怒気を孕んだ声が飛ぶ。魔導騎士団の1班の騎士たちだ。
競技会に選ばれた騎士は、殆どが第1班だった。普段光太朗と訓練を共にする1班の騎士は、彼に侮蔑の目を向ける者たちに怒りを露わにする。
魔導騎士団以外の者たちは、光太朗に対しにやにやと下賤な笑みを浮かべていた。
「競技会を前に、呑気に笑ってやがるんだ。戦士としての闘志も感じないし、ここに戦いに来てるんじゃないんだろ? お勤め開始まで、大人しく寝台の上で待っておけよ」
どっと低劣な笑い声が、各騎士団から起こり始めた。
今は禁止になったものの、フェンデが騎士らの慰み者だった歴史はまだ新しい。彼らにとってフェンデは、組み敷く存在でしかないのだ。
彼らにしてみれば、そんなフェンデである光太朗が騎士団に所属するという事自体が気に入らないのだろう。
隣に立っていたウルフェイルが一歩進み、舌打ちを零す。周りの空気がぴんと張り詰め、一気に静まり返った。
「今、誰が発言した? 名乗れ」
「自分です。……俺は何も間違ったことを言っていません」
体格の良い騎士が前へと進み、ウルフェイルの前で敬礼する。
短髪赤毛の男で、瞳は薄い緑色だ。王族の血が流れているのかもしれない。
「オーウェンが受け持つ第3騎士団隊長の……ディーロだな? オーウェンは騎士じゃねぇから、お前が実質団長みたいなもんだろ? 今の発言を、恥ずかしくは思わないのか?」
「ウルフェイル様。そのフェンデと親しくされるのは、お止めになったほうが良いかと思います。誇り高き騎士であるあなた様が、フェンデと戯れるなど耐えられない。……オーウェン殿下も、きっと同じ意見であるはずです」
言い合う2人を見上げて、光太朗は首を傾げた。
(確か……第1から第3の騎士団って各皇子が受け持つんだっけ? そうか第3皇子は……ウルフの伴侶だって言ってたな……)
光太朗は、珍しく真面目な顔をしているウルフェイルを見る。
光太朗の中で、ウルフェイルの身分は謎だった。
皇子であるリーリュイに比べ、彼の身分はかなり曖昧だ。本人も『俺の身分は、ちょっと複雑』と、光太朗には詳しく教えてくれなかったのだ。
「ウルフって、やっぱり偉かったんだな」
「ああ? 偉くねぇよ。オーウェンが偉いだけだ。っていうかコウ、もっと怒っていいぞ」
ウルフェイルはそう言うと、いつものように光太朗の頭を撫でる。表情もいつもの朗らかさに戻っているが、この切り替わりの速さが大物の証なのかもしれない。
(とはいえ、怒れと言われてもなぁ……。俺が浮ついてたのは確かだし……)
光太朗がディーロを見上げると、彼は片頬を吊り上げた。笑みにも見えるが、酷く歪んで歪だ。
ディーロは少し腰を落とし、光太朗と視線を合わせた。
競技会開会式の日を迎え、王都は熱気に包まれた。
闘技場には、各騎士団から選りすぐりの猛者たちが集まっている。観客席はびっしりと埋まり、闘技場の外にも人が溢れていた。
闘技場の入場門を前に、各騎士団がずらっと並ぶ。光太朗は魔導騎士団の列に並び、アゲハの耳を揉みながら感嘆の声を上げる。
「すっげーな、アゲハ。映画みたいだ」
『えいが? なんだそれは?』
黒豆柴のアゲハが小首を傾げる。その様が可愛くて、光太朗はアゲハの額をするりと撫でた。
目の前に広がる光景は、まるで映画のようだ。コロシアムのような闘技場は、前世で目にした朽ちた遺跡ではなく、雄々しく息づいていた。
観衆の歓声が地面をも震わせて、その振動が騎士らの闘気を昂らせていく。
光太朗は騎士らを見ながら、前に並ぶキースを指で突く。
「なぁ、班長。どれが第1騎士団?」
「……あの右奥の前列だ。目つきの悪りぃ三白眼が、隊長のトラバート」
右奥に視線を遣ると、すらりと背の高い男が見えた。灰色の長髪を後ろへ流し、きっちりと結っている。三白眼を鋭く細め、彼は闘技場を睨んでいた。
遠くから見るだけでも、気配と佇まいで彼が強者だと分かる。
「隊長ってことは、第1班の班長って事?」
「他の騎士団は班分けがねぇから、班長とは呼ばねぇなぁ。ちなみに副団長っていうポストも、今はあまり聞かねぇな。魔導騎士団の規模がでかいだけだ」
「ウルフ、ぼっちじゃん」
「へぇへぇ。ふわっとした役職だってことは、俺が一番分かってるわ」
隣にいたウルフェイルが、肩を竦める。光太朗は彼に身体をぶつけながら、声を上げて笑う。
「あっはは、冗談! あんたのガタイでふわっとは無いだろ!」
「失礼な。にしても、コウは元気だな」
ウルフェイルから頭をわしわし撫でられ、光太朗は苦笑いを零す。
自覚はあった。他の騎士団がぴりついている中、自分だけが浮ついている。
考えてみれば、人生初めて臨む大イベントだ。緊張など飛び越して、光太朗はこの状況を愉しんでしまっている。
光太朗の笑い声に、他の騎士団から鋭い視線が飛ぶ。それを魔導騎士団が睨み返すと、どこからともなく声が上がった。
「天下の魔導騎士団が、役立たずのフェンデなんて連れて来やがって。競技会の最中でも、ヤろうってんじゃねぇだろうな」
「てめぇ、今なんつった!?」
光太朗の後方から、怒気を孕んだ声が飛ぶ。魔導騎士団の1班の騎士たちだ。
競技会に選ばれた騎士は、殆どが第1班だった。普段光太朗と訓練を共にする1班の騎士は、彼に侮蔑の目を向ける者たちに怒りを露わにする。
魔導騎士団以外の者たちは、光太朗に対しにやにやと下賤な笑みを浮かべていた。
「競技会を前に、呑気に笑ってやがるんだ。戦士としての闘志も感じないし、ここに戦いに来てるんじゃないんだろ? お勤め開始まで、大人しく寝台の上で待っておけよ」
どっと低劣な笑い声が、各騎士団から起こり始めた。
今は禁止になったものの、フェンデが騎士らの慰み者だった歴史はまだ新しい。彼らにとってフェンデは、組み敷く存在でしかないのだ。
彼らにしてみれば、そんなフェンデである光太朗が騎士団に所属するという事自体が気に入らないのだろう。
隣に立っていたウルフェイルが一歩進み、舌打ちを零す。周りの空気がぴんと張り詰め、一気に静まり返った。
「今、誰が発言した? 名乗れ」
「自分です。……俺は何も間違ったことを言っていません」
体格の良い騎士が前へと進み、ウルフェイルの前で敬礼する。
短髪赤毛の男で、瞳は薄い緑色だ。王族の血が流れているのかもしれない。
「オーウェンが受け持つ第3騎士団隊長の……ディーロだな? オーウェンは騎士じゃねぇから、お前が実質団長みたいなもんだろ? 今の発言を、恥ずかしくは思わないのか?」
「ウルフェイル様。そのフェンデと親しくされるのは、お止めになったほうが良いかと思います。誇り高き騎士であるあなた様が、フェンデと戯れるなど耐えられない。……オーウェン殿下も、きっと同じ意見であるはずです」
言い合う2人を見上げて、光太朗は首を傾げた。
(確か……第1から第3の騎士団って各皇子が受け持つんだっけ? そうか第3皇子は……ウルフの伴侶だって言ってたな……)
光太朗は、珍しく真面目な顔をしているウルフェイルを見る。
光太朗の中で、ウルフェイルの身分は謎だった。
皇子であるリーリュイに比べ、彼の身分はかなり曖昧だ。本人も『俺の身分は、ちょっと複雑』と、光太朗には詳しく教えてくれなかったのだ。
「ウルフって、やっぱり偉かったんだな」
「ああ? 偉くねぇよ。オーウェンが偉いだけだ。っていうかコウ、もっと怒っていいぞ」
ウルフェイルはそう言うと、いつものように光太朗の頭を撫でる。表情もいつもの朗らかさに戻っているが、この切り替わりの速さが大物の証なのかもしれない。
(とはいえ、怒れと言われてもなぁ……。俺が浮ついてたのは確かだし……)
光太朗がディーロを見上げると、彼は片頬を吊り上げた。笑みにも見えるが、酷く歪んで歪だ。
ディーロは少し腰を落とし、光太朗と視線を合わせた。
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