【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
上 下
136 / 248
戦いに向けて

第133話 突然始まった堅いお話

しおりを挟む

 光太朗が浴室から出ると、リーリュイは立ったまま髪を拭っていた。
 ソファの前にあるテーブルには、既に料理と酒が準備されている。

「おお、美味そうだな」
「……ああ、そうだな……」

 リーリュイは光太朗を見て、直ぐに視線を逸らす。その様子が気になったが、それよりも彼の顔が真っ赤なことに光太朗は驚いた。

「顔、真っ赤だぞ! どうした?」
「問題ない。普段、湯には浸からないからだろう……」
「つっても、そんなに浸かってないだろ? 酒飲んでたし、悪酔いでもした?」
「そうかもな。……飲みなおそう。迎え酒だ」

 リーリュイに促され、光太朗はソファへと座る。

 そしてリーリュイは、何かを誤魔化すように酒を煽り始めた。その勢いに唖然としながら、光太朗は彼のグラスに酒を注ぐ。

 飲み過ぎではないかと不安になったが、リーリュイの表情はいつもと変わらない。赤みも治まってきている。
 光太朗が肉の燻製を口に放り込んでいると、リーリュイが真面目な顔で口を開く。

「……この宿は、王家が所有しているものだ。君はこの宿をどう思う?」
「どうって……すげぇ豪華だと思う。そうか、王家の宿だったんだな。ザキュリオの財力は凄いな」
「そうでもない。国力は年々衰え、国民もリガレイア国へ流れて行ってしまっているんだ」

 リーリュイはまた酒を飲み干す。光太朗はちびちびと酒に口を付けながら、彼の話に相槌を打った。

「資源である晄露は減り続け、国民への搾取が増え続けている。贅を享受しているのは王族だけ。国民は貧しさに喘いでいる」
「……確かに。そういえば、ランパルも王族の領主に搾取されていたな」
「ロワイズも変わらない。少し郊外へ行けば、貧しい民が暮らしている。……我が国は、王の血筋が増えすぎた。民を苦しめる比率が、どんどんと増えていく。今や王族は、単なる穀潰しにしか過ぎない」
「……い、言うねぇ」

 遂にリーリュイは、手酌で酒を注ぎ始めた。光太朗が慌ててその手を掴む。

「ま、待て。飲むのは良いけど、何か腹に入れろ」
「リガレイア王がフェブールだという事は、以前言ったよな?」
「うん、聞いたけど……俺の話聞いてる?」
「うん」
「……うん?」

 真面目な顔で「うん」と答えるリーリュイを見て、光太朗は確信した。
 彼は酔っている。それもかなり。
 少なくとも風呂では酔っていなかったはずだ。いつの間に、こんな状態になったのか。

 光太朗は笑いながら、リーリュイの口の前に肉の燻製を差し出した。
 彼は素直に口を開け、肉を咀嚼する。そして飲み込むと、また口を開く。

「リガレイア国は200年ほどの歴史があるが、フェブールは王一人だけだ。そして驚くことに、リガレイア国にはフェンデが存在しない。そもそもフェンデは、我が国にしか居ないんだ」
「……そうなのか? 何でだろ……」
「多分……リガレイア国は、合格したんだ」
「……ご、合格?」
「うん」

 また「うん」が出て、光太朗はつい吹き出す。リーリュイは至極真面目な顔をしているので、笑い出すのは避けた。
 しかし吹き出す光太朗を見ても、彼は口元に薄い笑みを浮かべるだけだ。その顔はどこか幼くて、可愛らしいとさえ思ってしまう。

「合格って、誰から?」
「神だ。リガレイア国はフェブールを授かり、一人目で合格した。今やその国力は、この世界で群を抜いている。我が国は4人も下賜されながら、未だ未熟のままだ。きっと、選択を誤り続けているのだと……私は思う」
「う~ん……リュウの父ちゃん、あんまり良い王様じゃないのか?」
「……うん」

 リーリュイはこくりと頷き、また酒を飲み干す。真面目な話をしながら、やはりどこか様子がおかしい。

(駄目だ、もう笑っちゃえ。……可愛いリュウを堪能しよう……)

 光太朗はトマトのような野菜を手に取り、リーリュイへと差し出した。しかし彼はそれを見ると、プイと顔を背ける。そして「……食べない」と小さく呟く。
 光太朗は緩み出す口元を、慌てて押さえた。

「……なーるほどぉ。リュウはこの野菜が嫌いなんだな? かーわいい」
「さて置いて、話を続ける」
「っはは。はいはい、どうぞ」

 光太朗はリーリュイに近づき、彼の好きそうな食べ物を見繕った。用意された料理は多彩で、食材も多く使われている。
 それをちょいちょいとリーリュイの口元に運ぶと、見事に好き嫌いが分かれた。彼は意外な事に偏食家のようだ。


「フェブールが来る前は、父上は賢王だったらしい。ザキュリオは小さな国だったが、民は飢えることなく幸せに暮らしていた。……フェブールが来てから、父上は変わったんだ。フェブールの力に狂い、更に求めた」
「確か、3人のフェブールを手中に収めたんだっけ? あと一人は?」
「3番目のフェブールは男だったんだ。父上は、初めての子であるオリビア様に彼を譲った。4番目のフェブールが、私の母だ」

 光太朗は頷きながら、皿の上の魚を切り分ける。するとそこにリーリュイの手が伸びた。
 光太朗の手を掴み、リーリュイが悩まし気に顔を歪める。

「フェブールは、王家から逃げられない。……君がフェブールだったらと思うと……怖い。でも私は、決して負けないと決意した」
「……」
「君を、兄上達に渡したくない」
「……リュウ?」

 リーリュイから肩を掴まれ、ソファの上へ静かに押し倒される。
 上から見下ろすリーリュイは、泣き出しそうな表情を浮かべ、光太朗を見据えていた。

 押し倒されていても、相手がリーリュイなら恐怖を感じない。冷静に状況を判断していた光太朗だったが、ある事実に気付いた。

 光太朗の太腿に、硬いものが当たっている。それは考えるまでもなく、それはリーリュイの欲情している証だ。
 静まっていた心臓が、大きく跳ね上がる。

 『そんなはずが無い』と逃げようとする自分がいる。しかしリーリュイの顔は、まるで懇願するように光太朗を見下ろしている。
 そんな彼を前にして、逃げることなどできない。
 
 ごくりと喉を鳴らし、光太朗は口を開いた。

「あん、たは……俺を、抱きたいと思うのか?」

 つっかえながら放った言葉は、自分が思うよりも小さかった。しかしリーリュイはその言葉を拾い、くしゃりと顔を歪める。

「……君が……気持ちを受け入れてくれるまで……待つ」
「……リュウ……」
「絶対に、待つ」

 リーリュイはそう言うと、耐えるように唇を噛んだ。光太朗から身体を離し、ソファから降りる。

「……酔いを、覚ましてくる」
「……うん……」


 光太朗は天井を見上げながら、リーリュイの足音が遠ざかっていくのを聞いた。

(そうか。そういう事か……。だから、風呂にも……)

 光太朗はすんと鼻を鳴らし、腕で鼻を覆った。
 耳まで真っ赤になっていくのが、自分でも分かる。分かりやすい反応に、我ながら笑いが漏れた。

(なんだよ、これ……。そうか、俺……嬉しいのか……)

 リーリュイと想いは繋がったとしても、身体の繋がりまでは考えていなかった。
 しかし彼が自分に欲情したという事実は、素直に嬉しい。これまで自分に欲情する男は数多くいたが、彼らには嫌悪感しかなかった。

 あれだけ泥酔した状態でも自制した彼を想うと、頬がとろけて落ちるくらい緩んでしまう。

 リーリュイにとっては、一時の戯れなのかもしれない。それでも良いくらい、彼に惹かれている。
 この国であと何年生きられるか分からないのだ。一瞬でもリーリュイの何かになれる事は、心から嬉しかった。

 光太朗は立ち上がって、リーリュイの後を追う。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...